第31話 ゲーム
「恭介」
生徒会長はそう言うと俺の胸元にそっと指を触れ、ゆっくりと曲線を描き始めた。
「うふふ、おまえの体は正直だな」
その指は絶秒に強弱をつけながら俺の体をなぞり、ゆっくりと下部へ向かっていく。
何をする気なんだ生徒会長……こんなところ誰かに見られたら言い訳できんぞ。
「おまえの鼓動が手に取るようにわかるぞ。こんなにドキドキしているじゃないか」
「ドキドキなんかしていませんよっ」
俺の意志とは裏腹に心臓の鼓動が大きくなっていく。
心の中で必至に叫ぶ。
静まれ、静まれ俺の心臓っ!
「ほれ、これがいいのだろう?」
生徒会長は隠微な声と共に俺の首筋に「ふー」っと息を吹きかける。
そしてぎゅっと俺の胸に抱きついてきた。
「やっぱり、こんなにドキドキしているじゃないか。あたしを弄んだ罪、とくと味合うがいい」
あんな幼い容姿の女の子に抱きつかれて、こんなにもドキドキしている。
俺はロリコンだったのか……
くそっ自分の性癖を疑ってしまう。
「うふふ、あたしのものになる気になったか?」
「なりませんよ。俺には、俺には……」
「 如月詩愛か?」
「えっ!?」
「そんなの何の障害にもならんぞ。お前はあたしのことが必要になる。絶対にな!」
必要になる? どういうことだ?
生徒会長は一体何を言っているんだ。
それからしばらくの沈黙が続き。
俺の顎にやわらかい感触が。
目をつぶっているからわからないけれど、この感触は指だろうか。
その指先は優しく、俺の顔を少し上に引き上げる。
これって、まさかキス? 俺には仮にとはいえ、彼女がいるんだ。このまま無抵抗でキスされるのはまずい。
俺はごくりと唾を飲み込む。
「恭介……」
するとおでこにあたたかくて柔らかい感触が。
俺は驚きのあまり目をあけてしまう。
目の前に生徒会長の顔がそこにあった。
「生徒会長、ちょ、ちょっと、か、顔が近いですから、一体何をしたんですか?」
そう言って、俺は生徒会長を遠ざけた。
「ふんっ、何もしてないぞっ」
いや絶対何かされた。
あの柔らかい感触は一体何だったんだ。
生徒会長は先ほどとは明らかに違う口調で優しく言った。
「ちょっと、お前の顔が近くでみたかっただけだ。ようやくお前に会えたんだ。だから、あたしのことを……で虜にしたお前の顔を」
「へ? ちょっと聞こえないところがあったんで、もう一回言ってもらってもいいですか?」
「ばかっ。もう一度なんて言えるわけないだろう! それにしても急に顔が赤くなったがどうしたんだ?」
一級品の美少女が至近距離にいるんだからドキドキしない男なんているわけがない。キスされるのかと思ったし。
俺が返答に困っていると、
「おい、質問に答えろっ」
生徒会長が急かしてくる
「生徒会長のせいですよ、俺は生徒会長にキ、キスされたのかと思ったんですから」
「な、おまえ、ま、まさか。その先のエッチなことを考えていたんじゃあるまいっ。おとなしくしているかと思ったらそんなこと考えていたなんて」
「赤くなったのは不可抗力というか、男のサガみたいなもので。その先のエッチなことなんて一ミリも考えていませんからっ」
「ふん。どうだかな。赤くなったことは事実。あたしを意識したってことだろう。さっきはガキンチョって言ったくせに」
そう言うと正拳突きを俺の腹めがけて放つ。
見た目からは想像できない破壊力で、俺はその場に崩れ落ちた。
「ふんっ。あたしのことをガキンチョって言った報いよ」
「だから……」
「そのガキンチョに欲情したのはおまえだろ?」
「ご、ごめんなさい。確かに意識したかもしれません。あと一つ訂正したいのですが子供とは言ったけど、ガキンチョとまでは言ってないです」
「はぁーなんか言った?」
「言ってないです」
「ふーん。意外と素直なのね。そういうところは嫌いじゃないわよ」
完全に遊ばれている気がする。
俺はここに何しにきたんだっけ?
「あー楽しかった」
俺は楽しくない。
「恭介が子供扱いしたことは、このゲームであたしに買ったら許してあげるわ」
そう言うと生徒会長は自席に戻り、自席上にあるリモコンを手に取り天井に向かってボタンを押す。
すると巨大スクリーンが天井から姿を現し、画面に映し出されたのは最近はやりのリズム系タイピングゲームだった。
「これは今はやりのタイピングゲームじゃないですか」
「このゲームでスコアを競うのよ。あたし以上のスコアをだしたら恭介の勝ち」
「本当にいいんですか?」
「何が?」
このゲームはねねにタイピングを教えるのに、かなり遊んだ経験もある。生徒会長はデータベースの知識があるようだが、本業で俺は毎日プログラミングをしている。そこらへんのプログラマーにだってタイピングでは負ける気はしない。
「いや、なんでもないです」
「それじゃ、始めましょう。恭介からね」
俺は生徒会長に席を借りて、ゲームを開始した。
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