第15話 彼女と秘密の契約(その7)(改)

 そして、俺達はミスターXの指示された場所――体育倉庫前に到着した。


「恭介君……ここに隠れるってこと?」


「うん」


 如月さんは顔を赤くし、


「ま、まさか、まさかと思うけど、ここに隠れることを口実に私にHなことを……」


「いやいやいやいやいや、そんなこと考えてないから、あくまでも隠れることが目的だよ」


「そ、そっか。わかった。恭介君を信じるよ」


 言葉とは裏腹に自分を納得させ、覚悟を決め頷く如月さん。

 本当に俺はHなことなんてする気ないのに……なんか如月さんってHなことに非常に敏感な気がする。

 女の子ってそんなものか?

 しかし、密室二人きりの状況を危険と感じるのは仕方がないか。


 その後、俺は誰にも見られていないことを確認し如月さんを連れて体育倉庫に入った。

 体育倉庫は跳び箱、バスケットボール、サッカーボール等の体育や部活に使用する機材が置かれている。

 どこか座れるところがないかと体育倉庫内を物色していると、平積みされている体育マットが目に入った。


 俺は如月さんに体育マットに座ってもらい、彼女に気づかれないようにあるものを探す。

 実はミスターXから隠れ場所以外にメッセージを受け取っていた。

 それは体育倉庫内で、ミスターXが用意したワイヤレスイヤホンをつけろと言うものだった。

 俺は指示どおり跳び箱の裏に置かれた黒い袋からワイヤレスイヤホンを取り出し、耳につけた。


 すると、声が聞こえてきて。


『あ、あ、あ。恭介。聞こえるか?』


 これまでミスターXとメッセージでしかやりとりしていなかった為、肉声が聞けると思ったのだか。

 しかし、その声はボイスチェンジャーで加工されたものだった。

 これじゃあ、男子か、女子かわからないじゃないか。


『聞こえてたら、右手を上げろ』


 俺は如月さんに気づかれないように右手を挙げる。


『よし。聞こえてるな』


 どうやって俺が右手を挙げたのを確認したんだ?

 俺がきょろきょろとカメラが隠されてないかと体育倉庫内を探していると、如月さんが俺の行動を不信に思ったのか、


「恭介君、何してるの? いきなり手をあげたり、きょろきょろしたり……なんか変」


 すると、ミスターXがすかさず、


『ごまかせっ。詩愛にばれたら、お前を殺す』


 こわっ。

 なんか今までのミスターXと態度が違いすぎて、同一人物な気がしない。

 しかし今はそんなことを考えている場合ではない。

 ごまかさないと。

 俺は瞬時に頭を回転させ、


「如月さん、実は俺霊能力があって、幽霊を近くに感じると勝手に右手が上がっちゃうんだよね。ゲゲゲのキタローの妖怪アンテナみたいな感じ」


「へー」


 如月さんは目を細めて俺をみる。

 やばい、絶対信じてないし、俺のこと不審者みたいな目で見てるんだけど……

 すると、突然「ガタンっ」と大きな音がし、壁に立てかけてあった、ロイター板が倒れた。


 如月さんは「きゃっ」と可愛い悲鳴をあげると、ロイター板をじっと見つめている。

 内心俺もびびっていたのだが、


『あはは、俺、俺、俺がやったの』


 ミスターXの仕業かよ。

 まじ心霊現象かと思ったよ、俺のどきどきを返せっ。

 しかし如月さんの意識は完全にロイター板にうつり、俺への不信感は払拭されたようだ。

 それにしてもこいつどうやってロイター板を倒したんだよ。

 っととても気になったのだが、如月さんが怖がっていてるのを放っておくことはできず、俺は彼女を安心させるため、


「大丈夫?」


 と、声をかけながら彼女の横に座り言った。


「お、おばけいるの?」


 如月さんは、そういって、俺のワイシャツの袖をちょこんとつまむ。

 これって男子が憧れるシチュエーションの一つだよね。

 如月さんすっごい可愛いだけど……

 俺はぶんぶん頭をふり、雑念を振り払い、


「き、如月さんおばけはどこかにいっちゃったみたいだから、大丈夫だよ」


「ほんと?」


「ほんとだって、大丈夫だよ」


 そもそもミスターXの仕業だしね。


「うん。わかった」


 如月さんは涙声で言った。


『恭介……鼻の下伸ばしてるんじゃねぇぞ。詩愛に変なことしたら許さねぇからな』


 おい、如月さんがこんなに怖がっているのはお前のせいだろう。

 反論してやりたいことが山ほどあるが今は片方向で言われっぱなしである。


『わかったら。手をあげる』


 嫌だよ。

 俺が手をあげたら、幽霊が近くにいると思って、如月さんを怖がらせちゃうじゃねぇか。


『はやくっ』


「………………」


『は・や・く・あげろ』


 こいつ、面倒くせぇな。

 なんかいきなりミスターXがうざくなったような気がする。

 俺は如月さんに気づかれないようにちょこっとだけ手をあげた。


『わかればいい』


 それから少し経って、廊下が騒がしくなってきた。


「しあちゃんはいたか?」


 げげげ、今度は乱銅さん達か。

 こんなところ隠れているのを見られたら、面倒くさいことになりそうだ。


「乱銅さん、ここ怪しくないですか?」


「ああ、におう。におう。斎藤のにおいがするわー」


 えっ、俺のにおいってなんだよ……


「もし本当に我らのしあちゃんを体育倉庫なんかに連れ込んでいたら……ふんっふんっ」


「落ち着いてください、乱銅さん」


「落ち着いてられるかー」


 そう言った後、すごい音が廊下から聞こえてきて、


「あー壁に穴があいちゃったよ」


 壁に穴!?


「いかがわしいことをしていたら、斎藤もこうしてやろう」


 まじ、やばい人がファンクラブにいたもんだ。

 完全に死亡フラグ立ってるよね。

 如月さんは唇に手をあて、


「恭介くん。しーだね」


『しーって、deathのことだな』


「deathじゃねぇよ」


「デス?」


 絶妙なタイミングでミスターXが割り込んでくるから、思わず声に出してツッコんじゃったよ。


「ううん。なんでもない。なんかいろんなことに追い込まれて、頭がおかしくなってきたかも」


「恭介君、おかしー」


 如月さんは小悪魔めいた笑顔で俺を見つめる。

 なんかこの状況を楽しんでるよ。

 俺が生きるか死ぬかの瀬戸際ってときに……


 俺と如月さんは身を寄せ、息を潜める。

 するとガラガラと体育倉庫の扉が開いた、


「斎藤はいねーか、斎藤はいねーか」


 乱銅さんがなまはげの如く、俺を探している。


「…………」


 刻一刻と近づいてくるなまはげ、じゃなくて乱銅さん。

 あと一歩で見つかるという瀬戸際で、


『しょうがねーな』


 ミスターXが発した言葉の直後、


「ピンポンパンポーン」


 校内に緊急放送が鳴った。


「乱銅剛さん。至急生徒会室に来てください。乱銅剛さん。至急生徒会室に来てください」


 生徒会から乱銅さんを呼ぶ放送だった。

 乱銅さんは「ちっ」と言い残し体育倉庫を後にした。


 俺はふぅーと吐息を洩らす。

 あの人まじだから、しゃれにならない。

 絶対この場を見られていたら、殺されてたよ……

 っと、俺が安心したのもつかの間――場面は戻りに戻ってプロローグ。


「恭介……」


 如月さんが真っ白な頬を紅潮させて俺を見つめている。

 目がとろんとしていて、いつもの如月さんとは別人のようだ。


「ちょ、ちょっと、ど、どうしたの。如月さん?」


「私は何も変わってないよ。恭介こそ、どうしたの? 顔を赤くしちゃって」


 そりゃ、こんなえろい表情で見られたら、男なら誰だってドキドキしちゃうだろ。

 如月さんは俺の頬に手をあて、


「私たち恋人同士になったんだから、いいよね?」


「いいよねって、何がだよ?」


「うふふ。わかってくるくせに。恭介もしたいんでしょ?」


「ちょっと、待って。俺たちはまだ正式に恋人同士になったわけじゃないし」


 そう、俺は如月さんに保健室である契約を提案した――それは俺たちが付き合ったふりをすること。

 そうすれば如月さんが普通の学校生活を送れると思ったからだ。


 この契約が終わるのは――

 ・誰かに俺たちが付き合っているふりをしていることが気づかれた時

 ・卒業する時

 ・お互い本当に好きな人ができた時


「如月さん聞いてる?」


「……………………」


 如月さんは俺のワイシャツの上に人差し指をあて、縦の線をなぞるかのように動かす。

 びくんと体を震わす俺。

 鼓動はどんどん大きくなり、体が熱くなる。

 まずい、このままでは如月さんの言うように自分を抑えられなくなって……


「ほら、恭介……こんなに熱くなって……」


「それは如月さんが、そんな風にさわるから……」


 如月さんはブラウスに手をかけぷちぷちとボタンを外す。

 大きく胸元が開き、真っ白な肌が露出する。


「な、なにを……」


 俺は彼女の胸元から必死に視線をそらし言った。

 いつもの彼女と違い、表情、仕草がエロ過ぎて直視できない。


「…………」


 彼女は俺の質問に答えず四つん這いで近づいてくる。

 俺はメデューサに石にされたかのように微動だにできず、しだいに彼女の体が俺にかぶさっていく。

 とてつもなくエロイ表情で俺をみる彼女に、俺は彼女をぎゅっと抱きしめたくなる衝動を必死に抑えた。

 そんな俺の気持ちを知ってか、彼女はさらに俺を追い込んでくる。

 彼女は耳元まで顔を近づけ、吐息をかける。

 ゾクっと体が震える俺。


 そして、


「恥ずかしいから、目をつぶって……」


 彼女は耳元で囁いた。

 俺は彼女に言われたとおりに目をぎゅっとつぶる。もう為す術もなく、彼女の言われるがままである。


 彼女は俺の右手をとり、どこかに当てた。

 手にむにゅっとした柔らかい感触が残る。


「何かあててみて?」


 彼女が意地悪そうに言う。

 俺はその柔らかな感触のものを探るように何度か揉む。

 柔らかく、あたたかくて、まるみがあるもの、まさか……いや、そんなことは。


 俺はもう一度確かめる。

 緊張から少し力が入ってしまった。


「んっ……んっ……」


 彼女は息づかいを荒くし、


「やっ、優しくさわって……」


 恥じらうかのように言った。

 俺は触っているものが何か確信する。

 すぐに目を開け、ばっと彼女の胸から手をはなす。

 彼女主導であったが、俺はとんでもないことをしてしまった。

 まさか俺が女の子のおっぱいを触るときが、それにこんなに柔らかいものだったなんて。


 彼女は頬を紅葉させて俺を見つめる。

 ふわりと、甘い香りが俺の鼻腔をくすぐる。

 俺は鼓動が高鳴り、エロい衝動にかられていく。

 このままでは、俺の理性が吹っ飛び取り返しのつかないことになってしまう。


「駄目だって、一体どうしちゃったんだよ」


 そう言って、俺は彼女を引き離すがのだが……如月さんは俺に抱きついてくる。


「恭介、愛してるよ」


 そう言って如月さんはほんの10センチも離れてない目の前まで顔を近づけ、そして密かにふれるだけのキスをした。

 如月さんが続けて、俺のワイシャツのボタンを外そうとした瞬間、


『だめぇえええええええええええええええええ』


 ワイヤレスイヤホンから大音量の叫び声が発せられた。

 如月さんは直後、俺から離れ、


「恭介君、なんで?」


 如月さんを見ると、顔を真っ赤にして、露出した体を両手を使って隠していた。

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