第51話 とある技術者の日常

 あれから数日が過ぎ、開発は順調に進んでいた。

 今日は定期確認会でいつもの三人が俺の家に集まっている。

 定期確認会といって、当初の名目は個々で開発した内容をより洗練するための意見交換会であったが、実際はお茶会となっている。

 ぼっちで開発していた頃を思うと、良い意味でも悪い意味でも奇跡的な環境の変化だ。

 あたりはうす暗くなり、夕刻を告げる。


「恭介たんおなかすいたー」


 この中で一番年長で見た目が幼い誉ちゃんが叫ぶ。

 誉ちゃんの発言にすかさず凛さんが、


「だーかーら。たんはやめなさい、たんは……」


 はたから見るとお姉さんが妹を叱っているように見えるんだよな……


「凛おねーさん、そのやりとり何回目ですか?」


 一番実年齢が若いねねが疑問符をなげかける。


「はぁー。病気だとおもって我慢するわ」


「そうそう、病気だとおもって諦めなさいっ」


「うぅ……」


 腑に落ちないようだが大人な凛さんが折れるかたちで話は終結する。

 これはいつもの光景、だけど俺は誉ちゃんに切に願うお願いだからまわりのヘイト買うのはやめてくれと。

 ぱんっと手をたたき、凛さんは仕切りなおす。


「そうね、あっもうこんな時間。ねねさん時間大丈夫?」


「はいっ。遅くなるって伝えてありますし、おにいさんが望むならお泊りでもいいですよん♪」


「おいっ、ねねさらっとすごいこといったけど、お泊りは絶対ありえないよ」


「えーなぜですか?」


「なぜって、俺は望んでいないし、駄目なものは駄目なの」


「えーけちぃー。あたしとおにーさんの仲じゃないですかぁー」


 またまたねねが突拍子もないことを言い出す。

 誉ちゃんと凛さんがぴきっと逆立つのを感じ、すかさす俺は、


「おい。あまりあることないこと言わないでくれ、俺の寿命を縮めたいのか?」


「あっ、それおもしろいですねー」


 全然おもしろくないよ。

 俺の命をなんだとおもってるんだ。

 俺の困っている姿をみて、仕方ないわねと、こほんと息をつき凛さんが、


「ちょっと話もどすわね。それじゃあ、私がお夕飯をつくろうかしら」


「凛の手料理? 毒もらないでよね」


「もるわけないでしょ!!!」


「二人とも本当仲良くなったね」


 俺がそう言うと、


「「どこがよっ」」


 まさにシンクロ、息ピッタリである。

 誉ちゃんと凛さんは水に油といった感じで、はじめはぎくしゃくしていたが開発を進めるなかで、

 お互い認め合ったのか温和になったような気がする。


「凛おねーさん、誉ちゃん、あたし是非食べてほしいものがあるんですが……」


 ねねの提案に全員が注目する。

 なぜなのかはわからないが背筋に悪寒が走る。

 まさかお寿司屋さんて……


「ねね、今日は凛さんにご馳走になろう。そうしよう。じゃ」


 そう言ったところで、凛さんが遮ってくる。


「いいじゃない。恭ちゃん。聞いてみましょう。ねねさんのお勧めって何なの?」


「すっごくおいしいお寿司さんがあるんですよ。ぜひお二人にも食べて欲しいです」


「そうね。せっかくだから今日はお寿司にしようかしら」


 凜さんの意見に誉ちゃんも同意する。

 これで俺以外の全員がお寿司に賛成した。

 もう、これは覆すことはできない。

 あとは希望的観測になってしますが、「お寿司屋さんはあそこだけではない」ということだ。


「じゃあ、あたしが注文しますね」


 心の底から切に願う。

 あのお店だけはやめてくれっ。


「もしもーし。あっ可愛です。よく、あたしの声わかりましたね。えへへ。はい。お寿司お願いします。いつもの特上で。場所はですね。今日はこちらにもってきてもらえますかー?」


 なんかなじみのあるやりとりだ。

 これは絶望的か……いや、まだあきらめちゃいけない。

 ねねはきっとお寿司好きでいろいろなお店の常連なのだ。


 それから三十分ほどして、お寿司が届くことになるのだが……

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