第37話 帰り道(その3)

 俺が中学生になって、数週間が過ぎたある日のこと。

 俺は教室に到着し、クラスメイトがわらわらと騒いでいる中、誰からも挨拶されずに自席に座った。

 というのも俺は当時かなりの人見知り(今もか)だったので、周りを寄せ付けない空気を醸し出すことによって、クラスメイトからの挨拶を回避していたのだ(自慢にならんが)。

 ふと黒板を見ると何やら書いてあるが落書きだろうか。

 俺はあまり気にせず1時間目の授業の準備をしていたのだが、周りからの視線がささる。

 黒板をよく見ると、デカデカと相合傘が!

 なんだこれ…なんの冗談?

 相合傘には、な、なんと、俺と凛さんの名前が!!!

 まさか自分が当事者になるとはな。

 よくよく考えると中学生になってから俺と凛さんは登下校、お昼、休み時間といつも一緒にいたから。付け加えて凛さんは学校でも指三本に入るほどの美少女だったので、それを見た生徒達から標的にされたのだろう。


 今、思えばそんなこと無視していればよかったのだけれど、その時の俺はそこまで大人じゃなかったし。

 それに中学生になるまで凛さんはお姉さんのような存在で異性として意識してなかったのに、だけど、この事をきっかけ凛さんを一人の異性として意識するようになってしまった。

 結果的にプログラミングの勉強が忙しいことを言い訳に凛さんを避けるようになってしまったのだが……

 だんだん凛さんとの時間が減って、凛さんから聞かれなかったら言い出せず、今に至っている。

 本当俺、最悪だ。だけど、凛さん変わらず接してくれている。

 俺は凛さんに、

「嫌なわけない。凛さんは俺にとって大切な人なんだから」

「大切って……大切な人だったらなんで避けたの?」


 凛さんは体を震わせ言った。

 俺は俺の気持ちをどのように伝えればいいか、頭の中を試行錯誤して言い出せずにいた。

 そんな俺を見て凛さんが切り出す、


「恭ちゃん、やっぱり答えられない。その沈黙が答えなんだよね? 恭ちゃんはすごく優しい人で、私はそんな恭ちゃんが大好きだけど、私のこと傷つけないようにしているその気遣いが、私にはすごく痛いの」


「凛さん……」


「やっぱり聞かなきゃよかったね? 恭ちゃん……ごめんね。忘れて、忘れて……ね?」


 そう言うと、凛さんは振り返りその場を去ろうとする。

 このままでは過去の二の舞になってしまう。

 俺はとっさに凛さんの右手をとり、引き止める。


「離して」


「離さない」


「どうして引き止めるの?」


「だって、このまま凛さんを行かせられるわけがない」


 凛さんはうつむいたままで静かに俺の話を聞く。


「正気に話すよ。俺、凛さんが嫌だからじゃない。あの時俺は周りから茶華されて、それまで凛さんは俺のなかで家族、お姉さんのような存在だったんだけど、でも、でもさ、凛さんといるとなんか俺すごくドキドキするようになって……凛さんは大切な人だから、これ以上一緒にいたら、俺は……でも結果的に避けることになって、本当にごめん」


「恭ちゃん、それって……」


「こっちみるなって」


 俺は自分の顔が沸騰していくのを感じつつ、恥ずかしさのあまり凛さんから目を逸らした。

 すごいはずかしい。

 まるで告白しているみたいだ。

 凛さんが俺の胸にぎゅっと飛び込んでくる。


「えっ?」


 やばいこんなところ見られたら、言い訳できんぞ……だけど過去に凛さんにしてきたことを思うと俺は……


「嬉しい。恭ちゃんの本当の気持ち聞けた! 今もドキドキしてるね」


「うるさいなー。勝手に俺の心音きかないでくれる!!!」


「そっか、意識してくれてたんだね」


「俺は話を聞けー、それに意識なんてしてないから」


「だって、さっき意識してたって言ってたじゃない?」


「ま、まぁね。それは過去のこと」


「恭ちゃんずるいー」


 かなり部が悪いが仕方ない。

 過去のことはもう消すことはできないけれど、可能なかぎり凛さんの気持ちに答えたい。もう遅いのかもしれないけど……


「ねぇ、恭ちゃん。私と付き合っちゃう?」


「いや、俺には」


「知ってるよ」


「だったら私たち、二人だけの秘密にすればいいじゃない?」

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