第46話 トランス

「生徒会長一体どうして、ここに?」


「ちょっと通りがかったら、あなたが見えたから」


 嘘だ。

 ここは校舎裏だよ。

 どんな用事があればこんなところを通るんだよ。

 構内回りでもしていたのか?

 であれば生徒会長の仕事ではなく、風紀委員が担当するだろう。

 とはいっても、なんとなくいつか来るような気がしていたが、まさかこんな時期早々だなんて。

 如月さんには、昨日のことまだ話していないし、それに美少女投票システムのことも話されたくない……

 誉ちゃんは如月さんへ向かって、


「如月さんに話しておきたいこともあったしね」


 状況をつかみとれなく、疑問符を浮かべる如月さん。

 思い出したかのように生徒会長が俺をみて、


「そういえば昨日は来てくれてありがとう」


「えっ、あっ。それは全然いいんですけど、生徒会長」


「また言った。生徒会長って……誉ちゃんでしょ?」


「え?」


「は?」


「………」


 誉ちゃん、それは二人っきりの時だけと約束したのに、まさか如月さんの前で言うなんて……

 すると、如月さんが耳打ちをしてくる。


「恭介君、どういうこと?」


 当然の反応だ。

 生徒課会長の呼称のことを言っているのだろう。

 だけど、ここはごまかすしかない。

 如月さんに余計な心配かけたくないから。


「どういうことって?」


「だって、生徒会長と恭介君なんかあやしい。

 昨日何かあったの?」


「何もないって!!!」


「ほんと?」


 俺は如月さんにこくんと頷く。


「わかった。恭介君のこと信じる」


 そう言って、如月さんは真剣な眼差しを俺に向けた。

 信じてくれてるのに、嘘をついてごめん。

 とても胸が痛い。

 でも、仕方ないんだ。

 今はこうするしか……

 すると、誉ちゃんが、


「恭介たん、如月さんと何耳打ちしてるの?」


 かかさず、如月さんが耳打ちしてくる。


「恭介たんって?」


「なんだろうね? 生徒会長焼肉が好きなんじゃない。だから、人を呼ぶ時に”たん”付けしちゃうだよ」


「なにそれ……」


 誉ちゃんが飽きれた顔をで俺を見つめている。

 誉ちゃんの様子を見て、如月さんは、


「やっぱり

 あやしいことした?」


 生徒会長にたんと呼称をつけられている俺を、如月さんは再度俺をあやしんでいる。

 昨日に引き続き、大ピンチの俺。

 もう、どうすればいいのかわかんないんだけど……


「ちょっと、いいかしら。如月さん」


「恭介君、私話しかけられてる。どうしよう……」


 そう言って、如月さんが俺の服の袖をつかむ。

 誉ちゃんが如月さんに何を話したいのかわからないけど、きっと世間話だろう。

 俺が会話の間にはいるのもおかしいしな。

 如月さんに誉ちゃんと直接会話するよう説得するが、


「うん、でも……」


 豪鬼先輩(本名、乱銅剛)とは、面と向かって話せるのに。

 如月さんを見ると警戒している様子だった。

 よくよく考えれば、誉ちゃんは俺にラブレターを送った相手。

 昨日のこと、如月さんに話していないし、俺との仮恋人関係が解消されるのかと不安に思っているのかもしれない。

 如月さんの様子を見て、誉ちゃんが口を開く。


「そんなんだから、恭介たんにみはなされちゃったのね」


「生徒会長! 何を言い出すんですか、俺が如月さんを見放すわけないじゃないですか」


 きっぱりと否定するのだが……

 俺の服の袖を掴む如月さんの手が震えている。


「恭介たんはあたしがもらったから」


「う……」


 そう言って、如月さんは数秒沈黙する。


「如月さん大丈夫?」


 俺が如月さんに声をかけるのだが、


「…………」


 反応しない。

 これ以上、誉ちゃんを野放しにしておくといらぬ方向にいってしまいそうだったので、強く否定する。


「生徒会長、それ以上嘘は言わないでください!」


 俺がそう言うと、誉ちゃんはびくっとし、


「そ、そうね。少し言い過ぎたかしら」


「如月さん、さっきまでの会話は生徒会長の冗談だからね」


 と、俺が如月さんに言うのと同時に、如月さんは俺の裾から手を放し、誉ちゃんの前に出る。

 そこには雰囲気ががらりと変わった如月さんが俺の前に立っていた。

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