第45話 校舎裏(その1)

 その日の夜。


 俺は皆をかえした後ベッドに倒れこんだ。

 こんなにエネルギーを使ったのはいつ頃ぶりだろうか。

 どれくらいかというと、納期まじかで進捗が遅れ、徹夜でプログラミングした時くらい疲れた。


 人が増えると、それだけやれることは広がるが、考慮しないといけないことも増えるんだな……俺はまだまだ経験が足りない。

 だがしかし、なんとか凛さん、ねね、誉ちゃんとの打ち合わせを終えることができた。


「ねね、大丈夫かな……」


 誉ちゃんから思わぬ覚悟を問われ、嫌な思いをさせてしまったのではないだろうか。

 きっと、誉ちゃんは悪気があって言ったわけではなく、プロ意識からだろう。

 ねねには後で電話してみるか。


「一色誉か……」


 誉ちゃんの技術は世界に通じるレベル。

 そんな人が近くにいたら、良い刺激にも励みになると思ったけど……

 俺の選択は間違っていないよね?

 きっと、誉ちゃんは生徒会長をやるほどの人格者だから、何か合っても話し合えば解決できる。


 だけど、気になることがある。

 それは誉ちゃんが、あの俺を苦しめる【ミスターX】ではないかということ。


 理由は下記である。

 ・スーパーで俺の居場所がわかったこと

 ・俺のスマホをのっとったこと


 これができるのは相当なITスキルが必要で、誉ちゃんであれば可能だ。

 ミスターXは当初俺のスマホにメッセージを送ってきたし、今回のスーパーでの出来事と類似している。

 ミスターX =(イコール) 誉ちゃんと考えるとしっくりくるんだよな……

 誉ちゃんがミスターXだと仮定すると、俺を追い詰める理由はなんだ?

 単純に俺の定義書が欲しかったからか?


「うーん。考えてもわかんないよ」


 その時、俺のスマホにミスターXからメッセージが届いた。


『やあ、恭介君。大変なメンバーを引き入れてしまったね』


 やはり俺の行動が筒抜けである。

 どうやって俺の行動を知ったんだ?


『誉ちゃんのことだよな?』


『そう、一色誉は危険分子だ。今からでも遅くはないメンバーから外すんだ』


『おまえにいわれる筋合いはない』


 俺はきっぱりと否定する。

 そうだよ。

 誉ちゃんなら自分のことを悪く言うわけない。

 ミスターXから思わぬメッセージが俺に届く。


『今日の昼休みのことを思い出してみろ。一色誉はいずれ、君と如月詩愛の関係を引き裂くだろう』


 時は遡ること八時間前――


 お昼休みとなり、学食でパンを買って、いつものように校舎裏に行く俺。

 すると如月さんはベンチに座って俺を待っていた。


「如月さん、お待たせた」


「うん」


 いつもの彼女の姿がそこにあった。

 相変わらず口数は少ないけど、一緒にいる時間はとても幸せに感じる。

 俺はお昼を食べ終え、昨日のことを聞いてみることにした。


「ねぇ、実は昨日帰り際に如月さんに似てる女の子がいてさ」


「う、うん。それで、恭介君はどうしたの?」


「もちろん、ついていったよ」


「え、その子をストーキングしたってこと? 恭介君ってあぶない?」


「いや、危なくないから。あの時は後ろ姿だけしか見えなかったけど、如月さんって確信していたから。だって後ろ姿もめちゃくちゃ可愛かったしさ」


 何言ってるんだ俺……

 俺がそう言うと、如月さんは顔を赤らめ、恥ずかしそうに言った。


「そ、そなんだ。ふーん」


「でさ」


「うん」


「その子は俺と如月さんが一緒に帰るときと逆方向に向かっていったんだよね。その後、丁度国道沿いにさしあたったところで、見失って」


「そ、そっか」


 なぜかほっとした表情の如月さん。


「えっと、如月さんだったの?」


「違うよ」


 如月さんは即答した。


「恭介君、知らない女の子、おっかけちゃだめ。禁止!!!」


「わ、わかった。まぁ、あの時は如月さんだとおもったんだけどね」


「そんなことより、どうだったの?」


「どうだったって?」


「ラブレターのこと!」


 そうだ。

 ラブレターのことをきちんと如月さんに伝えて、安心させたい。

 俺が如月さんに話しかけようとした矢先、


「あー、こんなところで密会してたのね。知ってたけど」


 声が近づいてくる。

 その声の主は俺と如月さんの前で立ち止まった。


「恭介くん、この人誰?」


「そ、そのラブレターをくれた生徒会長だけど」


「こ、この人が恭介君にラブレターを……」


「そうよ。初めまして、如月詩愛」


 誉ちゃんは不敵な笑みを浮かべ、如月さんを見つめいていた。

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