第27話 秘密の手紙

 次の日。

 俺と如月さんは一緒に登校していた。

 こんな可愛い女の子と毎日登校できる日がくるなんて。

 人生何が起こるかわからない。

 と、幸せ気分一杯だったのだが、下駄箱を開けて気分は一変した。

 なぜならば昨日に引き継いて不幸の手紙が入っていたからだ。

 全く2日続けて不幸の手紙を入れるなんて、なんて暇なやつなんだ。

 俺がため息をついていると、如月さんが


「恭介君どうしたの?」


 如月さんが首を傾げて俺を見つめる。


「あっ、なんでもないよ」


 不幸の手紙が2日続けて入っていたなんて、カッコ悪くて言えない。


「下駄箱の中に何かはいってたんじゃないの?」


「な、何も入ってないよ。俺の下駄箱なんかに上履き以外のものがはいっているわけないだろう」


「そうなんだ。様子おかしいから」


 心配してくれてありがとう如月さん。

 まぁ不幸の手紙が二日続けて入っていれば、顔にもでるわな。

 ラブレターやら、チョコならば憂鬱な思いをしないのだが……

 如月さんは「なんでもないなら、いいんだけど」と言って靴箱を開けると、どさどさーっと手紙が落ちてきた。

 その数、なんと数十通。

 下駄箱に靴以外のものが入っている人がここにもいたっ。

 実は如月さんは彼氏(俺)ができてからも人気は落ちず、むしろ右肩上がりに上昇している。

 こいつら俺と如月さんがすぐに別れると思ってやがるな……まぁつり合いが取れているとは思っていないが。

 彼氏(仮)としては悔しい。

 ぜってー別れてやんねーからなっ

 そんなことよりも気になることがある、俺は如月さんに問うた。


「こ、これ全部ラブレター?」


「ラブレターとファンレターかな。毎日みんな手紙をいれてくれるの、嬉しいけど。複雑。彼氏もいるのに」


 如月さんは申し訳なさそうにうつむいている。

 それにしてもラブレターだけでなく、ファンレターまでもらっているとは恐るべし如月さん。


「いいんだよ。気にしなくて。むしろ嬉しいよ。こんなにもてる人が俺の彼女なんだから」


 顔を真っ赤にする如月さん。

 そういうところが可愛いんだよね。


「でも如月さんってえらいよね。もらった手紙に一つ一つ返事してるんだよね。まさにアイドルの鏡、神対応だね」


「そんな、茶化さないで! アイドルじゃないし」


「ごめん、ごめん」


「だけど、私の為に書いてくれてるから、返事はしたい」


 この対応がファンを増やす要因になっているんだよな。

 恥ずかしがり屋で、愛想がよい感じではないのだが、それを凌駕するほどの可愛らしさが男たちを魅了してるのかな。

 実は俺、不幸の手紙をもらったといったが、まだ中身を確認してないんだよね。

 だって俺なんかがラブレターをもらえるはずがないので、不幸に決まってる。宛名も書いてないし、どんな誹謗中傷が書かれているのか恐くて見れない。

 しかし中身を見ずに不幸の手紙って決めるけるのもな……とりあえず後で開けてみるか。


 *************************************


 放課後。

 やってきたのは空手部兼”如月詩愛ファンクラブ”の空手部道場。

 俺はファンクラブの人に乱銅さんの居場所を聞いて、ここまで来たのだが……普通の道場のはずなのだが、なんか威圧的なオーラを感じる。

 恐る恐るノックをすると、「入れ」と乱銅さんのドスの効いた声が聞こえてきた。

 ”入れ”って先生だったらどうするんだよ。

 それにこの声いつ聞いても怖すぎる。これで三度目なのだが身震いが止まらない。

 というか、 なんて声をかけて道場に入ればいいんだ?

 今まで乱銅さんと合う時には如月さんやねねがいたから気にしていなかったのだが……

 俺がしばし躊躇していると、道場の中から「早くはいらんかバカ者ー」と怒鳴り声が聞こえてくる。

 俺は驚きのあまり、「たのもー」とよくわかならい言葉を発しながら入ってしまった。

 やばい完全に挨拶間違えたよ。

 乱銅さんを見ると、仁王立ちで俺のことを睨んでいた。


「ほぉー、いい度胸だな。斎藤。まさかお前が道場破りをしにくるとはな」


「いや、違うんです。乱銅さん聞いて……」


 乱銅さんは俺の言葉を遮り、


「生きて帰れるとは思うなよ」


「生きて返してください。まだやり残したことがたくさんあるので……」


 乱銅さんは俺の言葉をまたまた遮り、


「お前とは殺し合いをしてみたかったんだよ」


 幻影かもしれないが、乱銅さんから黒いオーラのようなものがほとばしっている。

 というか、このままでは本当に乱銅さんと殺しあうことに。


「乱銅さん、俺の話を聞いて下さい」


「さぁ、さぁ、さぁ何で殺しあおうぞ」


 駄目だ、この脳筋。

 人の話を全く聞きやがらねぇ。

 日光東照宮の「三猿」の聞かざるかよ。


「お前が言わないのならば、この中から選んでもらうぞ」


 なんか勝手に話が進んでいるのだが、とりあえず乱銅さんの話を聞いてみるか。


「腕相撲と瓦割どっちがいいんだ?」


 俺は殴り合いとか提示されるのかとおもって、ビクビクしていたので、瓦割はともかく腕相撲は意外と普通だったので安心した。

 しかし、そもそも俺はデータベースエンジニアのことを聞きに来たのだから、勝負しなくてもいいじゃないか?

 乱銅さんには経緯を説明して、と色々考えている矢先、


「おい。まさかやらないんて言わないよな? 詩愛ちゃんの彼氏だったら、俺の勝負から逃げるような情けないまねはするなよ」


 俺はやるときはやる男なんだよ!

 と俺は決意を固め、乱銅さんに渾身の一言を浴びせる。


「すいません。やっぱり勝負やめます」


「えっ」


 ポカンと口を開けている乱銅さん。

 俺はへたれですよ。

 ダメ男ですよ。

 だって絶対勝てないもん。


「やはり、お前はヘタレだったか、お前のようなやつは詩愛ちゃんにはふさわしくない。今すぐ別れろっ」


 くそっ。

 そこまで言われちゃ仕方ない。

 これは神様が与えた試練だ。

 この展開は、窮地の状況から俺が勝つような流れになるに決まってる。

 俺の隠されたオタクパワーで乱銅さんを打ち破ってやる。


「それじゃ、腕相撲でお願いします!」


「ほぉー、空手部伝統の腕相撲で勝負したいとは、中々見どころのある男だ」


 えっ? 腕相撲って一般的な競技だよね?


「あの、腕相撲って、ひじを立てて手のひらを握り合って、相手の腕を押し倒したら勝つ競技ですよね?」


「そうだ。相手の腕をへし折って再起不能にしたら勝ちだ、力と力がぶつかりあう最高の競技だ」


 そうだじゃねぇよ。

 最高って最恐のことだよね?

 全然イメージと違うし、再起不能ってどういうことだよ。

 やばいこの人に付き合ってたら、本当に殺される。


「よしっ」


 よしじゃない。


「それじゃあコロシアムを用意するから待ってろ」


 そう言うと乱銅さんは道場の隅っこへ歩いていく。

 コロシアムって一体なんだ……

 乱銅さんは年季のはいった台を持ち上げて俺の前と持ってくる。

 あっコロシアムッて腕相撲台のことか、しかしとてつもなく重そうなんだけど。


「乱銅さん参考に聞きますが、この台って何キロくらいあります?」


「100キロ」


「ひゃ、ひゃく! そんな重いものをなんて軽々と持ってたんですか!」


「こんなもの重くないわ。俺をなめるなよ斎藤」


「全然なめてないですよ。むしろ尊敬してます。さっ、さすが豪鬼先輩。あっ」


「豪鬼?」


「あっ、口がすべったじゃなくて間違えました」


 一瞬乱銅さんの目がまじになったのだが……この人冗談きかないから気を付けないと。

 それにしても乱銅さん筋肉がボコボコしてるだけはある。どうやったらこんな筋肉がつくのだろうか。

 台を見ると、ところどころ黒染みがあるんだけど、これって血じゃないよね……

 ま、まさかね。


「斎藤よ。これが空手部の先輩から代々引き継がれてきたコロシアムだ」


「コロシアムって腕相撲台のことですね。でその黒染みって?」


「男なら気になるよな。これぞ男の勲章」


「汗ですか!」


「違う! 血だ!」


 どうだと言わんばかりに俺に自慢してくるのだが、全然うらやましくない。

 ていうか、血がでるほど腕相撲してたのかよ。

 空手部の歴代の先輩方も中々クレイジーだな。


「それじゃあ、始めるとするか」


「やっぱりやるんですね」


「当たり前だ!」


 そう言うと、乱銅さんはコロシアムに右肘をのせる。


「斎藤お前もはやくのせろ」


「はいっ」


 俺は嫌々ながら右肘をコロシアムにのせる。

 すると乱銅さんは俺の手を掴んでくる。

 手を掴みあうのは自然な流れなのだが、あー男と手を握り合うときがくるなんて、それも相手は乱銅さん。

 こんな解説いらないかもしれないが、乱銅さんの手は分厚くて、ゴツゴツしていて人の手じゃないみたいだった。


「よし、それじゃあ始めるか。勝利条件は相手を再起不能にすることだ」


「いや、違いますから」


「Ready―Set―Go!」


 ドンっと道場に大きな音が鳴り響く。

 その音は俺の手が乱銅さんに押し倒された音だった。

 俺の右手にずきんっ激痛が走る。


「うぅ」


 なんだ今の衝撃。

 これ腕相撲じゃないよ。

 こんなこと続けられない。


「ら、乱銅さん、俺の負けです」


「………………………………」


 しかし、乱銅さんは不気味な笑みで俺を見つめている。


「どうしたんですか? 乱銅さん」


「何言ってるんだ? お前はまだ負けてない」


「え?」


「再起不能にするまでといったはずだ」


「ちょ、ちょっと」


「Ready―Set―Go!」


 ドンっと道場に再び大きな音が鳴り響く。


 また力を入れる暇もなく、気づいたら倒されていた。

 2回しか倒されていないというのに、既に右手の甲が赤く腫れあがっている。

 このまま続けて右手が使いものにならなくなったら、プログラム開発に支障が出てしまう……


「Ready―Set―Go!」


 ドンっ。

 息つく暇もなく、三回目が終わっていた。

 あれ? 右手の痛みが消えたというか、感覚がないんだが……


「ら、乱銅さん、もう止めてください」


「ほぉ、まだ意識があるのか。普通の男なら一回で意識がなくなるんだけどな」


「いや、もう限界を超えてます。手の感覚だって、もう……」


 手の間隔だけでなく、意識も朦朧としてきた。

 こんなことなら、凛さんかねねにお願いしておけばよかったな。

 と俺が後悔をしていると、乱銅さんが4回目の掛け声を言おうとする。

 次の瞬間、


「もう、やめてー」


 薄れる意識の中、女の子の声が聞こえてくる。

 その声はだんだんと近づいてきて、俺の前でとまる。

 うっすらと俺の視界に入ったのは、美しい銀色の髪をもつ女の子だった。

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