第49話 対峙(その2)

 生徒会長室に入り、中を見渡すと誉ちゃんがちょこんと生徒会長席に座っていた。

 いつもの満ち足りた表情はなく、どことなく不安そうに見える。

 生徒会長は俺をみるやいなや、主人を心待ちにした子犬のようにすたすたと俺の目の前まで歩みよった。

 そしてか細い声で「恭介たん」と言った。

 その後に続く言葉はなく、俺の顔をみるや目線を外し、手のひらをぎゅっとにぎっている。

 それからお互い中々言葉を発することができず、時間だけが過ぎて言った。

 それから数分が経ち、


「誉ちゃん」


 沈黙を破ったのは俺だった。

 俺が何のためにここにきたのか、俺は誉ちゃんにちゃんと言わないことがある。

 俺の意思を感じとったのか、誉ちゃんはおそるおそる俺のほうに目線をあげた。

 誉ちゃんの表情をみると至極不安そうである。

 そんな目で見られたら、せっかくの決意が崩れてしまう。

 俺はぐっと誉ちゃんへの感情を抑え、


「俺は誉ちゃんに言わないといけないことがある」


 俺がそう言うと、誉ちゃんは静かに小さく頷く。


「どうして如月さんにあんなことを言ったの? 俺との約束もやぶったし」


「そ、それは……」


 つまりがなら誉ちゃんが答える。

 そして続けて、


「恭介たん。怒ってる? 怒ってるよね? 恭たんとの約束……やぶったしね」


「うん」


「……そうだよね」


 その声は今にも泣きだしそうで、俺はとてつもない罪悪感に襲われた。

 でも今日みたいなことが二度とおこらないように俺の意思を誉ちゃんに伝えないといけない。


「だから、俺は誉ちゃんにもう会わないって伝えにきたんだ」


「うぅ……恭介たんにせっかく会えたのに……会えなくなるなんて……やだ」


「俺だってこんなことは言いたくなかったけど……」


「やだ……やだもん……恭介たんのばかぁ。ちゃんと謝ろうと……思って……たのに……」


 そう言うと誉ちゃんはその場に崩れ去り、とうとう泣き出してしまった。

 俺だって誉ちゃんと会えなくのは嫌だけど、俺と如月さんの邪魔をするなら……天秤にかけるようで嫌だけど……俺は如月さんと約束したから……


「あんなことを言うつもりはなかったの……恭介たんと約束したから……ただ、二人の楽しそうな姿をみていたら、すごく胸が苦しくなって、どうしていいかわからなくなって……」


「どうして俺なんか……」


「あたし、恭介たんに救われたから」


 救われた?

 俺と誉ちゃんが出会ったのは最近だ。

 だから救った記憶など毛頭ないのだが。


「約束破ったのは本当にごめんなさい。だからもう会わないなんて言わないで」


「だけど」


「あたし、恭介たんの役にたつよ。今までだって」


「今まで?」


 俺の言葉に両手で口を押える誉ちゃん。

 なんだ、誉ちゃんは何かを隠しているのか?


「誉ちゃん? 今までってどういうこと?」


「ごめん、それは言えない」


 やっぱり誉ちゃんは何かを隠しているようだ。


「俺が誉ちゃんに何かしてもらってたってことよだね?」


「いくら恭介たんでも、これ以上は……」


 そう言うと、誉ちゃんは口をつぐんだ。

 過去に何かあったのか聞きたかったが、これ以上は難しそうだ。


「過去に何があったのかわからないけど、やっぱり俺は誉ちゃんとは……」


 俺がそう言うと、誉ちゃんは、


「わ、わかった。きっとこれを言えば恭介たんの考えが変わるはず」


「どういうこと?」


「ミスターX」


 誉ちゃんはただ一言、それだけを言い放った。

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