第35話 帰り道(その1)

 如月さんを追いかけて、住宅街と反対方向の国道にたどり着いた。

 ミスターXの忠告を無視し追いかけてきたのに、結果如月さんを見失ってしまったのだが……

 俺はそこで一人の少女に出くわし、その少女は俺にここにいる理由を問うた。

 その少女は俺の幼馴染の橘凛。

 お姉さんのような存在で、ずっと俺の傍で支えてくれた優しい人である。

 俺がここにいる理由、そう如月さんを追いかけてきた事を凛さんに正直に話した。

 俺の話を聞いて凛さんは、


「私は恭ちゃんと反対方向から来たんだけど、如月さんに会わなかったわ。この辺りは見通しがいいし、見逃すわけはないと思うんだけど……」


 凛さんにそう言われてあたりを見渡すが、目の前には国道があり、真向かいの歩道越しには大病院が佇んでいた。

 国道は見通しがよく、凛さんの言う通り気づかないわけがない。

 となると如月さんとおもって、追いかけてきた女の子は人違いだったのだろうか。

 俺も凛さんに疑問を問うた。


「凛さんこそ、どうしてここに?」


 俺がそう言うと凛さんは、


「私は……」


 凛さんは少し間を空けて、


「あっ、ううん。なんでもないの」


 そして、両方の手のひらをぱんっと合わせ、


「そうそうこっちに来たのは、お父さんの用事があったからなの。恭ちゃんにばったり会ったものだから驚いたわ。それで恭ちゃんはこれからどうするの?」


 如月さんと思っていた少女は別人だったのか……そうなるとミスターXの引き留めは一体なんだったのだろうか……謎である。

 そうだな、これ以上探しても仕方がないか。誉ちゃんのことは明日如月さんに話すとしよう。

 俺は凛さんに「急ぎの話でもないし、帰る」と答えた。

 俺の答えを聞いた凛さんは俺にお願いしてくる。


「それなら買い物手伝って欲しいんだけど」


 今日は日常品を買い、荷物が多くなるとのこと。

 だから男手が必要とのことだ。

 いつもお世話になっているし断る理由などないので、凛さんのお願いを了承した。スーパーは国道沿いを歩いて丁度15分程度のところにあり、そこから少し歩いたところに俺と凛さんの家がある。


「それじゃ、いこっか」


 俺がそう言うと、凛さんは嬉しそうに「うん」と答えた。


「ねぇねぇ、恭ちゃん何か食べたいものある?」


「凛さんの料理ならなんでも」


「恭ちゃん、なんでもって言葉はどれほど世の奥様方を困らせるか知ってる?」


 ぷいっとそっぽを向いて怒る凛さん。

 そうだよね。はっきり言わないと凛さんも困っちゃうよね。

 世の男性方も奥さんに聞かれたら、なんでもいいって答えるのやめようねって何言ってるんだ俺。

 俺はすかさず凛さんに「ごめん」と謝る。


「嘘嘘、こういう時は遠慮しないではっきり言ってねってこと」


 とはいえ凛さんの手料理はどれもおいしいからな……だから、選択肢がありすぎて困ってしまう。

 俺が答えに困っているの見て、凛さんはうふふと俺に微笑み、


「しょうがないなー。じゃあ、三択にするから選んでくれる? それならいいでしょ?」


「三択にしてもらえると助かる」


「男に二言はないわね?」


「えっと、ないけど。なんか嫌な予感が」


 俺の承諾を受け、凛さんは間髪入れずに三択を提示してきた。


「それじゃいくわよ。いち、私。に、私。さん、私」


「選択肢が全部同じというか、私って料理じゃなくない? って私!?」


「選ぶっていったよね?」


 凛さんは顔を真っ赤にしてもじもじしている。

 凛さんをじーと見つめると、凛さんは俺から視線を逸らした。


「恭ちゃんのエッチ……そんなエッチな目で私をみつめないで……」


「そ、そんなつもりはなかったんだけど、そんなに恥ずかしがるなら言わなきゃいいのに」


「だって、恭ちゃんがちゃんと答えてくれないのがいけないんだよー」


「まぁ、それは一理あるけどね。それじゃあ今日はカレーライスをお願いしようかな」


「うん。カレーライスにしよう」


「全く、恭ちゃんってば、うふふ」


「どうかしたの?」


「恭ちゃんって昔から変わらないよね。出会った頃のままだわ」


「それって成長してないってこと、もしかしてディスられてるのかな?」


「褒めてる、褒めてる。そういう素直でわかりやすいところ私は嫌いじゃないわ」


「やっぱり、褒めてないじゃん」


「近くにいたから全然きづかなかったけれど、こんなに男らしくなっていたんだね」


 いきなり凛さんどうしたんだ?

 凛さんを見ると、その視線はどこか遠くをみているようだ。

 それからしばらく静寂が続き、凛さんが会話を切り出すのだが……

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