第23話 彼女とお風呂(その3)(改)

彩夏祭さいかさいに如月詩愛を誘って、神樹参拝かみきさんぱいに参加することだ 』


「2つ目のミッションはそんなことでいいのか?」


『ああ。簡単だろ』


 ミスターXが言うように誘うだけならば、それほどハードルは高くはない。あくまでも誘うだけならばね。しかし今までのミッションを考えると容易に達成できる事を依頼してくるはずない。

 だって前回がキスだよ! 俺はそのキスをする為に何度窮地に立たされたことか…駄目だ駄目だ、今は後ろを振り返るよりも前進あるのみだ。


 俺はスマホで彩夏祭と神樹参拝について調べてみることにした。

 まず彩夏祭だが、この町で年一回初夏に開かれるお祭り。 昼は神輿みこし、夜は盆踊り、また屋台もたくさん出て、来場者数も1万人を超える大規模なお祭らしい。

 お祭りと聞くとワクワクするのだが、1万か……インドア生活を送っている俺としては、人がゴミのように集まるところには行きたくない。


 まぁ、それはさておき、続いて神樹参拝。

 神樹参拝は一年に一回、彩夏祭が終ってから一時間だけ解放される特別なイベントで、樹林数千年といわれる神聖な樹に願い事ができる。

 そ、それってまるで某有名恋愛シュミレーションゲームの伝説の樹じゃないか。


 補足の説明があって、カップルのみ参加でき、願い事が何でも叶うと書かれている。

 願い事はともかく、カ、カップル限定か……急にハードルが高くなったな。

 俺と如月さんは仮にとはいえ、恋人同士だから、参加資格はあるけれど。

 しかし問題は如月さんが俺と行くことを承諾してくれるかだ。この手のイベントには本当に好きな人と参加したいって思うんじゃないのかな。


 あと余談だが、彩夏祭の次の日がプログラミングコンテンストの提出日である。

 だから、彩夏祭まで凌げは俺の夢を阻害するものはなくなり、ミスターXの言いなりとなる必要もなくなる。


 ミスターXから続けてメッセージがきて、


『しかしここで問題が一つある。実は彩夏祭まであと一か月なのだが、お祭を盛り上げる為のある重要なシステムが完成していないのだ』


 急に話題を変えてきやがったな。

 完成していない理由が気になったので、俺はミスターXに問うた。


「何かあったのか?」


『開発業者が倒産してしまって……』


 それは気の毒だな。

 しかしこの業界って倒産よくあるんだよな。

 他人ごとではないから胸が痛い。

 しかし、なんで俺にこんな話をするんだ?

 ま、まさか……


『たしか君はプログラムが書けるよね?』


 なんだこの意味深な質問、嫌な予感しかしないのだが。


「そんなこと聞いてどうするんだよ」


『書けるよね?』


「……………………」


 俺の質問に答えず、催促してきやがる。

 書けると言ったら、災いがふりかかってくるんだろ。

 そんな地雷踏んでたまるか!


『はぁー恭介君にはがっかりだな。すぐに書けると即答して欲しかったところだ。その程度の意気込みでプログラミングコンテストに参加しようと思っていたとは……』


 なんだよ、その残念感は!!!

 しかしなんか、かちんとくる言い方だな。


『非常に残念だ。そんなことじゃ、君の夢も叶わず終わるんだろうな。まぁそもそも大した夢じゃないしな』


 ミスターXが俺の夢の事を知っていることも気になったのだが、それよりも、


「俺の夢を否定するなよ。俺は絶対夢を叶えてみせる。そのためにこれまでプログラミングの技術を磨いてきたんだからな」


 俺がそう返すと、ミスターXが、


『なるほど、夢をバカにしたつもりはなかったのだが、再確認するが君はプログラミングを書け』


「る」


 俺の頭の中で爆発音が鳴り響く。

 かぁーっと頭にきて、本音を言ってしまった。

 まんまとミスターXの誘導にはまってしまうとは……


「それで俺は何をすればいいんだ?」


『君にはシステム開発の手伝いをして欲しいんだ』


 やはり、そう来るよな。


『心配しなくてもいいぞ。もうすでに君の事は先方に伝えてあるから』


「勝手に物事進めるなよ。手伝ってって言い方してるけど、強制参加なんだよな?」


『あああ、もちろん君に拒否権はない』


「やっぱり……」


 毎度お馴染みのパターンで俺も慣れたよ。


『この重要なシステムが完成し、イベントが開催されないと彩夏祭は盛り上がらないぞ、もしかすると神樹参拝も中止になってしまうかもしれない。そうなって後悔するのは君だからな』


 なぜ後悔するのかわからない。

 だけど困っている人がいれば助けたいし、よくよく考えるとシステム開発は俺の経験にもつながるし悪い話ではない。


「神樹参拝が中止になるとは思えないが、困っている人がいるなら仕方ない。俺で力で役に立てるなら手伝うよ」


『君ならそう言ってくれると信じていたよ』


「それで、どんなシステムを開発するんだ?」


『美少女コンテスト投票システムだ』


「なんだよ、そのシステム名はっ」


『やりたいことはだな、お祭りの参加者が特設サイトに載っている女の子たちを見て、スマホを使い、気に入った女の子に投票できるようにする。リアルタイムに集計して、結果を彩夏祭のページに表示して欲しい。ラスト30分は盛り上げる為に、投票数を非表示にしてね』


「町内会の連中はそんなエッチな、いや素敵なイベントを考えていたのか」


『エッチとはどういうことだ?』


「だって美少女コンテストといったら水着を着るのは定番だよな。それも開催時期が夏だし」


『み、水着だと!!! そんなこと聞いてないぞ。そ、そんな水着姿を晒すんて……』


 なぜかわからないがミスターXが激しく動揺している。

 お前は男だから関係ないだろうに。


『如月詩愛も参加するのだから仕方ないか』


「えっ如月さんも参加するのか?」


『如月詩愛、橘凛、可愛ねねには美少女コンテストに参加してもらう。町の盛り上げの為に彼女たちにもひと肌脱いでもらう』


 如月さん、凛さん、ねねの水着姿が見られるのか!?

 それは大変楽しみではあるが……

 というかなぜ凛さんとねねをミスターXが知っているんだ? 繋がりが全くわからん。


「凛さんやねねはともかく、よく如月さんが引き受けたな」


『あーその事で一つ言い忘れていたが、まだ彼女たちには美少女コンテストへの参加のことは告げていない』


「なんだよ。それじゃあ、参加するかわからないじゃないか」


『だから如月詩愛の説得は君に任せた』


「任せたって……神樹参拝を誘うよりもこっちのほうがハードルが高いじゃないか」


 絶対無理だって!

 あの恥ずかしがり屋の如月さんが承諾するとは思えない。

 それにどうやってコンテストをするのかわからないが、人前で彼女がトランスしたら大変なことになる。

 それだけは阻止しなくては。


「あっ、凛さん、ねねはどうするんだよ」


『二人には私の方から依頼しておく』


 ミスターXは二人と関係がある人物か、もしかするとミスターXの正体を暴くことができるかもしれない。


『あといくつか制約事項がある 』


 なんだよ、制約って。


『一つ目は今回君が彩夏祭の手伝いをすることは如月詩愛に言ってはいけない』


 俺はここ一週間の出来事で秘密にするというのが苦手なタイプということがわかった。ねね、凛さんにばればれだったからな。二人がするどいだけなのかもしれないが。


『それとだな』


「まだあるのかよっ」


『今回のミッションは一人で達成できない。だからチームを組んでもらう。メンバーは君の自由にしていい。まずはメンバーを集めてくれ。メンバー集めの期限は明日までだ』


 チームか。

 確かに今回のシステムを開発する為には、コードを書くだけじゃなくて、画面デザイン(町の風景やイラスト、テキストの表示)も必要になってくるから、デザインソフトが扱えてる人の力が必要だな。

 しかしひきこもりで友達の少ない俺に手伝ってくれそうな人っていたっけ?

 まぁそれは後で考えるか。


「一つ聞いてもいいかな? どうして彩夏祭の手伝いをするんだ? 如月さんに何か関係があるのか?」


『それは秘密です』


「まぁそういうと思ったよ。あんたは俺に大事なことは何も教えてくれないもんな」


 ・2つ目のミッションまとめ

 如月さんと神樹参拝に参加すること

 如月さんに美少女コンテストに参加してもらうように説得すること

 美少女コンテストの投票システムを期限までに完成させること


 *************************************


 ミスターXとのメッセージ交換が終り、俺はお風呂場に入った。

 お風呂場は白を基調としていて、清潔感があり、またシャンプー類は整頓されていて、壁、床、浴槽はピカピカである。忙しいおじさん、おばさんに代わって家事全般をしているのは凛さんなのだが、お風呂だけじゃなくて家の至るところがピカピカなんだよな。さすが凛さんである。

 それじゃさっそくと俺は風呂場のイスに座り、体を洗おうとした瞬間、


「恭ちゃん、ちょっといいかな」


 お風呂場の外から凛さんの声が聞こえてくる。

 凛さんどうしたんだ?

 さっきバスタオルと着替えを受け取ったし、他に何かあったっけ。

 すると凛さんが、


「入浴剤渡すの忘れてたから」


「あっ凛さん、持ってきてくれたんだね。ありがとう」


「恭ちゃんの大好きな炭酸の入浴剤だよ」


「やったー。シュワシュワするやつだよね! すごく気持ちよくて癒されるんだよ」


 俺が歓喜していると凛さんは、


「恭ちゃんに喜んでもらえてよかった♥ それじゃあ、着替えの上に置いておくね」


「うん、わかった」


 俺はそう言って、体洗いの続きをする。

 ごしごし、と体を洗っていると、洗面室からごそごそと音が聞こえてきた。

 凛さん何か用事でもしているのかな?

 すりガラスから洗面室の様子はわからないが、この音って服がすれる音ではないか? ま、まさか服脱いでいるわけじゃないよね?

 いやいやいや、俺がお風呂入っていて、いつドアを開けてもおかしくないシチュだ、凛さんが服を脱いでいるわけがない。

 ドキドキしてきちゃうからあまり意識するのは止めよう。

 それからしばらく俺は無心で体を洗っていたのだが、お風呂場のドアが開き、


「恭ちゃん、入っていいかな?」


 凛さんの声が聞こえてきた。


「えっ、入るって、どういうこと?」


「恭ちゃんの背中洗ってあげようとおもって」


「洗ってあげようと思ってじゃないよ、絶対ダメだって」


 すると凛さんがお風呂場に入ってきて、


「どうして?」


 と言った。

 まさかお風呂場に入ってくるとは、思わず油断していた。俺は凛さんにお〇ん〇んを見られないように両手で隠くし、


「ちょ、ちょっと入ってきちゃだめだよ。凛さん女の子なんだから、絶対ダメだって」


「私たちよく洗いっこしてたじゃない!」


「語弊のある言い方やめてね。確かに背中洗ってもらったことあるけど、それは小学生の時のことね。それに……」


「それに?」


「り、凛さん、な、なんで裸なのさ」


「裸じゃないよ。タオルで隠してるし」


 俺は顔を赤くし、そっぽを向き、


「俺たちもう高校生なんだし、それに……」


 横目でちらっと凛さんを見る。

 凛さんの発育具合に驚愕してしまった。

 でるところはかなり出ていて、ひっこむところは中々ひっこんでいる。

 タオルでは隠し切れない豊満なボディだ。

 そんな女の子と一緒にお風呂で二人きりは危険すぎる。

 凛さんには絶対言えないけどね。


「ねぇ、ねぇ、恭ちゃん、なんで顔を赤くししているの? もしかして私のこと意識してくれてるってことかな」


「あたりまえだろ。意識するに決まってる」


 タオルで前は隠しているが美少女が裸でいるのだから。


「これはもう何かあっても言い訳できないレベルだよ」


「恭ちゃんのこと信じてるし、もし何かあったとしても、恭ちゃんならいいかも」


 いいかもじゃないよ。何かあったらおじさんに殺されちゃう。

 というか恩を仇で返すようなことはできない。


「よくないよっ。凛さんもっと自分のこと大切にしろよ」


「恭ちゃん……」


「どうしたの、凛さん?」


「私、恭ちゃんとだったら初めてバージンあげてもいいと思ってるんだよ」


「えっ」


 二人きりのシチュでそんなエッチなことを言われても……

 しかし凛さんほどの女の子が俺に”初めてをあげてもいいよ”なんて本気で言っているわけがない。

 ねねの一件もあるし、きっと凛さんも俺の事をからかっているのでは?

 いや、しかし凛さんにかぎってそんなことは……もういろいろ考えるのは止めよう。

 ここは一旦凛さんを風呂場から出て行ってもらわないと。

 だけど凛さん俺の背中を洗うまで、お風呂場から出ていく気配はない。

 しょうがない。

 背中、背中だけだ。

 俺の理性よ持ちこたえてくれ。


「わ、わかった。それじゃあ、背中洗ってもらおうかな」


 凛さんはとても嬉しそうな表情をして、


「うん」


 凛さんはスポンジを手に取り、ボディソープをつけ、俺の背中に優しくスポンジをこすりつける。

 人に背中を洗ってもらうのって、こんなに気持ちよかったっけ。


「恭ちゃん、どうかな……痛くない?」


 どうかって。

 気持ちいいにきまってるじゃん。

 昇天しそうだよ。


「うん。すごく気持ちいいよ。凛さんありがとう」


「よかった。痒いところある?」


「大丈夫だよ」


「それじゃあ、前を向いて」


「えっ? 凛さん何を言っているのか意味がわからない」


「だって後ろからじゃ、洗いづらいから」


「それはわかってるよ。俺が言いたいのは洗うのは背中だけって約束したろ?」


「そうだけど、せっかくだから」


「せっかくってどういうことだよ?」


「恭ちゃん最近頑張ってるじゃない? プログラミングコンテンストも来月提出だし、私恭ちゃんの為に何かしたいの、でも私にできる事なんてこれくらいしかないから」


「気持ちはありがたいけどさ」


「じゃあ、いいよね?」


「それとこれとは話が別だよ」


 俺がそう行ったのもつかの間、


「別に背中からでもいいんだよ」


 そう言うと、凛さんは後ろから手をまわし、俺の胸部をスポンジでこする。


「駄目だよ、凛さん。それ以上はいろいろな意味で」


 鼓動が高まり、体が熱くなる。


「恭ちゃん、我慢しなくていいんだよ。気持ちいいでしょ」


 凛さんは俺の耳にふぅーと息を吹き付けかける。

 びくっと体が震える俺。

 我慢、我慢だ。

 そんな俺の気持ちを知ってか、凛さんは妖艶な顔つきで俺を見つめる。

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