第48話 対峙
凛さんとここで遭遇したことに俺は至極動揺していた。
俺達以外に校舎裏に人がいるわけがないからである。
俺がそう思うのも、この場所は一般の生徒達に解放されていない。
逆に俺と如月さんこの場所にいる理由はミスターXから『如月さんとゆっくり過ごす』為にと用意された為である。
そう考えると、ミスターXは本当何物なのだろうか。
そして誉ちゃんにいたっては、俺にGPSをつけて位置情報を監視し、生徒会長権限で男子トイレであろうがどこでも現れる特殊スキルを持ち合わせている。
ある意味無敵だよね。
と、考えていても仕方ない。
これ以上凛さんに心配かけたくないし、俺は事の顛末を凛さんに正直に伝えることにした(もちろん言える範囲でだが)。
すると「ふぅーん、そうなんだ。生徒会長が恭ちゃんをねー」と半目で俺のことをみる凛さん。
あれ?
この目は俺のことを信用してない。
俺は自分でもてないことは百も承知だが、一つくらいいいところはある。
誉ちゃんはきっとそんな俺のごくまれな一部に惹かれてくれた貴重な存在なのだろう。
それに一緒にいる誉ちゃんが否定していないんだぞ。
俺の言葉の信憑性も増すというものだ。
俺は凛さんに疑問を問うた。
「凛さん、まさかだけど、俺の事疑ってる?」
「うーん……だって、ねぇー」
凍てつくような凛さんの返答。
まるて俺がうそつきのような言い草だ。
今回は生徒会長こと、誉ちゃんもいる。状況証拠は揃っているのだ。
どこに疑う余地があるというのか。
よし、それなら誉ちゃんに協力してもらうしかない。
誉ちゃんなら俺の願いを聞いてくれるだろうし、生徒会長である誉ちゃんの言葉なら凛さんも信じてくれるはずだ。
そう思って、俺は「生徒会長からもなんとか言ってくださいよ」と言いながら誉ちゃんの方へ振り向いた瞬間。
俺は石化した。
「あ、れ?」
心の声が思わず漏れる。
誉ちゃんがいない……え、どうして?
俺が固まっていると、間髪入れず凛さんがつっこんでくる。
「恭ちゃん!!! どういうことかな? 説明して!!!」
「はいっ」
凛さんが怒るのも至極当然だし、これまでの凛さんの俺への不信感にも納得ができた。
俺の理論を根拠づける誉ちゃんがいないのだから。
これじゃあ、俺はオオカミ少年である。
それにしても、なぜ生徒会長がこの場から消えたのだろうか……
俺は頭の中が整理できず、しどろもどろになりながら凛さんへ、
「あれ……さっきまで一緒にいたはずなんだけど、一瞬で消えるなんて生徒会長なだけはあるなーあはは」
と言うと、凛さんは、
「意味わかんない」
と、冷たく言い放つ。
当たり前の反応だよね……
俺でさえこの状況信じられないのに、凛さんに信じてもらうおうなんて無理がある。
しかし、しばらくの沈黙の後、凛さんは何かを悟ったような仕草をし、
「もう、いいわ。恭ちゃんの話信じるわ」
と言った。
俺は「へ? 急にどうしたの?」と戸惑いながら言う。
「いいの、いいの。この話はおしまい」
「そ、そっか。よかった。わかってくれたんだね(なぜだ……)」
俺の心配をよそに凜さんからの意外な言葉。
この急展開、当事者の俺がついていけないのだが、まぁいいか。
この波にのるしか俺の助かる道はない。
「そ、そういえば、凛さんこそどうしてここに?」
「私がここにいる理由は……」
凛さんがそう言った後、視線を逸らし。
「そんなことどうでもいいじゃない。如月さんをそのままにしておけないわ」
話を逸らされた感はあるが、凛さんの言うように如月さんをこのままにしておくわけにはいかない。
「そうだよね……でも、どうしたら……」
「それなら保健室につれていきましょう」
それは俺を導く神のような一言だった。
さすが凛さん頼りになる。
俺は凛さんの提案を承諾した。
その後、俺と凛さんは如月さんを保健室へ連れていった。
凛さんはてきぱきと如月さんを介抱しベッドへ寝かしつけてくれた。
本当に頼りになる存在だ。
今は、如月さんの前に俺と凛さが並んで座っている。
俺は凛さんに素直な気持ちを伝える。
「ごめん、なんか巻きこんじゃって……」
「ううん。いいのよ」
声色こそいつもの凛さんだったけど、少し寂しそうな表情をした気がした。
正直お風呂事件もあったし、凛さんを如月さんと関わらせたくなかったのだが……
もちろん助けてもらった事はとてもありがたい。
凛さんが俺との関係を大切におもってくれていることはすごく伝わったし、俺も凛さんのことを大事な人だと思っている。
だから、凛さんに俺と如月さんの関係を偽っていることがとても心苦しかった。
その気持ちはどんどん大きくなる。
そして、
「あのね……」
「どうしたの? 恭ちゃん」
「実は……」
と俺が言いかけた瞬間、スマホにメッセージがきた。
俺はそのメッセージによって我にかえる。
危うく凛さんに全てを話しミスターXとの約束を破るところだった。
俺は凛さんに断ってから、スマホのメッセージを確認すると送信者は誉ちゃんだった。
『落ち着いたらでいいんだけど、生徒会長室まできてくれる?』
急に消えたり、呼び出したり誉ちゃんは一体どういうつもりなんだ!
俺の様子を見て、凛さんが心配な表情で、
「どうしたの? 恭ちゃん?」
「いや、なんでも……」
「でも。誰かから連絡がきたんでしょ? 大丈夫なの?」
「うん。ちょっと呼び出しがきたんだけど……だけど……」
凛さんにこれ以上迷惑かけるわけにはいかないし、そもそも如月さんが気絶したのは俺の責任だし……
「恭ちゃん、また何かトラブルに巻き込まれているじゃない? ここは私が見ているから恭ちゃんは安心していってきて」
その声に後押しされ、
「凛さん。何から何までありがとう。この埋め合わせはどこかでするから」
「そんなこといいのよ、恭ちゃんいってらっしゃい」
「行ってくるね」
そう言って、俺は保健室を出て、生徒会長室へ向かった。
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