第6話 彼女と秘密のレッスン(改)

 プログラマー育成計画が始まったのだが、いきなりプログラムを組むのは敷居が高い。

 だってタイピング(キーボードをうつくこと)だってろくにできないし、パソコンの知識もないのだから。

 だから、俺はまずパソコンの基本知識とブラインドタッチを覚えてもうらうことにした。

 知識は本で勉強してもらうことにしたので、ねねは今、”ゾンビに襲われた街をタイピングで救う”タイピングソフトをプレイしている。

 この手のソフトはゲーム感覚でブラインドタッチが取得できるので、初心者にはうってつけである。

 集中しているのか、しばらくねねから質問はこなかった。

 数十分後――20番が点滅した。


「どうした、ねね?」


「このボスゾンビが倒せないんですが……どうすれば倒せるのか教えてくださいっ」


 とても悔しそうにする、ねね。

 倒せない理由としては、タイピングの速さと正確性が不足しているからなのだが、こればかりは腕を磨くしかない。

 ねねに実演してもらうようお願いすると「はーい。わかりました」とタイピングをはじめる。

 後ろからねねのプレイ姿を見ると、ブラインドタッチが結構さまになっていて驚いた。

 まだまだぎこちないが手元をみないでプレイしている。


 ちなみに俺が教えたプラインドタッチの上達法はこうだ。

 ・ホームポージションを覚えろ。

 これはFに左手の一差指、Jに右手の人差し指と、その他の指も自然に置き、この状態をベースにキーボードを打っていくことである。

 ・手元を絶対みるな。

 手元を見ながら打つと覚えるのも遅いし、いつになっても上達しないのである。


 ねねは『かに』、『とんぼ』などの2~3文字程度の単語ゾンビを順調に倒していく。

 ブラインドタッチ初日としては、中々よい出来ではないだろうか。

 残りライフ1で、ボス戦となり、10文字程度の文章が画面に表示される。

 単語と違い、文章になると難易度がぐっと上がるのだ。

 ねねは、遅いながらも正確にタイピングしていくのだが、あと1文字というところで、ボスに殺されてしまった。


「お、おしい」


「もう、また負けたー。あと少しだったんですがー」


「ねね、よくやったよ。あと少しだったじゃないか。もう少し練習すれば倒せるよ。初日だし、上出来だよ!!!」


 と、俺はねねに慰めの言葉をかけるのだが、


「もう、おにーさんの前でいいところ見せたかったのに」


 相当悔しかったのだろうか、ねねは顔を><にして、足をバタバタさせている。


 次の瞬間――


 パソコンのディスプレイが、ぷつーん真っ暗となった。


「えっ?  画面が真っ暗に……どうしたんでしょうか 」


 ねねは一体何が起こったのかわからず、戸惑っている。

 だが、俺には大体察しはついていて、パソコン本体の電源を確認すると予想通り切れていたのである。

 原因は電源タップからのコンセントの脱線だった。


「さっき足をばたばたさせたときに、配線に足がひっかかって電源タップからコンセントを抜いちゃったみたいだよ」


「おにーさん。ごめんなさい……怒ってますよね。ねねはどうすれば許してもらえるでしょうか?」


「じゃあ、俺のいうことを一つ聞いてもらおうか」


 俺はねねに指さし言った。


「えっ」


 ねねは、はっと俺の顔みて、顔を赤く染める。


「なんで、顔赤くしてるんだよ」


 ねねは体をもじもじ揺らし、


「だって、おにーさん。エッチな顔してるから、あの……そ、そういうことはまだ早いというか、ここでは恥ずかしいというか……」


 顔を沸騰させるねね。


「おい、お前の中で俺ってそんなエッチな人になってるの?」


「だって、思春期の男の子のお願いっていったら……」


「俺は健全な男の子だけど、出会ったばかりの女の子にエッチなことなんて求めないから、安心してくれ。ましてやここはパソコン教室だしさ」


「へっ? じゃあ、お願いってなんですか?」


 俺は電源タップにコンセントをさし、


「お願いっていうのは、いれてくれってこと!」


「えっ、いれてくれって!? 急になんてことをいうんですか! やっぱりおにーさん」


「いやいや、違うからパソコンの電源をいれてくれってことねっ!」


「もうっ、なーんだ。紛らわしい言い方するから勘違いしちゃったじゃないですかっ」


 ねねは口を尖らせて言った。


「わかりましたよー。電源を入れればいいんですね!」


 ねねはそう言うと、パソコン本体を見回すのだが、電源ボタンが見つけられないようだ。


「ねね、電源ボタンはそこだよ」


 と指をさすのだが


「おにーさん。わかりませんよ。どこですか?」


 俺はパソコンデスクの下へもぐり、電源ボタンを指差し


「ここだよ。わかった」


「はーい。わかりました。ありがとうございます」


 わかってくれたようなので、俺はねねの方へ振り返ったのだが……


「…………」


 まずいものを見てしまった。

 なんだろ? ねねはガードがあまいと言うか、無防備というのが正しいのか……

 状況を説明すると、ねねはパソコンチェアに座ったまま、露出の多い足をぶらぶらさせている。

 俺はパソコンチェアと同じくらいの高さに顔があり、つまりねねと俺は対面している状態にある。

 だから、あれが丸見えになっていた。

 好きでもない女の子だが、このシチュエーションであれを見ると……さすがにドキドキするし、顔が真っ赤になるのも止めることはできない。


 だって、パンツが丸見えだったから……

 俺の異変に気付いたのか、ねねは、


「どうしたんですが? おにーさん、ってなんで顔真っ赤なんですか?」


 ねねは俺の反応と自らの状況を確認し、


「あっ!!!!!!」


 ねねは顔を沸騰させ、両手でスカートを抑えようとした。

 しかし勢いがあまって、イスごと俺のほうへスライドしてきて……直後、俺の頭に衝撃が走る。


「………………………………………… 」


「いててて……」


 気が付くと、顔にぷにぷにした感触が……俺は何かに挟まれているようだ。

 そして強い圧力によって俺は強制的に下を向かせられている(床しか見えない)、何がどうなっているのかわからないのだが……

 なんとか顔を上げようとするのだが、


「ちょ、くすぐったいから、動かないでください」


 何言ってるんだよ、こいつ。

 それにしても、このやわらかくて、ぷにぷにしたものは一体何だんだ。

 さらに俺が動くと、


「もう、おにーさんってやっぱりエッチだったんですねっ」


「………………………………………… 」


 ねねがすごく恥じらう声で言った。

 これって? もしやっ!!!


「あたしのふとももを堪能するなんて、やっぱりおにーさんは健全な男の子だったんですね!!!」


 柔らかさの正体を知り俺は、


「ご、ごめん、悪気はなかったんだ!!!」


 なぜか謝ってしまった。

 警官が近くにいたら、間違いなく冤罪でたいほーされる事案である。


 状況を整理すると俺は今、ねねに太ももでで顔を挟まれ、頭を手で抑えられているらしい。


「とりあえず、ねね、俺の頭から手をはなして、後ろに下がろうか?」


「駄目です。おにーさん。あたしのパンツを見る気ですよね」


「絶対みないから、安心してくれ」


「ほんとですか?」


 やばいこの状況を誰かに見られたら、俺の社会的地位は大暴落じゃないか。

 客観的にみたら嫌がる女子中学性に無理やりエッチなことを強要している男子高校生にしか見えない。

 早くこの状況から脱出しないと……


 と、次の瞬間――


「騒がしいですが、どうかされましたか?」


 講師の田中さんが、やってきた。

 なんてタイミングできやがるんだ。


「……………………」


 俺の人生、早くも終わったか……

 と、ねねは意外な行動に出た。

 ねねは、田中さんから俺が見えないように膝に上着をかぶせ、


「ちょっと、タイピングの練習をしていたら、ゾンビが倒せなくて,熱くなっちゃったんですよー」


「熱くなるのは結構なことだが、周りの人たちに迷惑をかけないようにやりなさい」


「は~い。気を付けます」


 ねねがそう言うと、田中さんは去っていった。


「おにーさん。もう、大丈夫ですよ」


「あああ、助かったよ。ありがとう」


 とんだハプニングが起こったが、事なきを得ることができてよかった。

 って、全部おまえのせいだけどね。


「いやー。ドキドキしちゃいましたよね。あたしたちのいけない関係がばれなくてよかったです」


 いけない関係ってなんだよっ!!!

 というか危なく人生が終わるところだった。

 俺はその後、ねねから解放されたのだが、


「あたし、がんばったのでご褒美が欲しいなーって」


「はいはい、わかったよ、後でジュースをおごってやるから」


「ほんとですかっ、やったー。約束ですからね」


 ねねは、微笑みながら言った。

 俺にはこの微笑みが小悪魔に見えて仕方がない。

 だって、何度も言うけど、危機的状況になったのは、ねねに原因があるのだから。

 ある意味ミスターXよりもやばい奴なんじゃないのか?

 にしても、ねねはなんてエッチなパンツをはいてやがるんだ。

 中三だぞ……黒パンだなんて、顔のわりにセクシーなものはいてるんだな……如月さんとは大違いだ。


「おにーさん?」


「ごめん。ちょっと考え事をしてたよ。おまえがエッチなことをしてきたせいだからな」


「あっ、もうー。あれはアクシデントだったんですよぉ。ねねはエッチな子じゃないですから」


 絶対エッチな子だよ。

 俺が出会った中で断トツ一位な。


 それから時間は経ち、ねねのレッスンが終わったのだが、


「これ、さっき約束したジュース」


 俺はねねにオレンジジュースを渡した。


「あっジュースどうもです。あっそれと、今日はねねにパソコンのこと教えてくれてありがとうございます」


 ねねは突然、顔を近づけてきて


「おにーさん」


「な、なんだよ?」


 急に近づいてくるものだから、俺は動揺し鼓動が高鳴る。


 ねねは小声で、


「あたしとメッセージアプリで友達登録しませんか?」


 なんでひそひそ声なんだよ。

 周りの人にいかがわしいことしていると思われちゃうからやめろ。


「パソコンのことで、知りたいことあるなら教室で聞いてくれればいいだろう。あと、恥ずかしいからちょっと離れろ」


「おにーさんって、女の子に慣れてないって感じですよね?」


 図星を突かれ、激しく動揺する俺。

 自分の弱い部分を指摘されるって嫌な感じだ。


「え、ま、まぁ。慣れてはいないが、それがどうしたんだ?」


「もし、おにーさんが女の子のことで知りたいことがあれば、ねねが相談にのりますよ」


 何突然言い出すんだよ。

 だが、如月さんのこともあるし、凛さんに相談できないこともあるから、相談にのってもらえることはありがたいな。


「ただって、わけじゃないよな?」


「はい」


 やっぱりな。

 こいつは俺に一体何を要求しようとしているのだろうか。


「あたしがおにーさんに女の子のことを教えるかわりに、あたしの相談にのってほしいんです」


「相談って?」


「パソコンのこととか、その他エトセトラエトセトラです」


「エトセトラっていうのがなんか怖いな……」


「大丈夫です。エッチなことじゃありませんから」


 よかった、安心した。

 エッチなことでなければ、大丈夫だろう。


「わかった。よろしくな、ねね」


「はいっ、おにーさん。よろしくお願いしますね」


 ねねは、ひまわりのような笑顔で言った。

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