第20話 彼女と彼女の部屋(その3)(改)最終確認はここまで
「大好きっ♡」
「えっ!? えぇええええええええええええええええ」
ねねの言葉に開いた口が塞がない。
こいつ、いきなり何言い出すんだよ。
ねねは意地悪そうに続けて、
「あっ、おにーさん何固まってるんですかー? もしかして、あたしが告白したと思ってますか?」
もちろん思ってるよ。
これが告白じゃなかったら、何が告白なんだよ。
ねねはさらに続けて、
「おにーさんとして、大好きってことですよ」
ん? おにーさんとして?
どういうこと? 全く理解ができない。
「うふふー。もう、おにーさんって可愛いんですからっ」
「ねね、俺のことおちゃくりすぎだから……」
「そうだっ、おにーさんにお聞きしたいことがあるのですが……」
突然話題を変えてくるねね。
もうっ、ねねのペースについていけない。
「詩愛さんのこと無事に決着がついたってメッセージを頂きましたが、どうやって解決したんですか?」
ああ、そうだ。
詳細は伝えてなかったんだよな。
俺はねねにミスターXや如月さんのトランスのことは伏せ、言える範囲で事の成り行きを説明した。
「本当にあの時はありがとな。ねねにアドバイスしてもらったおかげだよ」
「いえいえ、おにーさんのお役に立てたようであたしも嬉しいです☆ おにーさんの行動は想定以上でした」
ねねは、ぱんっと手のひらを合わせて、
「ということは、これでおにーさんは詩愛さんと晴れてお付き合いすることになったんですね」
俺がコクンと頷くとねねは、
「本当に告白したんだ……」
ねねはうつむき、寂しそうな表情をする。
「どうした、ねね?」
ねねはむっとした表情で、
「おにーさんのせいですよ」
おれのせいって?
そして、ねねは覗き込むように俺を見て、
「確認しますが、本当に付き合ってるんですか?」
何疑ってるんだよ。
”付き合っちゃえ”って言ったのはねねほうだぞ。
「もしかして、おにーさんと詩愛さんって付き合ってるふりをしてるんじゃないですか?」
こいつ、勘がいいな。
「誰にも言ったりしませんから、ねねにだけ本当のことを教えて下さい!」
「だから本当に付き合ってるんだって」
ねねのことを信用していないわけではないが、どこから火種が上がるかわからないから誰にも話すことはできない。
しかし、なんでねねにばれてるんだ?
もしかしたら学校のやつらにもばれてるんじゃ……
「ねね、ちょっと聞きたいんだが、どうして付き合ってるふりをしてるって思ったんだ?」
「それはですね。おにーさんって、女の子慣れしてないじゃないですかー。だから告白したなんて信じられないんですよ。だけど、おにーさんの話を聞いていたら詩愛さんの事とても大切にしてるんだなーと思って。だから付き合ったふりをして、詩愛さんのことを守ろうとしてるじゃないかなーって思ったんですよ」
限りなく正解に近いというか、正解なのだが認めるわけにはいかない。
「ねね名推理だが、俺と如月さんは間違いなく付き合ってるんだよ」
「ふーん」
そう言って、ねねはおれの胸に手をあててくる。
いきなり手をあてるもんだから、変な声がでてしまった。
「どうしておにーさんはこんなにドキドキしてるんですか? 彼女いるんですよね?」
「ドキドキしちゃうのは彼女いるなし関係ない。ねねの行動のせいだ」
「うふふー。おにーさんは本当におもしろいですね」
俺はこほんと一息つき、
「スポーツも勉強も容姿も平凡で、おまけに家にひきこもってばっかりだけど、やる時はやる男なんだよ」
自分で言っといてなんだが、どんな男だよ。
「おにーさんって本当は頼もしい男の子なんですね」
なんだ、突然……
そう言うとねねは俺に身を寄せてくる。
「ちょ、ちょっと。ち、近いって」
甘いシャンプーの香りが俺の鼻腔をくすぐる
しかも至近距離のところにねねの顔があり、今にもキスができそうだ(しないが)。
これって、何かあっても言い訳できないよ? わかってるの?こいつは……
「ねね、二人きりの部屋で一体何してるんだよ」
「何って、おにーさんに甘えてるだけじゃないですかー」
「甘えるって、今日のおまえ本当おかしいぞ」
「どうしてですか? 頼もしいおにーさんと仲良くなっちゃだめですか?」
「仲良くって俺には彼女がいるんだから、やっぱりこういうのはよくない」
俺は仲良くの定義をはきちがいしているのか。
こんな風に至近距離でスキンシップするのは好意があるもの同士だと思っていたのだが、最近は友達でもこれが普通なのか? そうであると俺の価値観は崩壊してしまう。
「そうやって正論で突き放そうとしますが、どうせあたしの事嫌いなんですよね」
「ねねのことが嫌言ってるわけじゃないよ」
「だったら、あたしのこと今日から妹とおもってください」
こいつ言ってことがむちゃくちゃだな。
「おにーさんは妹が欲しくないんですかっ?」
妹といえば、男子の憧れの存在。
ねねのような可愛くて、話しやすい妹がいたら、毎日楽しくなりそうだ。
「そりゃあ、こんなに可愛い妹がいたら嬉しいが……」
何いってるんだ俺。
「あたしもおにーさんみたいなおにーさんが欲しかったんです。おにーさんも妹が欲しかったんでしょ? だったらいいじゃないですか」
「よくないっ!!! それにおにーさんみたいなおにーさんってなんだよ」
「もうっ、おにーさんのわからずやー」
し、しかし承諾するわけにはいかない。
血がつながっていない他人なのだから。
それにパンツを見せてくる妹って、エッチすぎて妹とおもえんっ。
と、次の瞬間。
ピンポーン。
インターホンが鳴る。
「あっ、きたきた?」
「何が来たんだ?」
「おにーさん小腹が空いたんじゃないかなっておもいまして、お寿司を頼んでみました」
「まぁ、確かにお腹少し空いてきたな」
「乱銅寿司ー♡、乱銅寿司ー♡」
今、乱銅って言ってなかったか?
ま、まさかな……乱銅って、あの乱銅じゃないよね。
まぁ乱銅って、佐藤や田中みたいによくある名前だから。
いやいやいや、よくある名前じゃないよっ、俺の知る限り乱銅がつく苗字は一人しかいない。
ねねは電話の子機を使い、
「はーい。可愛です」
「まいどー。乱銅寿司です」
電話越しに聞こえてくる声を聞いて、全身の毛が逆立つ。
こ、この低音の声は聴き間違いようがない乱銅さんの声だったから。
もはやこれは狼に襲われる直前の三匹の子豚の心境で、知らず知らずのうちに体が震えていることに気づく。
「なんかお腹いっぱいになってきたなー。キャンセルできないのかな」
「できるわけないですよ。それじゃあ、おにーさんお寿司運ぶの手伝ってもらえますか?」
俺の直感が乱銅さんのプレッシャーを感じ危険と言っている。
ねねと一緒にいるところを見られたら確実に抹殺されると。
「ごめん。お寿司を受け取りに行ったら、俺はこの部屋に戻ってこれない可能性が高い。いや、確実に戻ってこれない。だから悪いがねね一人で行ってくれないか」
「もぅ、何わけのわからないことを言っているんですかー。お寿司を取りにいくだけなんですから、死んだりしませんよ」
その油断が死を招くんだよ。
おまえは乱銅さんがどれだけ俺を抹殺したがっているか知らないだろう。
そう言うと、ねねは俺の腕をつかみ強引に玄関へ連れて行こうとする。
如月さんといい、ねねといい、なんで俺の周りの女の子は俺のことを殺そうとしてくるのだろうか。
本当憂鬱になってくる。
終始嫌がる俺を無視して、ねねは俺を玄関まで連れて行く。
そして、ついに玄関(死刑台)に到着してしまった。
「やっぱり開けるよね?」
「もちろんです」
そして、ねねが玄関を開ける。
ドアが開くと、お寿司屋さんが声を掛けてくるのだが、
「おまたせしまし……」
お寿司屋さん、いや乱銅さんは途中で言葉を止め、唖然とした表情で俺たちを見つめる。
それもそのはず、ねねは彼女のように俺の腕に纏わりついている。客観的に見るとカップルのように、いやカップルにしか見えない。
だから、乱銅さんの反応は正しいと思う。
だってこの間、俺と如月さんが付き合うことを渋々認めてくれ、それから数日しか経っていないのに、別の女の子と腕を組んでいるところを目撃したんだから。
そんな乱銅さんの反応に異変を感じたねねが、
「どうかしましたか?」
「い、いや何でもない。それで、ねねちゃん、そちらの方は? 見かけない顔だが」
乱銅さんはにやりと笑って俺を見つめている。
何を言わせようとしているんだ?
ねね、絶対余計なことは言うなよ。
「セフレですよ」
「「はっ?」」
俺と乱銅さんはシンクロしたかのように息ぴったりに驚愕した。
何言ってるんだよ。
乱銅さんに一番言っちゃいけない台詞だよ?
「お二人とも、固まっちゃってますね」
「…………………」
俺も乱銅さんも今だ開いた口がふさがらない。
「嘘、嘘です。本当はねねのおにーさんですよ」
いや、それも違うでしょ。
俺はまだ承諾してない、いやいや苗字が違うし、おにーさんって言い訳にしか聞こえない。
「いや、突然変なこというから。驚いたぞ。全くいつも冗談がきついな。それにねねちゃん、おにーさんいたっけ?」
「今日からあたしのおにーさんになったんです。ねっ、おにーさん」
「そうなのか? 斎藤」
「いや、断じて違います。俺はねねの兄じゃありません。またこの状況は俺の意に反しています。信じてください乱銅さん 」
乱銅さん、頼む俺のことを信じてくれ。
殺さないでっ
「もうっ照れちゃって……あたしのパンツを」
ねねがさらに追い打ちをかけようとしたところ、俺は遮る。
「パンツがどうしたって?」
俺を食い入るようにみる乱銅さん。
答えを間違えた瞬間に瞬獄殺確定。
「パンツが落ちてるところを拾って、ねねに届けたんです」
「ちがいま……」
そう言いかけたところで、俺はねねの口を押さえる。
お願いだからもうしゃべらないでくれ。
「どうした?」
「何でもないです」
「そうか。てっきり如何わしいことをねねちゃんにしたのではないかと……」
「中学3年生の女の子にエッチなことする筈ないじゃないですか!」
「おう、そうだな。貴様には詩愛ちゃんもいるんだからな。もしもねねちゃんにまで手を出すようなことがあったら、お前を殺し、お前が生まれ変わってもお前を殺すところだったよ」
こえー。
この人本気で言ってるから質が悪い。
俺はねねの耳元に顔を近づけ、ねねにしか聞こえない声で
「妹でもいいから、もうやめてくれ。本当に俺この人に殺されちゃうから」
「えへへー。わかりました。おにーさん♡」
そう言うと、ねねは乱銅さんに、
「つよぽん、この話はおしまい」
えっ、つよぽん?、乱銅さんはねねにつよぽんって呼ばれてるのか!?
しょ、衝撃の事実がここに発覚した……
乱銅さんは顔を赤くし、
「その呼び方は止めてくれって以前から言っているだろう、ねねちゃん」
「えー、つよぽんはつよぽんじゃないですかー。だって、つよぽんが相談してきたんですよー。周りから怖い人だって思われがちだから、どうしたらいいかなって」
「わ、わかった。その話はまた今度。それじゃあ、これがお寿司だ」
焦る乱銅さん。
これは俺に追い風がきたか?
「お寿司はおにーさんに渡して下さい」
ねねがそう言うと、乱銅さんは俺にお寿司を手渡す。
すごい形相で俺を睨みつける乱銅さん。
なんで俺にそんなに厳しいの?
そして、ぐいっと俺の顔に近づき、耳元で。
「おい、斎藤。今、あったことは秘密だぞ。もし誰かに言うようなことがあったらわかってるな」
「はい……」
やばい。
ねねと話している時と全然声質というか、圧が全然違うんだが……
しかし乱銅さん程の男を手玉に取ってしまうとは、ねねってすごいやつだな。
「つよぽんとおにーさん、何話してるんですか―?」
不思議そうに首を傾げるねね。
「何でもない。俺と斎藤は仲良しなんだよ。なぁ」
「あっ、はい。もちろんです。サー」
俺と乱銅さんのやりとりを見てねねは、
「つよぽんとおにーさん、おかしいです」
そう言って、ねねは天真爛漫な笑顔を俺たちに向けるのだった。
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