第50話 対峙(その3)

 え!? なに!? 今ミスターX!?っていった? どういうこと!?


 その言葉は俺を混乱させるのに十分だった。

 俺の戸惑っている姿がおもしろかったのか、誉ちゃんはくすっと笑う。

 疑問符が頭をかけめぐり、混乱はさらに深く渦巻いていく。


 まさか誉ちゃんがミスターXというのか?

 誉ちゃんほどの技術者ならば俺のPCから要件定義書を盗み、スマホをハックすることは容易だろう。

 しかしこのタイミングで告白するか? 正体をあかして何のメリットがあるというのか……


「恭介たん、何を考えているの?」


「何をって?」


 そんなの決まっている。


「あたしのことミスターXだって考えてるんでしょ?」


 そうだよ。

 誉ちゃんのことをミスターXって思ってるよ。

 だって、ミスターXのことは俺とミスターX本人しか知りえないことだ。


「恭介たん、安心してあたしは恭介たんの敵じゃないから」


 ん? どういうこと?

 ミスターXは敵じゃなかったってこと?

 いやいやそんなはずはない。

 俺にエッチな要求をことごとくしてきたミスターXが味方なわけがない。


「えっ 敵じゃないって、誉ちゃんが何をいっているのか俺にはさっぱりわからないよ」


「嘘ばっかり。ミスターXのことですごく、すっごく困ってるでしょ?」


 そうだよ。

 今も絶賛困り中だけどね。

 しかし、うーん、まさかと思うけど誉ちゃんはミスターXではないのか?


「あ、あの……誉ちゃんは本当にミスターXじゃないの?」


「だから違うって。だってそんなださい名前つけないし」


 たしかに、ミスターXって独特な名前で決してかっこいいものではない。


「あとね、ミスターXにはあたしのことは知られてないから安心してね」


 ミスターXのことを他人に知られたら即ゲームオーバーなので、ありがたいのだが。

 しかし誉ちゃんの言葉は信じたいけど、すべてをうのみにするわけにはいかない。

 仲間と認識させて内部に紛れ込もうとしている可能性も少なくない。


「わかった。一旦誉ちゃんのこと信じるよ。だけどなんでミスターXのことを知ってるの?


「あたしを誰だと思ってるの?」


「え?」


「世界一のハッカーよ」


「そのハッカーがあなたのことをみていたのよ。なんでもお見通しなんだから」


「ちょっと怖いんだけど」


「あたしが本気になったらプライバシーなんてないとおもいなさいっ」


「わ、わかったから、お手柔らかにしてください」


 誉ちゃんには別れの挨拶をしにきたのに、変な方向に話が進んでいる。

 本人はミスターXでないといいはっているが、確証がとれないから無下な扱いはできない。


「それで、誉ちゃんはどうしたいの?」


「あ、あたしは恭介たんの近くにいたい」


「だけど、そのことは……」


「あたしは恭介たんの力になりたいだけなの、もちろんミスターXのことは秘密にするわ」


「秘密にしてもらえるのはありがたいけど、力になりたいって?」


「あ・た・しをあなたのチームの仲間にしなさいってこと」


「えっ、仲間ってまさか……」


「だ・か・ら開発案件の手伝いをしてあげるって言ってるのよ」


「だけどプロとして活動している誉ちゃんにお願いできないよ」


「いいの、恭介たんの力になりたいだけだから。いいわねっ」


 力強く俺に懇願する誉ちゃん。

 誉ちゃんほどの技術者に手伝ってもらえるのはとてもありがたく、如月さんのことはあったけど、誉ちゃんも反省していることだし、様子をみることにした。


 というわけで、誉ちゃんが俺の開発を手伝ってくれることになったのである。

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