第26話 彼女とキックオフミーティング

 重く気まずい空気は続き、時間はどんどん過ぎていく。

 女の子が喧嘩するとこんなに殺伐とした空気になるのか……

 しかしこの開発は二人の力なくして、成功しない。こんなところでめげていては駄目だ。

 俺は焦燥感に駆り立てられる中、意を決し。


「それじゃあさ、二人とも機嫌直してよ。好きなもの頼んでいいからさ」


 もう、ここは金の力に頼るしかない。


「食べ物なんかにつられたりしないんだからね。あっ、私はマンゴーパフェね」


「そうです。女の子はそんな簡単じゃないんですよ。パンナコッタお願いします」


 おもいっきり釣られてるじゃねえかよ。

 本当、山の天気のように機嫌がころっころ変わりやがる。

 だけど、これで機嫌を直してくれるなら安いものだ。

 その後、”マンゴーパフェ”、”パンナコッタ”が届き、二人はおいしそうに食べた。


「二人とも、落ち着いたみたいだね」


 俺がそう言うと、ねねが、


「元はといえば、おにーさんのせいなんですよ」


「そうよ、他に女の子がくるなんて聞いてないし」


 確かに二人には最低限のことしか言ってなかったな。

 というか、二人とも同調しすぎ……俺はそんなMじゃないから責めないでくれ。


「ちゃんと説明してなかったのは俺が悪かったよ」


「それでは今日は何の集まりなんですか?」


「俺の未来がかかってる重要な話をするんだよ。だから信頼する二人に集まってもらったんだよ」


「それって」


 首を傾げるねね、


「そう、急なんだけどシステム開……」


 凛さんが俺の言葉を遮り、


「それで恭ちゃんは私とねねさんどっちがいいの?」


「へ?」


 唖然とする俺を構いもせず、ねねは凛さんに続き、


「おにーさん、あたしを選んでくれるって信じてますから」


 ちょっと俺の話を最後まで聞いてくれよ。

 なぜか話は俺が意図しない方向にどんどん進んでるんだが……


「………………………………」


 俺がだんまりを決めていると、


「「早く答えてっ」」


 凛さんとねねが俺にプレッシャーを浴びせてくる。

 だから俺はMじゃないって!

 もうっ、これはちゃんと回答しないと話が進まない。

 だけど、どちらかを選ぶなんてできるはずがない。


「選べないよ」


「「どうして!?」」


 二人とも息ぴったりすぎ!!!


「俺には凛さんもねねも必要なんだよ。だから喧嘩しないで3人で仲良くしようよ」


 すると、ねねは目を大きく開き口を押えて、


「おにーさんは3人がいいってことですか?」


「そうだよ」


「恭ちゃんにそんな特殊な性癖があっただなんて……」


「そうだよ」


 って、ん?


「最低です」


 なんか話がかみ合ってなくないか?

 よくわからないけど凛さんとねねが俺をゴミを見るような目で見てるんだが…

 性癖……3人……って3〇のことか!?


「ち、違うよ。そんなエッチなことなんて考えてないって! だから俺をそんな目でみないでくれ。俺が言いたかったのは、俺が今日話そうとしてたシステム開発のプロジェクトに二人の力が必要だってこと!」


 俺の言葉を聞いて、凛さんとねねは顔赤くし、


「そういうことね。もう恭ちゃん紛らわしいんだからっ」


「えへへ、はやとちりしてしまいましたね」


 おいおい、二人とも俺が悪いのか。

 どちらかというと俺は被害者だよ?


「それじゃあ、恭ちゃんの話を聞くことにしましょう。ねねさん、一時休戦でいいかしら?」


「そうですね。わかりました」


 釈明するのも面倒になり、俺は話を先に進めることにした。


「それじゃあ、キックオフミーティングを始めるよ」


 キックオフミーティングというのは、システム開発の目的や情報、進め方、役割を共有することで、メンバの意識を統一しシステム開発を成功させる為の重要な機会のことだ。

 これをあやふやにしてしまうと、いざ作業を進めた時に間違った方向に進んでしまい、手戻りといった余計ない作業が発生する可能性が高まる。


「今日集まってもらったのは、俺に急遽依頼が来たシステム開発のことなんだけど、期間もあまりないから二人に手伝ってもらおうとおもってます」


 俺は即席で作ったプロジェクト計画書を凛さんとねねに配る。


「まずこの開発に関わるメンバーを改めて紹介するね。俺がプロジェクトマネージャ兼プログラマーをやります。そしてこちらがデザインをお願いする予定の橘凛さん。俺と同じ高校に通う一歳年上の先輩。俺の横に座っているのが、可愛ねねさん。プログラム作成の補助を担当してもらう予定」


 凛さんはパソコン教室を手伝っていることもあり、パソコン操作に精通していて特にドローソフトを扱うのが得意だ。

 ねねはまだパソコン初心者だが、ここ最近めきめきと実力をあげている。俺がサポートすれば簡単なプログラムであれば書けるだろう。


「凛さん、ねねどうかな? 俺に力を貸してくれないかな?」


「恭ちゃんのお願いだもの。私にできることがあれば何でも手伝うわよ」


「はい。お役にたてるか心配ですが、全力で頑張ります」


「ありがとう二人とも。お礼はちゃんとするから」


 当初はどうなるかとおもったけど、二人に承諾してもらえて本当によかった。


「それじゃあ、三人しかいないんだけど、もう一度整理すると」


 ・システム開発のメンバーとその役割

 俺……プロジェクトマネージャ兼プログラマ

 凛さん……グラフィッカー

 ねね……プログラマ補助

 データベース……


 ここで一つ、問題がある。

 実はデータベースエンジニアがまだ決まっていないのだ。

 俺も少しはデータベースの知識はあるのだが、やはりデータベースの設計は専門の人にお願いしたいところ。

 凛さんのおじさんにお願いすればなんとかなりそうだけど、旅行中だしな……

 データベースのところが空欄になっているのに気付いたねねは、


「その……データベースのところが空白になってますが」


「そうなんだよ。実はさ相談したいことがあって、データベースの設計から構築までできる人いないかな?」


 凛さんは顎に手を当て、しばし考え、


「うーん。そうね。中々データベースができる人っていないのよね。パパは出張中だし」


 システム開発の中でデータベースエンジニアって中々いないんだよな。ドラクエで例えるならメタルスライムのようなキャラだ。

 俺みたいなんちゃってエンジニアは腐るほどいるだけどね。


「あっ、そういえば」


 と言って、バックの中をごそごそし始めるねね。


「どうしたんだ、ねね」


「もしかするとおにーさんの役に立てるかもしれません」


 ねねがそう言って取り出しのは一冊の雑誌だった。


「これ、パソコンの勉強の為に買ってみたのですが、面白い記事があったんです。たしかーこのあたりに」


 パラパラと雑誌をめくるねね。


「あっ、ありましたよ。これです」


「現役高校生のプログラマーの特集かぁ」


「そうなんです。それでここを見て欲しいのですが」


 100年に一人の天才プログラマーと書いてある。

 紹介文を見てみると、氏名や住所は非公開となっているが学校名が記載されていて、


「この人って私たちの学校の生徒じゃん?」


「こ、この人すごいわ。学生をやりながらホワイトハッカーをしているらしいわよ」


「ホワイトハッカーって何ですか?」


 ねねが首をかしげる。


「ねね、ハッカーていうのは教えたよな」


「パソコンに不法に侵入したり、プログラムを改変したりする悪い人ですよね」


「そうだよ。ハッカーって悪い印象があるけど、ホワイトハッカーはその逆で、高度な技術を使って、誰も侵入できないシステムをつくる人だよ」


「元々ハッカーの人が技術を買われて、ホワイトハッカーになるケースもあるしね」


「そんなすごい人がおにーさん達の学校にいたんですね」


「灯台下暗しとはこのことだな。しかし、学校のみで名前も顔も非公開だからな。

 だけどこの人が協力してくれたら……」


 データベース設計は安泰になるだろう。

 しかしこれだけ有名な人であれば、高額な報酬を要求されるかもしれない。


「ねぇ、恭ちゃん、そのホワイトハッカーが男なのか、女かわからないのにどうやって探すの?」


「うーん。ハッカーってことは自分の正体を明らかにすることはないだろうから、この状況から探すのは厳しいかもしれないね」


 と俺が言った矢先、ねねがもったいつけるようかのような表情をし、


「それなら、ねねに良い考えがありますよ!」


「なんだよ。もったいつけないで教えてくれよ」


「ちゃんとこの開発が終わったらご褒美くださいね☆」


「もちろんだよ。だけど俺にできることにしてね。あとエッチなことは駄目だからね」


「もちろんです」


 やばい俺今フラグたてたかな……


「恭ちゃん、エッチなことって?」


 やばいっおもわず余計なことを口走ってしまった……

 だって、ねねってなぜかわからんが俺にエッチな悪戯をしてくるんだもん。


「えっちじゃないよ。エイチだよ。ハイのエイチね。高級なものは駄目だってこと」


「ふーん」


 凛さんは細目で俺をみつめる。

 完全に疑ってるな……


「それより、ねねの考えを教えてくれよ」


「しょうがないですねー」とねねは俺に人差し指を立て、


「ツヨポンに聞いてみるのはいいかがですか?」


「ツヨポンって?」


「えっとね。俺たちと同じ高校に通う先輩だよ」


 別名豪鬼先輩、見た目、性格共にストツーのキャラソックリで、隙があれば俺を殺そうとする殺人鬼。

 如月さんのファンクラブ会長という一面もあるのだが、面倒臭くなりそうだから、伏せておこう。


「確かに乱銅さんは顔がとても広いから(ファンクラブ100人越えの会長だからな)、ホワイトハッカーの情報を持ってるかもしれないね。それじゃあ、まずは乱銅さんに聞き込みをしてみるか」


 と、状況は進展しそうだからいいのだが、なんかすっごくもやもやしてきて、憂鬱になってきたのはなぜだろうか……

 そうか、情報を得るためには乱銅さんと会わないといけないからか。


「それでさ……乱銅さんに聞くのはやっぱり俺だよね。皆を誘っておいてなんだけどさ」


 乱銅さん苦手なんだよな。

 この大役だけはできれば変わって欲しい。


「おにーさんが嫌ならあたしが話をききましょうか」


「むぅ、それは私の台詞なんですけど……」


「あたしがやりますから、年上のおばさんは黙っててください」


「はぁー。だれが、お・ば・さ・んよっ。私とあなたって二歳しか違わないじゃない」


「そんなにガミガミ怒っていたら、皺ができますよ」


「なんですって!」


「もぉーなにかにつけて、喧嘩はやめて! 俺、自分で聞けるから」


 あー、俺が乱銅さんに話を聞くことになっちゃったよ。

 でも二人が言い争うよりはましだよな。


 この後、俺は二人にお願いすればよかったと激しく公開するのであった。

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