第36話 帰り道(その2)

 凛さんは少し速足で俺の前方へ出て振り返り


「ねぇ、恭ちゃん。こうやって一緒に外を歩くのいつぶりだろうね?」


 俺が「三年ぶりかな?」と返すと、凛さんは無邪気な笑顔で、


「そうだよね。恭ちゃんが小学生の頃はいつも一緒に登校して、この帰り道を一緒に歩いたよね?」


「うん」


「そっか、覚えていてくれたんだね」


「あたりまえじゃん。凛さんと毎日一緒だったんだから」


「外で遊んだり山や川、海に遠出したり、ずっと一緒だったよね」


「あの頃は楽しかった」


「うん」


 それから俺と凛さんはその後、他愛のない話を続けていたのだが、


「あのさ、恭ちゃん」


「どうしたの、凛さん?」


 凛さんの声のトーンが少し落ちる。


「恭ちゃんにずっと聞きたかったことがあるのだけど」


 凛さんはまっすぐに俺を見つめている。

 聞きたかったことってなんだろう。

 俺に答えることができることならなんでも答えるが……

 凛さんは俺に問うた。


「恭ちゃん、家の外で私のこと避けてる?」


「どうしたの、凛さん? 唐突にそんな質問してきて」


「だ、だって恭ちゃんが中学生になってから一緒にいる時間がすっごく少なくなったから……」


「それは……」


「それは?」


 凛さんが俺に聞き返す。


「プログラミングの勉強を本格的に始めたから、凛さん知ってるだろう?」


「わかってる……わかってるけど……私は……」


 凛さんの声のトーンがさらに下がっていく。


 凛さんに出会った当初俺は事故に合い、打ちひしがれていた。

 その時、丁度凛さんが俺の家の隣に引っ越ししてきて、凛さん、凛さんの両親が気遣ってくれた。

 凛さんの両親は共働きで帰りが遅く、俺は両親がいなかったから、それもあって俺と凛さんは自然と放課後一緒に過ごすようになったのだ。

 凛さんの言う通り俺が中学生になってから、俺は俺の夢の為の勉強を本格的に始めたこともあり一緒にいることが少なくなった……嘘ではないけど……彼女を納得させることはできないだろう。

 本当の事ではあるが、真実ではないから……


 凛さんを見ると、至極不安そうな顔をしている。

 その表情をみるとズキンと胸が痛む。

 俺は自分を正当化して言い訳をしているだけだ。しかし凛さんに本当の事を言うのは……俺が答えられずにいると、凛さんは続けて、


「私の両親はすごく忙しかったから殆ど家にいなかったよね。ずっと一人だった……寂しかった。だけど恭ちゃんと出会ってから、私はひとりぼっちじゃなくなった。恭ちゃんがいてくれて、すっごく元気もらったよ。だから私は恭ちゃんに感謝してる」


「それは俺のセリフだよ。俺が事故にあって大変だった時、いつも一緒にいてくれたはのは凛さんなんだから。一体どうしちゃったんだよ?」


「恭ちゃんと如月さんが一緒にいるのをみるととても切なくなるの。本当だったら私が恭ちゃんの……この前大丈夫だよって言ってくれたから、私、自分の気持ちしまっておこうと思った。だ、だけど……自分の気持ちに嘘をつけない。も、もしこれを聞いたら、もう元に戻れなくなっちゃうかもしれないけど……」


 震える手を抑え、声を絞りだすかのように凛さんは言った。


「私と一緒にいるの迷惑だった?」

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