第24話 彼女とお風呂(その4)

「恭ちゃん……」


 凛さんは体を震わせ、うるうるした瞳で俺を見つめ、


「やさしくしてね……」


「もちろんだよ。だけど、初めてだからちゃんとできるかわからないけど」


 俺は不安な気持ちを凛さんにぶつける。

 すると凛さんはやさしく、


「大丈夫、私が優しく教えてあげるからね」


 そう言うと凛さんは俺の体にそっと手を触れる。

 そして俺は凛さんに誘導されるがまま、体を動かしていく。


「凛さん、ここかな……」


「もっと、下だよ」


「こう?」


「そう……ゆっくり、優しくだよ」


 俺がゆっくりと体を動かしていくと、


「あっ、すごく気持ちいい。恭ちゃんとっても上手だよ」


 凛さんの表情がエッチでたまらい、体が熱くなってくる。


「もっとはやく動かしていいよ」


「うん」


「本当に上手。初めてだとは思えないね。これなら他の女の子相手でも安心だね」


「って、何が安心なんだよ。それに俺たち一体何やってるのさ」


 俺は凛さんに訴えかける。


「もうっ、雰囲気が台無し。恭ちゃんが女の子慣れしてないから、女の子の背中を洗う練習してるんでしょ」


「そうだったね。ごめんなさい」


 そう、俺は凛さんとお風呂場という密室空間、そしてエッチなシチュで女の子の背中を洗う練習をしていた。

 俺、本当何やってるんだろうね?

 そもそも、なんでこうなったのかというと、それは遡ること数分前。


 *************************************


「凛さんやめて!」


 俺が必死に抵抗するのもむなしく、凛さんは悪戯めいた表情で、


「やだもーん。絶対やめない」


 凛さんは俺の体をぎゅっと抱きしめてくる。

 タオル一枚隔てている状況とはいえ密着しすぎだよ、まじで、やめてくれ。

 どうにかなりそうだ。


「もうっ。どうしたらやめてくれるの?」


「それじゃあ、如月さんにしたことと同じことしてくれたら止めてあげてもいいよ」


 え……如月さんと同じこと?

 凛さんは俺に何をさせようとしているんだ。


「如月さんと同じ事って?」


「キスとか……」


 キスと言われて、思わずドキっとしてしまう。

 続けて凛さんは、


「エッチなこととか」


 顔がかぁーっと熱くなる俺。

 思わずトランスした時の如月さんのことを思い出してしまった。

 やばいさらにドキドキしてきた。


「恭ちゃん、わかりやすいね。すごくドキドキしてる」


「り、凛さん何言ってるんだよ。俺と如月さんは付き合ったばかりだよ、え、エッチなことなんてするわけないだろ」


「エッチしてないのはわかってるよ。恭ちゃん奥手だもんね」


 なんかひっかかる言い方だな。

 俺だってやる時はやる男だよ(いい意味で)。


「だけどキスしたんだね」


「どうしてわかるの?」


「恭ちゃんの顔みてたらわかるってバレバレだよ」


 やっぱり顔に出てるのか。

 今後の為にもポーカーフェイスのスキルを取得しなくては。


「で、でも。ちょ、ちょっとしかしてないし」


 キスしたと言っても、少し如月さんの唇に触れただけなんだけどね。


「ちょっとって何? キスはキスだよね」


「そうなるのかな……」


「それじゃあ、私ともキスして」


「なんでそうなるんだよ」


「さっきも言ったじゃない。如月さんと同じことしてくれたらやめてあげるって」


 そう言うと、凛さんはそっと目を閉じる。

 もう言ってることが、めちゃくちゃだよ。

 凛さんを見ると、未だ目をつぶっている。

 これが噂のキス待ち顔なのか。

 可憐で、可愛くて、艶のある唇を見ていると思わずキスしたくなってしまう……


「うぅ……」


 おもわず凛さんの顔に自らの顔を近づけてキスしそうになる俺。

 しかし、キスする寸前でなんとか持ちこたえる。

 グッジョブ俺の理性。


「それでも駄目。キスなんてできるわけないじゃん」


「もー、なんでよー」


 至極不服そうな顔をする凛さん。

 大事な人なのに軽はずみな行動はできんっ。

 俺のおもいとは裏腹に続けて凛さんは、


「それじゃあ、さっきの続きする? キスよりもっとすごいことになるよっ」


 そう言うと凛さんは、エロい手つきで俺の胸部を触ってくる。

 思わず体がびくっと震える。

 えろい、えろすぎるよ凛さん。

 エッチなお姉さんは好きだけどさ……

 理性という名の壁がどんどん崩壊していく。

 そんなことされたら俺は……


「凛さん、駄目だってこれじゃまるで……」


 続きを言いかけて、言葉を止める。


「まるで?」


「い、いや何でもない」


 エッチなお店みたいじゃん! なんて口が裂けても言えるわけがなく。

 それにしてもなんで女の子って、こんなに俺に意地悪なんだよ。

 如月さん、ねね、凛さんと俺を悩ませてくれる。

 女の子ってそういうものなのか?

 そんなこと考えている場合ではない凛さんを何とか説得して、この場を切り抜けなくては。


「やっぱり、駄目だよ」


 俺は立ち上がり彼女から逃れようとするのだが、状況はさらに悪化する。

 凛さんも俺を追って立ち上がり、


「恭ちゃん、私から逃げようとするなんてひどい、だったらこうしてやるわ」


 凛さんがそう言った後、凛さんの体を隠していたタオルが床に落ちる。

 そして俺の背中に柔らかいものが当たる感触がした。

 それも二つも……

 鈍感な俺でも何か察しがつくのだが、


「凛さん背中におっぱいが当たっているんだけど」


 そう言って、後ろを振り返ると、凛さんが顔を赤くしているのが見えた。


「恭ちゃんのエッチ……」


 そんな事いわれたら、俺が無理やり凛さんにやらせてるみたいじゃないか。

 いや、それにしても凛さんがこんなエッチな女の子だったなんて知らなかったよ。


「今日の凛さん何かおかしいよ。一体何があったのさ?」


「……………………」


 凛さんは俺の質問に答えなかった。

 シャワーが降り注ぐ音だけがお風呂場に鳴り響く。


 それからしばらく経って、


「だから……」


 そう言うと、凛さんは俺の背中に顔をうずめた。


「凛さん?」


「わ、私……恭ちゃんと如月さんが付き合ったって聞いて、すごく怖くなったの。これまでずっと近くにいてくれた恭ちゃんがどこか遠くに離れていっちゃうんじゃないかって……」


 その声はとても弱々しく、寂しげだった。


「凛さん、さっきも言ったろ。凛さんを大事にしたいって気持ちは変わらないんだって」


 凛さんは首を横に振り、


「恭ちゃんが言ってくれた言葉嬉しかった。信じてるよ、だけど違うの。そうじゃないの」


 違うって何がだ。

 凛さんの考えていることが全くわからない。

 俺は凛さんを安心させてあげたいんだけど、どうすればいいのかわからない。


「凛さんどうしたら安心してくれるのかな?」


「さっきから何度もいってるよ」


 凛さんの言葉を思い返すが見当がつかない。


「………………………………………………………………」


「恭ちゃんのバカっ、鈍感男」


「鈍感って……」


「どうしてわかってくれないの?」


「そんなこと言われてもわからないものはわからないよ」


「恭ちゃんのばかばかばかー」


 凛さんがぽこぽこ俺の体を殴ってくる。

 殴るのはいいのだが、前を隠してくれ。

 俺このままじゃ頭に血がのぼりすぎて、倒れちゃうよ。


「もういいっ。恭ちゃんがしてくれないなら私、お風呂から出るっ 」


 そう言って凛さんがお風呂場を出ようとすると、


「ひゃっ」


 凛さんは先ほど床に落としたタオルに足を滑らせ、体制を崩す。

 俺はとっさに凛さんを支えようとしたのだが、俺と凛さんはその場に倒れこんでしまった。


「いてててて」


 よくわからないが、俺の前にお風呂場の天井が広がっている。

 倒れた衝撃で頭を打ったせいか、クラクラしている。

 意識が朦朧とし、今の現状がよくわからない。

 一つだけわかること、それは俺の体の上に柔らかくて、あったかくて、すべすべした何かがのっているということだ。

 その正体を確かめようと、手で何度か触ってみる。


「あ、駄目」


 凛さんの恥じらう声が聞こえる。

 どうしたん凛さん何かあったのか?

 俺に助けを求めているように聞こえる。

 いや、それにしても、とんでもなくすべすべしていて、触り心地がいいなこれ。

 しかし早くこの上にのっかている何かをどかして、凛さんを助けにいかないと!

 俺は両手で、その何か掴もうとするのだが、石鹸のようのものがついているらしく、すべって中々つかめない。

 もう、このすべすべしていて、触り心地のいい物体はなんなんだよ。

 俺はなおもこの物体を動かそうと色々なところを触っていると、


「も、もう。や、やめて、恭ちゃん……恥ずかしい。そんなことされたら私……」


 俺にやめてってどういうことだ?

 ん? まてよ。そういえばさ、お風呂場にこんな大きいものはなかったよね。

 って、ことは、まさか……

 意識が回復してきて、現状をなんとなく把握してきたのだが、俺は恐ろしくやばいことをしているのに気がついた。

 俺は恐る恐る声のする方へ視線を下げると、顔を真っ赤にした凛さんの顔が……

 どうやら体の上にのっていたの凛さんだった……


「恭ちゃのエッチっ! したくなっちゃったんだね」


 やばい凛さん完全に勘違いしてる。

 というか勘違いさせる行動をとってしまった俺が悪いのだが。


「ごめん、勘違いさせちゃったようだけど、これは不可抗力というか、凛さんがおもっているようなことは決してないから」


 凛さんは深くため息をつき、


「恭ちゃんのバカバカバカ、私の体を弄んだくせに、私もうお嫁にいけないわよ」


 そんなことはないけれど、勘違いさせてしまったのは俺のエッチな行動のせいだからな、どうにかして許してもらわないと。


「ごめん。どうしたら許してくれるかな?」


「私、恭ちゃんの初めてが欲しいの」


「そんなエッチな顔で要求されても……」


「エッチって言わないでよ。恭ちゃんのいじわる。それに恭ちゃんの方がエッチなこと私にしたんだからね」


「はい、そうです。ごめんなさい」


 結果的に幼馴染の体を弄ぶというエッチな結果となってしまった。

 しかし、凛さんだって、俺に散々エッチなことしてきたじゃないか。

 と俺が色々と考えていると凛さんは、


「如月さんとキスしたんでしょ?」


「うん、まぁ」


「はっきり言って」


「そうだよ。キスしたよ」


「如月さんにフォーストキス奪われちゃったけど、私も恭ちゃんの初めてが欲しいの」


 やばい。凛さん顔がまじなんだが……もうこれは誤魔化してなんとかなるレベルじゃないな。

 俺もエッチなことしちゃったしな。

 すごく恥ずかしいけれど……


「凛さん」


 俺はまっすぐ凛さんを見つめ、


「はいっ」


「凛さんの体洗わせてもらってもいいかな?」


「あ、恭ちゃん、それって」


 凛さんは恥じらうように両手で体を隠す。


「か、勘違いしないでね。俺、女の子の体洗ったことないし、もしかしたらそんな機会もくるかもしれないから、だからさ、あっ、本当に背中を洗うだけだから」


「もう、恭ちゃんのバカっ。でも恭ちゃんらしいね」


 というわけで、俺は凛さんの背中を洗うことになったのである。


 *************************************


「凛さん、とっても嬉しそうだね」


「うん、だって恭ちゃんの初めてもらったんだもん」


 そんなに俺の初めてもらって嬉しいもんかね。

 まぁ昔から弟のように可愛がってもらってたしな。

 凛さんにも思うところがあるのだろう。

 と、今の現状を説明すると背中洗いっこが終わって、俺と凛さんはお風呂に二人で入っている。

 二人で入るのは小学生ぶりだろうか。まさか一緒に入る機会がまたやってくるなんてね。

 しかし大人の一線は越えることはなく、間違いをおかさないで済んで本当によかった。


「恭ちゃん、何考えてるの?」


「いや、まさか凛さんとお風呂に入る機会がまたくるなんてね」


「昔は一緒にはいってたじゃない。たまには一緒にはいる?」


「もうっ、そんなこと言わないの!!!」


「うふふ」


 凛さんは笑っているが、俺は嬉しさと不安で胸がいっぱいだった。

 だってお風呂に入ったことは如月さんやミスターXに絶対にばれちゃいけない。


「凛さん」


「何? 恭ちゃん」


「お風呂に一緒にはいったこと、絶対内緒だからね。他の誰にも言っちゃだめだよ」


「うん。恭ちゃんと私だけの秘密だよ」


 そう言って、凛さんはこの日一番の笑顔で笑った。

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