第32話 決着の行方
曲が開始すると画面中央にアイドルが映し出される。
次にテンポがよいイントロが流れ始め、アイドルがダンスを始めた。
このゲームの醍醐味はタイピングを通じてアイドルを育てることができる。
いろいろな客をクリアーしていき、トップアイドルに育てるのがユーザーの指名なのだ。ユーザーはタイピングの速度、正解さで得点を稼ぎアイドルを応援することができる。画面上部に表示されるゲージはタイプミスをすると、減少していき、ゲージがなくなると強制終了してしまう。逆に高速、精密にタイピングしていくと応援に答え、アイドルが最高の笑顔を振りまき曲を熱演してくれるのだ。
だから応援しているアイドルに最後まで最高の笑顔で曲を歌いきってもらおうとユーザーはタイピング技術を磨くのである。
アイドルがどことなく如月さんに似ているのは秘密である。
歌唱パートに突入すると画面の至るところからターゲット《文章》が表示される。
俺は次々と出現するターゲットを撃退していく。
しかし今日の俺は調子がよい。
対戦相手とはいえ、女の子に見られながらプレイしているからテンションが上がっているのか。
前半を終えたところで、
「ほお、やるもんだな。さすがは恭介」
後ろから生徒会長の感嘆の声が聞こえてくる。
当然だっ、俺がどれだけこのゲームをやりこんだと思っているんだ。
この曲はこのゲームの中でも最上級に難しい。高いスコアをだすにはうってつけの曲である。
ねねもチャレンジしていたが、あまりの難しさにわめいていたっけ。
俺はその後も正確にタイピングしていき、一回も失敗することなくゲームを終えることができた。
画面にはパーフェクトと表示され俺は勝利を確信する。
生徒会長を見ると想定外に意気揚々とした表情で俺のことを見つめていた。
「10万点とは中々なスコアじゃないか」
はっ? かなりのハイスコアだが……なんだこの余裕。俺のスコアを超えられるとでも?
「次はあたしの番だ。はやくそこをどけっ」
生徒会長は俺から無理やり席を奪った。
「どれにしようかなー♪」
なんかすごい楽しんでない?
だけどその姿はとても可愛いかった。
「あたしも恭介と同じ曲にするかっ」
生徒会長は俺と同じ曲を選択した。
俺がパーフェクトを出している為、生徒会長もパーフェクトを出さないと自ずと俺の勝利は確定する。
まぁ俺がパーフェクトを出したから、勝負を諦めているのだろう。
生徒会長はさっそくゲームを開始する。
イントロが流れ始めたところで、生徒会長が奇妙な行動をとりはじめる。
何やらタイピングをしているようである。
まだターゲットが表示されていないのに一体どうしたのだろうか。
「生徒会長何してるんですか? まだターゲットは表示されていませんよ!」
「……………………」
俺の言葉に全く反応せず、何かを打ち込み続ける生徒会長。
先ほどまでの表情は一変し、真剣そのものだった。
もうすぐ歌唱パートが始めるところで、
「できたー」
その言葉と共に画面に表示される見たこともないメッセージ。
画面右上に表示されたメッセージは『ミラーモード』。
すぐに歌唱パートが始まった。
次々に表示されるターゲット。
何がミラーモードなのかと考えながら観察していると、ターゲットの文章が通常と違い逆並びになっている。
これは認識しづらいぞ。
さらにターゲット数がかなり多い、俺の時の2倍はあるのではないか!
これは俺がプレイした時よりもはるかに難易度が高い。
しかし生徒会長は至極当たり前のようにミスすることなくターゲットを撃破していく。
もはや別次元のタイピングだった。
この人は一体何者?
結局、生徒会長は一回もタイプミスすることなくゲームを終えた。
画面に表示された点数は……
「56万点!」
ドラゴンボールで言うと、ナメック星編のフリーザと悟空くらいの差である。
圧倒的な差をみせつけられ、俺はショックを受けると思いきや、逆にわくわくしていた(俺はサイヤ人ではないが)。
こんなすごい人が身近にいたのだから。
「どうしたの? 恭介」
「いや、生徒会長のことを正直あなどっていました」
「でしょー。恭介を見ていたら、楽しくなっちゃって、ゲームを少し書き換えた。同じつまらないでしょ?」
あの一瞬でゲームを書き換えたというのか、本当にこの人何者?
「本当にすごかったです。生徒会長」
「やったー。恭介にほめられたー♪ あたしを敬ってもいいのよ。いや敬いなさい」
やばい、なんかだんだんむかついてきた。
だけど実力は本物だ。
その後ランキングが表示され、当然生徒会長は一位なのだが、そこに表示された名前により正体が明らかとなったのである。
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