第12話 彼女と秘密の契約(その4)(改)

 如月さんが倒れてから、30分の時が過ぎた。


 俺は如月さんが寝ているベット横の椅子に座り、彼女を見守っている。

 あれから、如月さんは意識を失ってしまい、俺は彼女をおぶって保健室へ行った。診察してもらったところ、強いストレスによるものと診断され、様子をみるということになり、如月さんともっとも仲が良い(そして安全)と思われている自分が付き添いすることになった。

 彼女はとても苦しそうな表情をしているのだが、俺はただ見守ることしかできない。

 何もできないもどかしさ、自分の不甲斐なさに腹が立つ。

 ふいに如月さんが、


「手……」


 一瞬、意識が戻ったかとおもったが、無意識に発した言葉のようだ。

 俺はあることを思い出す。それは幼い頃、病気になって苦しい時に、母親に手を握ってもらうと不思議と安心し、痛みがやわらいだこと。

 俺は同じように如月さんの手をぎゅっと握る。すると如月さんの表情が少し緩んだような気がした。


 それから少し経ってからスマホに1通のメッセージが届く。

 俺は空いている手でスマホを操作し、画面を確認すると送信者はねねだった。


『おにーさん、あれから進展ありましたー?』


 ねねは現在の状況を全く知らないんだよな。

 進展というか、如月さんとキスどころではなくなったんだよ。

 今回の問題は人間関係に関連すると俺はおもっていて、ひきこもりの俺の最も苦手とする分野だ。

 だから、客観的な意見含め、ねねに相談するのがベストと俺は考え、ことの顛末を説明した。

 するとねねからすぐに返信がきて、


『あー、最悪な状況ですね。このままじゃあ、如月さんでしたっけ? 学校にこなくなっちゃうかもしれませんね』


『そうなのか?』


『そうですよー。学校に入った初日、二日目で嫌なことが連続で起こっていますから、それもこれっていじめを遥かに超えた事態ですよ。そんな状況で学校に来たいって思いますか?』


 学内SNSの掲示板にありもしないことを書かれ、机に悪質な落書きをされ、クラスの連中からも冷たい目で見られた……如月さんの精神的なダメージは計り知れない。

 俺はベットに寝ている如月さんに目を向ける。

 先ほどよりも容体は安定してきているように見える。

 が、しかし、現在如月さんに起きている最悪な状況がいつ終わるかわからない。


『俺は如月さんに楽しい思い出をつくって欲しい』


『はいっ。それでこそ、おにーさんですっ! 原因を分析すればきっと解決策が見つかりますよ!』


『ねねってほんと頼りになるな。相談にのってくれてサンキューな』


『えへへ』


 スマホの向こう側でねねが照れている様子が思い浮かんだ。


『あたしとおにーさんの仲じゃないですかー』


『どんな仲だよ!』


 ねねが言うとなんか、エロい感じに聞こえるな。

 誰かに聞かれたら勘違いされそうだ。


『えー忘れちゃったんですか。あたしのふとももをもてあそんだくせにー』 


 俺の人生が終了しかけたあの忌々しい事故な。

 あれは本当に忘れてくれ、闇の中にほうむりたい。


『弄んだっておまえなー。俺をふとももマニアの変態みたいな扱いやめろ』


『いや、そこまでは言ってませんが……おにーさんって自意識過剰さんですか? っと、ふざけてる場合じゃないですね。えっと、コホン』


『ああ、そうだよ。ふざけてる場合じゃない!』


 如月さんが苦しんでいるのに、ねねのペースに巻き込まれたとはいえ、ふざけた感じになってごめんね。


『まずは現状を整理しましょう。転校初日で男子から、アイドル並みにちやほやされて、それも学校で人気がある男子から告白もされたんですよね?』


『ああ。そうだな』


 如月さんは俺含む、男子全員から異常に注目されている。

 それは昨日の教室の出来事や、学内SNSの掲示板を見て明白だ。

 如月さんに告白した加藤はくそだったが、学内では人気のある生徒である。


『ずばりっ! 女子からの嫉妬、妬みだと思います。急に転校してきた女子が男子にちやほやされたら、女子からみて、おもしろくないって思う人もでてきますよね。それも学園を騒がす程の人気ぶりなら尚更だと思います。それに拍車をかけたのが、朝如月さんに告白した男子だとしたら』


『なるほど、裏で工作して、女子の嫉妬、妬みを増幅するよう促して、如月さんへ攻撃するよう仕向けたのか』


『そうです』


『それじゃあ工作したやつを見つけて止めさせればいいのか?』


『それも一時的な対応ではありますが、根本的に対応しないとこの問題は解決しないと思いますよ』


『それじゃあ、どうすればいいんだよ?』


『簡単なことですよ。おにーさんと如月さんがくっついちゃえばいいんですよ』


『はい?』


 頭が真っ白になる俺。

 くっついちゃえばって、物理的にくっつくじゃなくて、付き合ってことだよね?

 そんなの無理に決まってるじゃん。


『如月さんが彼氏持ちになれば、男子からの注目度は減ると思いますし、それに比例して女子からの嫉妬もなくなると思います。まぁそうなった場合今度はおにーさんが男子の標的になるとおもいますが((笑))」


(笑)……じゃねぇよ。

 下駄箱に不幸の手紙や上履きの画鋲とか……って想像しちまっちゃじゃねぇか。

 続けて、ねねからメッセージが来る。


『そういえば、キスミッションは続いているんですね? 如月さんが目の前で寝ているそうですが、今ってチャンスじゃないですか? チューしちゃえばいいじゃないですか?』


『は?』


 ねねに言われて、急にドキドキしてきた。

 よく考えたら、学園一(俺にとっては世界一)可愛い女子が隣で寝ているのだ。

 あんなことがあったらから、気にも留めていなかったのだが、たしかにねねのいう通り現在進行形で無防備の如月さんに対してキスするチャンスではある。

 ラブコメ的なキスする寸前で邪魔がはいるような展開がなければ100%キスできるだろうが、

 だが、しかし


『これでキスできたとしても、それってミッション達成したことになるのか?』


『そんなこと言っている場合じゃないですよね? 今の現状をみるとキスできるチャンスは今しかないとおもいますけどね……あとはお任せします。それでは、おにーさん♡』


 ねね、言い逃げかよ。

 でも、やっぱりねねに相談して正解だったよ。約束どおり俺もねねに困ったことがあったら力になろう。

 さて、どうするか……

 ミスターXのミッションもこなさないといけないが、今は如月さんのことが先決だ。

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