1章パート2 彼女と彩夏祭編

第18話 彼女と彼女の部屋(その1)(改)

 日曜日の午後。


 プログラミングコンテストの作業が遅延していた俺は、金曜日の夜からこれまで集中して作業を行い、なんとか各種設計の作成が終わり、最後に残ったのはデータベース設計となった。


 データベースは、身近なところで言うとネットショップで使われている――例えばネットショップで買い物をする時、氏名、住所を必ず登録する。だが二回目以降に買い物をする時は入力を省略できる。それってどこかに情報を保持しているわけで、その格納場所のことをデータベースとよんでいる。データベースは俺たちの生活に欠かせないもので、あらゆるシステムで使われているのだ。


 ということで俺はデータベース設計に必要な本を買う為に、和光市駅前の書店にきていた。

 買うだけなら、大手の通販サイトでクリックすればいいのだが、ITの専門書って2000円~4000円する為、気軽に買えない。

 だからこうやって、実際に手に取り自分が必要な情報が記載されているか吟味する必要がある。

 まぁ実店舗に行くのは、いつも家に引き籠っているから、気分転換にもなるからね。

 目当ての本を無事購入し、ライトノベルコーナー物色していると、


「おにーさん」


 と大きな声が聞こえ、俺が振り返る間もなくこいつは俺に抱きついてきた。


「うわぁ、なんだ!?」


そいつは楽しそうに俺に声を掛けてくる。


「誰だとおもいますかぁー?」


 こんな事をしてくるのはあいつしかいない。


「ねねだろ。妹じゃないのに、おにーさんって呼んでくるのはお前しかいないからな」


「えへへ、あたりー。さすがおにーさんですね」


「さすがって……」


 ねねというのは、パソコン教室で知り合った中学3年生の女の子。

 茶髪ロングで、笑顔が印象的の超美少女だ。


「おにーさん奇遇ですね。まさか本屋で会えるなんておもっていませんでした」


 そう言って、目をキラキラさせながら俺を見つめるねね。

 ねねは続けて、


「おにーさん、おにーさん、おにーさん」


 ねねは猫のように俺の背中でじゃれてくる。

 こいつ俺のことを誘惑しているのか、おっぱいが背中に当たってるんだけど。


「ちょ、ちょっと。ねねはなれろって」


「いやでーす」


 ねねは楽しそうに俺に言う。

 俺もこの状況悪い気はしないが、こんなところ如月さんに見られたら非常にまずい。

 というか店員さんに通報されるほうが先か……


「ねね、どうしたんだよ? お店の中だしさ、そろそろ離れてくれ」


 すると、ねねの声のトーンが急に落ち、


「あの……もうちょっとだけ……いいですか?」


 なんか様子がおかしいな。


「いいけど、どうかしたのか?」


「……………………」


 ねねは俺の質問に答えなかった。

 それにしても山の天気のようにテンションが変わるもんだから、戸惑ってしまう。

 それからしばらく経って、


「はーい。おしまい。おにーさんありがとうございました」


 と言うと、ねねは俺から離れた。


「ねね、お前なんかおかしいぞ。本当に何かあったんじゃないか?」


「いいえ。何もないですよん♪ ご心配おかけしました」


 声のトーンは明るくなり、

 いつものねねに戻った。


「それならいいんだけど」


 まぁ、思春期の女の子だし、いろいろと思うことがあるのだろう。


「ところで、おにーさんは探し物ですか?」


「あ、前に話したプログラミングコンテストに必要な本を買いにきたんだよ」


 と、俺は先ほど購入した本をねねに見せる。


「なるほどー。見つかってよかったですね!」


「ねねこそ、何を買いにきたんだ?」


「実はおにーさんにパソコンを教えてもらった後に、パソコンを買ってもらったんですが、箱からだしたのはいいのですが、その後ちんぷんかんぷんで、入門書を買いにきたんですよー」


「そんなのねねのパパにやってもらえばいいだろ」


「パパにお願いができないから、困ってるんじゃないですか!!!」


 ねねはぷぅっと頬を膨らませる。


「そりゃそうだよな。ごめんな、ねね」


「わかってくれればいいんですが。あっ! ちょうどよかった」


 ねねはぱんっと手を合わせ、何か思いついたかのような表情をする。


「何がちょうどいいんだ? なんか嫌な予感がするが……」


「えへへー、おにーさんにお願いがあります」


 お願いってこの流れだとあれしかないよな……

 ねねは続けて、


「あたしの家にきて、パソコンができるようにして欲しいです♡」


 やっぱり。

 ねねの家に行くってことだよな……女の子の家に行くのは凛さん以外で初めてだし、年下で中3だし、いろいろと不安だ。

 まぁ、ねねにはいろいろと相談にのってもらっているしな、間違いを起こさないように俺が気を付けていれば大丈夫だろう。


「わかった。俺でよければ力になるよ」


「わぁー、おにーさん引き受けてくれるんですね☆ ありがとうございます。さすが持つべきものはおにーさんですね」


「なんだそりゃ」


「それじゃあ、いつがいいかな? できれば親御さんがいる時がいいな。ねねもそのほうが安心だと思うしな 」


 何も起こらないと思うが、さすがに二人っきりというシチュはさすがにまずい。


「 パパ、ママですかぁ、この後でしたらいますよ」


「それじゃあ、さっそくで悪いけど今からでもいいかな?」


「はいっ」


 *************************************


 というわけで、俺はねねの家で急遽パソコンのセッティングをすることになった。

 俺たちは本屋を出て、ねねの家に向かう。

 ねねの家は書店からさほど離れていないところにあった。


「すごい家だな……」


 俺は眼前の光景を見て、目を丸くする。

 目の前に2階建庭付きの邸宅が佇んでいたからだ。

 これは誰もが夢を見る理想の家だろう。


「ねねってお嬢様だったんだな……」


「そんなことないですよー。あっそういえばパパは会社の社長さんだっけ」


「社長……すごいな……」


「あーもしかして、逆玉狙われちゃってますかぁー」


「狙うかっ」


「あはは、おにーさんおもしろいですね。さぁ、どうぞどうぞ」


 俺はねねに連れられ、家に上がる。

 家の外観だけでも非常にインパクトがあったのだが、家の中に入るとさらなる衝撃が待ち構えていた。

 まず玄関が非常に広い、そして壁には高そうな絵が飾ってある。どこをみても豪華極まりない。

 しかし、なんというか家がガランとしていて、物音ひとつしない。

 俺は疑問をねねに問うた。


「ねね、ちょっといいかな?」


「なんですか?」


「親御さんは?」


「ねねの部屋は二階ですよ」


「そんなこと聞いてないって、親御さんはどうしたのかってこと」


「あれれー? おかしーな。どこいっちゃったんですかね」


「お、お前、まさか……確信犯か?」


 俺は1歩、2歩とたたらを踏む。


「ばれちゃいましたか、パパ、ママは今はいません。帰りは遅くなります。よかったですね。おにーさん」


「何もよくないから、やっぱり二人っきりはまずい。俺また日をあらためて来るから」


「ちょ、ちょっと待ってください。おにーさん怒ってますか?」


「いや、怒ってないよ。というか自分の心配しろよ。男を連れ込んでんだから」


「おにーさん。あたしのこと心配してくれるんですか?」


「あたりまえだろ」


「えへへ。おにーさんを信じてますよ。まぁ仮に何かあっても、おにーさんならいいかもです」


「なにがいいんだよ」


 ねねはてへっと、意地悪そうに笑い、


「内緒です」


 と言った。


 その後、俺はねねから「早くパソコンを使って勉強したいのでお願いします」とお願い攻撃にあい、渋々承諾することに。

 俺たちは二階に上がり、ねねの部屋に入った。


 ねねの部屋は広々としていて、八畳ほどはあるだろうか。

 部屋は白を基調としていて、パステルカラーやピンクを差し色に使った可愛らしい家具が印象的。

 ベットにはぬいぐるみが綺麗に並べられている。

 その他、学習机、本棚、部屋の中央にはローテーブルが置かれている。またパソコンの本体、ディスプレイ等々はローテーブル横にあった。


 そういえば女の子の部屋に入るのって、初めてじゃないか?

 凛さんの家に頻繁にお邪魔しているが、凛さんの部屋に入ったことは一度もない。

 俺がこれが女の子の部屋かぁーといろいろと見ていると、


「あんまりジロジロみないでください。恥ずかしいじゃないですか。男の人を部屋に入れたの初めてなんですから」


 と、ねねは顔を赤く言った。

 そして続けて、


「だから、おにーさんはあたしの初めての人ですね」


「ちょっと、勘違いされるような言い方止めようね」


 すると、ねねは「はーい」と笑って答えた。

 本当、どこまで本気なのかわからん奴だな。

 とりあえずパソコンのセッティングを終わらせて早く帰ろう。


 と決意を固くしたのもつかの間、俺の目の前にあるものが飛び込んできた。

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