第14話 彼女と秘密の契約(その6)(改)
「はぁ、はぁ、はぁ……きょ、恭介君っ、なんで逃げるの?」
「だってあんな状況になったら、逃げるっきゃないでしょ」
「だからって、私たちはもう逃げる必要ないんじゃないの?」
如月さんは、息を荒げながら言った。
そう。
俺と如月さんは今、男子生徒達から絶賛逃亡中である。
なぜ逃げているのかというと――それは俺たちのとった行動に原因がある。
保健室であの後、如月さんと俺はある契約を結んだ。
そして俺は恥ずかしがる彼女を連れて放送室へ行き、全校生徒にむけて交際宣言をしたのだ。
これで、如月さんは彼氏持ちとなり、男子から、しいては女子からの関心がなくなると思っていたのだが、案の定、そう上手くはいかなかった。
俺たちが放送室を出たところで、「いたぞー」という声が聞こえてきたと思ったら、どんどんと男子生徒たちが増え――その数はゆうに50人を超える程となった。
男子生徒達は俺たちを取り囲み、じーと睨らんでくる。
俺はその威圧感に圧倒され萎縮。
やばい、もしかして俺リンチされるんじゃ?
と困惑していると、集団の中から1人の男子生徒が前に出てきた。
すごっくガタイがよくて(筋肉マッチョ)、喧嘩が強そうである。
すると男子生徒が、
「如月さん、いや、しあちゃん無事でよかった」
「しあちゃん?」想定外の言葉に「へ?」と疑問符を頭に浮かべる俺。
この人たち俺をぼこりにきたんじゃないの?
男子たちの顔を見ていると、誰もが心配そうな顔で俺たち、いや語弊があった……如月さんだけを見つめている。
どうやら敵ではないようだが、この人達は一体……
俺達があっけにとられていると、男は続けて
「おっと、申し遅れた。俺は如月詩愛ファンクラブの会員番号1の
乱銅剛……名は体を表すというが、この筋肉マン、いや乱銅さんにぴったりの言葉である。
と、その前にファンクラブ? なんだそりゃ?
「無事でよかったって、私のこと心配してくれてたの?」
「もちろんだ。学内SNSの掲示板を見て、しあちゃんのことが心配で、放送を聞いて、いてもたってもいられず駆けつけてきたんだ」
この学校の生徒はみんな敵だと思っていたのだが、こうやって如月さんのことを思ってくれる人達もいたんだな。
絶望の中に見えた一筋の光。
俺はぐっとこみあげてくるものを抑える。
如月さんも俺と同じ感情を抱いたようで、涙交じりの笑顔で、
「みなさん、心配してくれてありがとうござます」
と言った。
「そんな、もったいないお言葉を」
乱銅さん含めファンクラブの生徒達は大変恐縮そうな顔をした。
いきなりの展開に、ついていけなかったのだが聞きたいことは山ほどある。
俺は乱銅さんに問うた。
「ファンクラブについて教えて欲しいんだけど、いいかな?」
「説明が遅くなってすまん。長くなってしまうが、聞いてほしい。如月詩愛ファンクラブの発足は昨日で……」
転入初日じゃねえかよ。
「しあちゃんに一目ぼれした男子生徒で構成されている」
一目ぼれと言われ、顔を赤くする如月さん。
たしかに如月さんは超絶可愛いけどさ、アイドルじゃない一般人にファンクラブができる程とは……
「設立当初は20人程だったが、すでに会員数は50人を超えている。他校からの参加の声もあるとかないとか。コンセプトは身近に会えるアイドルのしあちゃんを……」
同じ学校の生徒だから超身近だよな。
というか他校の生徒まで参加者が……
「そっと眺めて楽しい学園生活を送ろうだ」
まぁ眺めるだけなら、害はないからいいが、眺められている宣言された、如月さんは恥ずかしいだろうな。
そして乱銅さんはこほんと一息つき、
「しあちゃん、ぜひ君に承諾しもらい、公認のファンクラブとしたいのだが、どうだろうか?」
如月さんはうつむき少し考えると、俺の方へ顔を向け、
「恭介君はどう思う?」
「えっ! どうって言われてもな」
急にふられ、どぎまぎしていると、
突き刺さるような、そして殺意にも似た視線を感じる。
視線の方を見ると、乱銅さんが「ふんっ」とストツーの豪鬼のようなオーラを放っている。
変なことを言ったら瞬獄殺をしてきそうだ。
Noなんて言えなるわけもなく、俺は苦笑いし、
「まぁいいんじゃないかな? みんないい人達みたいだしね」
「そっか、恭介君がそういってくれるなら、いいよ」
「ほんとですかー」
如月さんに承諾してもらうと、乱銅さんの表情は一変しデレテレに……おぞましいのだが、これがまさしくツンデレというやつだ。
こうして、如月さんの公認ファンクラブが発足したのである。
しかしこの出来事によって、俺に災いが振りかかるのだか、その話はまた今度しよう。
一同、公認ファンクラブが発足したということで大歓声となった。
そんな中、乱銅さんが俺を手招きする。
乱銅さんに近づくと俺の肩に手を回し、ぐいっと顔を近づけ、俺だけにしか聞こえない声で
「斎藤よ」
先程までの浮かれた感じはなく、すごーく低い声で言うもんだから、声だけで失神しそうになった。
俺は何を言われるのかと、内心びくびくしていたのだか、
「俺達はお前を彼氏だと認めたくはないが……しあちゃんが決めたことだ。祝福する」
苦渋の決断をしたかのような表情をみせる乱銅さん。
なんだかんだいって、 乱銅さんはいい人そうだ。
「しかしだ、もし、しあちゃんを泣かせるようなことがあったら……わかってるな。殺すだけじゃ済まさないからな」
前言撤回。
こわい、こわすぎる。
この人、
「わ、わかってるよ。俺は如月さんを守るって決めてるから」
そう、リンチにあったら抵抗できないかもしれないが、俺は如月さんの味方であり続け、守るのだ。
「そうか、その言葉に二言はないな」
「うん」
「それでこそ、しあちゃんが選んだ男だっ」
すると、乱銅さんは俺の肩をバンっと叩き、鬼のような形相で笑った。
この人、ほんと怒ってるんだか、笑ってるんだかわからないな。
あと叩かれた場所、すっごい痛いんだけど、打撲したんじゃ……
それから、 乱銅さんと俺はまだ歓喜収まらぬファンクラブの集団に戻ったのだが、テンションが上がりに上がりきったファンクラブの方々が俺と如月さんをお祝いしたいと言い出して……
「胴上げですか?」
「そうだ、ぜひ君たちの門出に胴上げさせてくれ」
「俺、高所恐怖症なんで……」
「大丈夫だ、高くしないから」
絶対大丈夫じゃないって、こいつら絶対胴上げして、キャッチせず事故にみせかけて俺を殺す気だよ。
如月さんを見ると、なぜかファンクラブの皆様と盛り上がっていて、
「せっかくだから胴上げしてもらいなよ」
だから、これは俺を殺そうとする罠なんだって。
とは、もちろん言えないので、丁重にお断りしようとしたのだが……
絶対胴上げするぞという空気をファンクラブの皆さまが醸し出している。
身の危険を感じた俺は、如月さんの手を取りその場から逃げたのである。
そして、場面は戻り、
「それで、これからどうするの?」
「考えてなかったんだけど、ひとまずどこかに隠れよう。時間が経てばファンクラブの皆様のテンションも落ち着くとおもうし!」
「テンション?」
首をかしげる如月さん。
「あああ、気にしないでくれっ。こっちのことだから」
俺が身を隠すところがないか考えていると、ミスターXからメッセージがきた。
『恭介。てめぇ、詩愛をひどい目にあわせやがって……まじ殺す寸前だったぞ。これ以上、詩愛を苦しめたくない。ここに隠れてろっ』
と、明らかにいつものミスターXと口調が違い、別人のようだ。
俺が不甲斐ないから怒っているのか……
メッセージには画像が添付されていて、開くと校内の見取り図で☆印がついている個所がある。
俺と如月さんは☆印がつく場所へ向かった。
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