1章パート1 彼女と秘密の契約編
第9話 彼女と秘密の契約(その1)(改)
次の日の朝――
俺は登校するため、学校へ向かっている途中、
「あ、あはは。今日の朝は小鳥がさえずっていて、とてもすがすがしい朝だなー」
と思ってもいない言葉を口にし、俺は大きくため息をつく。
「はぁ………………………………」
いまだかつてこれほど憂鬱な朝はあっただろうか。
憂鬱な理由、それは――昨日会って間もない
恋人でもない人にキスを求めるのは、とてもハードルが高い。
ハードルどころか無理ゲーである。
俺は昨日の夜からインターネットを使って情報を収集したり、ある人に相談したりとベストを尽くしたが……あとは実行あるのみ、あたって砕けろだ。
と考えている矢先、一台の車が俺の進行方向の先へ停車した。
この付近では見られない超高級車だ。
どんなやつが下りてくるのかなと、
銀髪碧眼の少女……
「き、如月さん?」
思わず声をかけてしまう俺。
少女は俺の声に気づいたようで、こちらへ振り向き、俺の姿を確認すると、目を見開いた。
突然如月さんに出くわし、あわあわとしていると、
「きょ、恭介君。こんなところで会うなんて偶然だね」
彼女の方から声をかけてくれた。
俺もなんとか「おはよう」と返す。
ドキドキドキドキ……
”ターゲット”が突然目の間に現れて、心臓がおかしくなっている。
こんな調子で俺は彼女にキスができるのであろうか。
俺は如月さんに追いつくと、如月さんも歩みはじめ、なんとなくお互い歩調を合わせる。
他の人が見たら、一緒に登校しているカップルに勘違いされてしまうかもしれない。
如月さんを見ると、顔を赤くし、ぎゅっと鞄を握っている。
俺と歩いているのがはずかしいのかな?
「如月さん、もしかして俺と一緒に歩くの恥ずかしい?」
聞いてから、後悔。
嫌って言われたらどうするんだよ。
いきなりゲームオーバじゃないかっ。
しかし如月さんはぶんぶんと首を横に振り、
「そ、そんなことない。こんなところで恭介君と会うとおもってなかったから、驚いただけ」
俺は彼女の返答を聞いて、ほっと胸をなで下ろす。
よかった嫌われてなくて。
なんで俺はこんなに安心しているんだろうか……
「如月さんって、車で登校しているんだね」
「うん。私は恥ずかしくて嫌なんだけど、親が心配だからって。皆に見られたら恥ずかしいから早くきたの」
親御さんの気持ちなんとなくわかるな。こんな美少女が一人で満員電車やバスに乗るのは危険だもん。おとなしそうで、華奢だから絶対痴漢の標的になりそうだよ。
「恭介君も朝早いね」
「うん」
校門で如月さんを待ち伏せする為に早めに登校しただけなのだが……まさかここで出くわすとは夢にも思っていなかった。
しかし二人きりにせっかくなれたのだ例の作戦を実行しよう。
その名も”彼女を褒めまくり大作戦”である。
この作戦は協力者からのアイデアであり、褒めて、誉めて、褒めまくって如月さんをその気にさせるというもの。
誉める箇所としてはルックス(顔、髪型とか)のようにわかりやすいところではなく、ネイルや身に着けているアクセサリなど、さりげなくオシャレしているところがポイントである。
俺は自分を奮い立たせ、行動に移す。
如月さんに気付かれないように髪型からじっくりとチェックしていく。
綺麗で艶のある銀髪。
整った横顔。
雪のように白い肌。
こうやってまじまじとみると、やっぱり可愛い、可愛すぎる……
俺の視線に気づいたのか如月さんが、
「恭介君?」
如月さんは首をかしげ俺を見つめる。
見つめられて、かぁーと顔が熱くなる俺。
こんなことでドキドキしてるんじゃねぇよ。
俺の目標は如月さんとキスすることだろうが。
「恭介君、顔赤くなってるよ。大丈夫?」
「う、うん。大丈夫。気にしないで」
「そっか。それならいいだけど」
俺は平静を保つよう自分に言い聞かせ、観察を継続する。
制服、スカート、靴下へと――
褒められるところ、褒められるところ……
髪は綺麗だし、顔は可愛いし、制服も可愛く着こなしている。
どこをとっても完璧なのだが……、おっ、ブラウスに光るあるものを俺は見つけた。
よしっ、これならと。
俺は思い切って如月さんに、
「如月さん、そ、そのペンダントすごく可愛いね!」
「ありがとう」
如月さんはペンダントをぎゅっと握って、
「これは大事な人からもらった大切なものなの」
如月さんは頬を赤く染め言った。
「すごく似合ってるよ」
そう言うと、如月さんは涙目になって、
「ありがとう。恭介君にそう言ってもらえて、とっても嬉しい」
ネックレスはハート型ロケットで、如月さんの艶のある銀髪、白肌に映えていてとても似合っている。
俺の言葉に彼女はとても喜んでくれているようである。ミッションさえなければ彼女の笑顔をずっと見ていたいのに。
俺は作戦の遂行を強く心に刻み、如月さんへのアタックを続ける。
「そういえば、如月さんって今付き合っている人いるの?」
「な、なんで、そんなこと聞くの?」
「いや、如月さんすごく可愛い子から、彼氏いるのかなって思って」
「私、そんな可愛くないっ」
如月さんはぼっと、赤面する。
いや、そんな謙遜……めちゃくちゃ可愛いから。
「 うぅ、 なんで、こんなところで可愛いとか言うの。もう……」
何やらボソボソとつぶやているが、声がちいさすぎて俺には聞こえない。
「如月さん、それで彼氏は?」
「か、彼氏はいないよ」
その言葉を聞いて、なぜか胸のもやもやがすぅーと晴れた気がした。
なんで俺はこんな気持ちになっているのだろうか。
如月さんは俺に問い返す、
「きょ、恭介君は彼女いるの?」
「いないよ」
「ふーん。そうなんだ。いないんだ。へー、わかった」
如月さんはなぜか嬉しそうにしている。
「如月さんみたいな彼女がいたらいいなっておもうよ」
「ふぇ?」
如月さんは至極驚いた顔をして、俺のことを見つめる。
嘘ではないが、すごくはずかしいことを言っている自覚はある。
如月さんは少し沈黙し、
「うぅ……また、そんなこと言って」
さらに顔を赤くし、如月さんが言う。
奇跡的に俺の言葉が効いているように見える。
「如月さん」
俺が立ち止まり言うと、如月さんも
「何? 恭介君」
俺は如月さんを見つめ、ゆっくりと彼女との距離を縮める。
「恭介君、ちょ、ちょっとどうしたの?」
顔を真っ赤にし、瞳をうるうるさせる如月さん。
「お、俺、如月さんと……」
そう言って、俺は自分の顔を如月さんの顔へ近づけていく。
もう、はずかしさと、緊張感と、連日の疲れで頭の中はぐちゃぐちゃである。
彼女は俺の行動を察したのか、
「きょ、恭介君。わ、わたしとキ、キスしたくなっちゃったの?」
俺が彼女だけに聞える声で「うん」と返事をすると、彼女は目をぎゅーっとつぶり、体を強張らせた。
これってキスしてOKってことだよね?
俺は無我無調で彼女との距離を縮めていく。
そして、彼女と唇が触れ合う瞬間――
如月さんはドンっと俺を突き飛ばし、
「へっ?」
「やっぱりだめぇーーーーー! こんなところで、エッチなことはだめだよ」
そう言って、彼女は走り去ってしまった。
「…………………」
まさかキス直前でどんでん返しを食らうとは……作戦は見事に失敗してしまった。
ちなみに協力者というのは”可愛ねね”だ。
ミスターXとやり取りが終わった後に、俺はグーグル〇生でキスをする方法について調べたのだが、有益な情報が見つからず。
だから、最後の頼みとして断られること覚悟でねねに相談したら、あっさりと協力してくれることになった。
ねねは「恋愛のことなら、任せてください。絶対おにーさんの役に立ちますから」と、言ってくれた。
ミスターXの壁ドン作戦よりかははるかに実現的だと思ったのだが、これで彼女には警戒されてしまっただろうし、俺が彼女にキスできる確率は極めて低くなったのである。
ちなみに、ねねに失敗したことを告げると、
『おにーさん。登校中にそれはないですよ。雰囲気つくってないじゃないですかー。でも大丈夫です。ねねがサポートしますから、落ち込まないで前向きにいきましょう』
ねねの励ましに癒される俺。
なんか、ねねっていい奴だな。
エロい女の子って変なレッテルはってごめんね。
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