第40話 スマホがのっとられた件

『ブー、ブー、ブー……』


 先ほどからズボンのポケットの中でスマホが強烈な音をたてて暴れている。

 そう、俺のスマホは故障しているせいかバイブ音が大きい。

 一度の着信ならあまり気にならないが、こうやって頻繁に鳴られると騒音としかいいようがない。


『ブー、ブー、ブー……』


 案の定、凛さんは持っていたバッグからスマホを取り出し、画面を確認している。

 やはり聞こえていたようだ。

 そして俺に向かって、


「バイブ音が聞こえたから私かとおもったんだけど、違うみたい。恭ちゃんのスマホじゃないの?」


『ブー、ブー、ブー……』


「あっ、また鳴った」


「本当だ。全然きずかなかったよ」


 白々しく答える俺。

 あえてのスルーだったんだけど、こんなにバイブ音が鳴っていたら気がつくよね。

 だけど俺にはメッセージを見ることができな理由がある――さっき俺がぶちまけたものをバッグに現在進行形でしまっているからだ。凛さんも手伝ってくれているしな。


『ブー、ブー、ブー……』


 たぶん誉ちゃん、いや絶対誉ちゃんからのメッセージだ。俺が返事を返さなくなったから怒っているのだろうか……

 バイブ音のことは放ってき、話題を元に戻す。


「凛さん、ごめん。手伝ってもらっちゃって」


『ブー、ブー、ブー……』


「いいんだけど、本当にどうしたの? 私おどろいちゃったよ。あ、また鳴ってる。こんなに鳴っているのに確認しなくて大丈夫?」


 バイブ音のせいでまた話題がバイブ音の件に戻ってしまった。


『ブー、ブー、ブー……』


「あっ、大丈夫。たぶん迷惑メールだから」


 誉ちゃんごめんと、心の中で思いながら凛さんに答える。


「そうなんだ!」


 よかった、凛さんは納得してくれたみたいだ。

 やましいことはないけど誉ちゃんとメッセージ交換してることがばれたら、面倒なことになりそうだしな。

 その後、バッグへのしまい込みが終わり俺達はスーパーを出たのだが、


「恭ちゃん、私に何か隠してる?」


「えっ?」


 凛さんをみると、真剣なまなざしで俺を見つめている。


「いや、何も隠してないけど」


「だって、さきっからずっとスマホなりっぱなしだよ。迷惑メールにしてはおかしい。物を散らかしていたのと何か関係があるの?」


「ないないないない……迷惑メールだからだよ」


「迷惑メールってどうして断言できるのかな」


「そ、それは……」


「また何かに巻き込まれているんじゃない? お姉さんにみせてごらん」


 優しい微笑みで俺を見つめる凛さん。本当に俺のことを心配してくれているのだろう。だけど、それとこれとは話が別だ。


「いや、無理」


「無理って何? まさか……私に言えないことを隠しているの?」


「そんなことないです。ただの迷惑メールだから見る必要ないんだよ」


「恭ちゃん!!!」


 その時、ありえないことが現実に起こった。


『みせてやればいいじゃない?』


 スマホから誉ちゃんの声が聞こえてきたのだ。

 何が起こっているのか把握する暇もなく、凛さんが突っ込んでくる。


『スマホから女の人の声が聞こえだけど、どういうこと?』


 凛さんの冷たい視線が俺にささる。

 痛い、痛すぎる、だけど当然の反応だよね。

 だって急に俺のスマホから女の人の声が聞こえてきたんだから。俺だって驚いている。


 俺は急いでスマホを確認すると、誉ちゃんと通話状態になっていた。

 しかもばっちりスピーカーホンになっているではないか。

 そもそも電話に出た記憶はなく、なぜ通話状態になっているのか意味不明。

 誉ちゃんには悪いが、このまま通話状態が続くのは危険極まりないので、通話終了ボタンを押した。


「…………………………………………」


 通話終了できなかった。

 はやく切らなきゃ、はやく切らなきゃ、焦りが募っていく。


『恭介たん、無駄だから』


 冷やな誉ちゃんのその声に背筋がこおりつく。

 そして後ろから刺すような視線が追い打ちをかけてくる。


「恭介たん? たん……たんって……この人とどういう関係なの?」


『「誉ちゃん、いや、生徒会長。たんは約束と違うのでは?」』


『何いってるの? あたしのことあんなに無視したくせにっ、しかも迷惑メールってひどすぎない?』


『それは言葉の綾で……』


『はぁーーーー、何いってるの。いいからあたし達のラブラブメッセージをその女にみせてやんなさいよ』


「やっぱり迷惑メールじゃなかったのね。ラブラブって……」


 誉ちゃんの暴走状態を俺は止めることができず、凛さんを見ると怒り心頭。

 完全につもってしまった……どうすれば……どうすればいいんだ……と考えている矢先、


「恭介くん!」

『恭介たん!』


 俺は二人の勢いに押されて、反射的に「『はいっ』」と返事を返してしまう。

 あーどうしてこうなった。

 俺何か選択肢間違えたかな?

 俺の状況はどんどん悪化していくばかりだった。

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