第5話 彼女とパソコン教室(改)

 俺はあの後、 公園を出たところで如月さんとわかれた。


 そして俺は今、橘パソコン教室に来ている。

 ここは凛さんのおじさんが経営するパソコン教室で、今日のように学校が早く終わった時に手伝いをしているのだ。


 パソコン教室の説明をすると――個人指導で文章作成、表計算、プレゼンテーション資料、動画作成、プログラミングの学習等などパソコンに関係することなら何でも学習できる。

 その為、学生からサラリーマン、主婦、おじいちゃん、おばあちゃんと幅広い年齢層の人が通っている。

 席はパーティションで区切られた個人空間となっており、他の人を気にせず学ぶことができる。


 俺は講師用のパソコンデスクに座り、画面を見る。

 パソコンの画面上には ”座席番号/名前/学習内容”が一覧表で表示されていて、生徒が質問すると座席番号が点滅する仕組みだ。

 ちなみに講師が複数人いた場合、生徒が好きな講師を指名できる。

 俺は生徒からの質問を待ちながら、プログラムコンテスト用の設計を進めていた。


 数分経って――

 8番が点滅した。

 俺は座席8番佐藤さんの席へ向かう。

 佐藤さんは家計簿を表計算ソフトを使って管理していきたいということで、エクセルの勉強をしている。

 席に到着し質問を聞くと、”支出の合計ができない”ということだったので、SUM関数を紹介し、使用方法を説明した。

 佐藤さんは俺の説明を理解してくれたようで、笑顔で「ありがとう」と言った。


 いつも引きこもって作業しているので、お客さん(パソコン教室で言うと生徒)の言葉を聞くことができないから、こうやって直接面と向かってお礼を言われると、とても嬉しいし、やりがいを感じる。

 佐藤さんの対応が終わり、俺は席へ戻った。

 ふと一覧を眺めていると、20番の座席に”可愛かわいねね”と見慣れない名前があった。


「初めてみる名前だな。学習内容は、パソコン? 初心者さんかな?」


 と考えいたところ、早速20番が点滅した。

 噂をしているとなんとやらだな。

 俺は立ちあがり、可愛さんの席へ向かう。

 途中、どんな人だろうと考えていた。

 俺は人見知りのため、はじめて合う人に変な緊張をしてしまうのだ。

 以前それが原因で質問の回答がうまくできず、生徒を怒らせてしまった苦い経験があり、それから初対面の生徒が恐くなってしまった。

 20番の座席へ着き可愛さんを見ると、如月さんと同じくらいの小柄な女の子のようだ。

 俺は厳ついおじさんやおばさんでなくて、ほっと胸をなでおろす。

 彼女はというと、パソコンのほうを向いているため、顔はまだわからない。

 俺は勇気をだして声をかける。


「お、お待たせしました」


 すると、

 彼女は俺のほうへ振り向いた。


「……………………」


 顔を見て俺は驚愕する――そこにいたのが茶髪ロングの超美少女だったからだ。

 可愛さんは俺を見て、なぜか顔をぱぁーと明るくして、


「おにーさんのような人を待っていました!」


 明るく元気に言う可愛さん。

 こんな可愛い子に待ってましたーと言われて悪い気分はしないが、何を待ってたんだ?

 俺は疑問を可愛さんに問う。


「待っていたというと?」


「だって、講師の人ってみんな、おじさんばっかりだからぁー。なんかつまらなくて」


 可愛さんは顔をぷっと膨らませて、不機嫌そうな口調で言った。

 そんな不機嫌そうにしても困るな、ここは遊び場じゃねーんだぞ。


「そこにおにーさんが来たっていうわけですよ」


 可愛さんは目を輝かせて俺をみる。

 俺もそんな大層なものではないのだがな……

 続けて可愛さんは、


「あっ」


 そう言うと可愛さんは立ち上がり、


「自己紹介。まだでしたね。はじめまして、あたしは可愛ねね、中学3年生でーす。おにーさん、よろしくお願いします」


 可愛さんは白い歯を見せ、天使のような笑顔で言った。

 す、すごい、なんか可愛さんが輝いてみえるよ。

 明るいし、元気だし、ハキハキしてるし、友達もたくさんいそうだ。

 俺はどちらかというと、ひきこもりで……属性的には闇だから……可愛さんは俺と違い正反対の光というか太陽って感じだな。


「俺は斎藤恭介、高校一年生。よろしくな 」


 俺も軽く自己紹介し、質問を聞こうとしたところ、


「おにーさんって、あたしの1個上なんですね。なるほど、うふふ、丁度いいかも。あっそれと、あたしのことは、ねねりんって呼んでくれていいですよ」


 この子めっちゃマイペースだな。

 それに ” ねねりん”って呼んでくれていいですよって俺に選択肢くれないの?

 ”ねねりん”なんて、ニックネーム恥ずかしくて呼べるわけないじゃないか。


「うーん。それじゃ、ねねでいかな?」


「もう、しょうがいないですね。ねねでいいですよ」


 初対面の俺に対してフレンドリーに会話できるなんて、人見知りの俺としては尊敬してしまう。

 だが、このテンションについていけるほど、俺の社交性は高くない。

 早いところ質問に答えてこの場から去りたい。


「そ、それで、質問は何かな?」


「画面をこうやってタッチしても、何も反応しないんですが……」


 一生懸命、画面にタッチをして説明するねね。

 俺はマウスを手に取り、


「あっ、ディスプレイはタッチパネルじゃないからね。このマウスを使って、操作してね」


「これはパソコンを動かすものなんですね! わかりました! やってみますね」


 マウスの存在を知らなかったのか……恐るべしスマホ世代。

 まぁ俺も同世代なんだけどね。

 ねねを見ると、目をキラキラと輝かせて、マウスポイントが動く様や、右クリックした時に表示されるメニューを見て、いちいち「おー」などリアクションをとっている。

 その姿は初々しくて、とても可愛かった。


 俺はその後、席に戻るのだが。

 すぐにまた20番が点滅した。


「今度はどうした?」


「すいませーん。アプリはどうやって起動するんですか?」


 何やらデスクトップ画面にあるメモ帳が起動できないようである。

 俺はアプリの起動方法を教えた。


「なるほどー。マウスを二回クリックすればいいんですね! ふむふむ。わかりました」


 ねねは典型的なスマホっ子だからな。

 起動方法を知らなくてもしょうがないか。

 ついでにスタートメニューからの起動方法も教えておこう。


「ありがとうございます。おにーさんって、優しいですね」


「そうかな?」


 まぁ、これが仕事なんだけど、でもこうやって褒められるのは悪い気がしない。

 ねねは、ふふっと笑って、


「見ていればわかりますよー」


 何をみて、わかったのかわからんが。

 続けて、ねねは


「あと、おにーさんって彼女いるんですか?」


「な、いきなり何を言い出すんだよ!」


 突然の質問に動揺する俺。

 変な汗をかいちゃったよ。


「パソコンのことと、かんけーねーだろ」


「教えてください」


 ねねは両手を合わせて上目遣いでお願いしてくる。

 そんなこと聞いてどうするんだよ。

 まぁ減るもんでもないしな。

 俺は「いない」と答えて、さっさと自席に戻ったのだが、


 再度、20番が点滅した。


 立て続けに3回も呼びやがって……

 今度は何なんだ。

 と、ねねの席につくと、


「おにーさんの好きなタイプを教えてください」


「パソコンの質問じゃなくなっちゃったよ。はいっ、却下ね」


「えー」


 ねねは太々しい態度をとる。


「わからないことがあったら、教えてくれるんじゃないんですか?」


「それはパソコンのことな。あと、ねねばかりを構ってられないだよ。悪いけど質問がないなら俺は戻るからな」


 そう言って自席へ戻ろうとすると――ねねは俺の服のそでを掴んだ。


「ちょつと待ってください」


 今までと違って、ねねは真剣な表情で、


「あのー。笑わないで聞いてくれますか?」


「ああ、もちろんだ」


「あたし実はパソコンのこと全くわからなくて、でもみんなが一生懸命パソコンのことを勉強してるから、何を勉強していいかわからないなんて言えなかったんですよ」


 ねねは恥ずかしそうにうつむく。

 たしかに他の生徒達は一生懸命参考書をみたり、夢中でパソコンを操作している。

 パソコン初心者のねねにとって、この空気はつらかったのかもしれないな。

 だから気を紛らわすために、俺にちょっかいを出してきたのか。

 ちょっかいに関しては迷惑極まりないのだが。


「そっか。わかったよ」


 それから俺はねねから、もう少し詳しい事情を聞こうとパソコン教室に来た経緯や目的を聞いた。

 ねねから聞いたことを要約すると――とある理由で、パソコンに詳しくなりたくて、パソコン教室に来たらしい。


 理由はわからんが、パソコンを好きな自分としては、詳しくなりたいという前向きな気持ちは大切にしてあげたいと思った。

 後、せっかくだからパソコンのことを好きになってもらいたいな。


「それじゃ、あとパソコンで出来ることを説明するから、聞いてくれるかな?」


「はーい」


 ということで、俺のパソコン講座が始まったのである。


 俺はパソコン教室の広告を手に取りねねに見せ、そしてワードを立ち上げる。


「今見てもらっている広告なんだけど、このワードというソフトを使ってつくってるんだ。まぁ広告をつくる専門のソフトもあるけど、簡単なものであればワードでいいと思う。扱いやすいしね。ワードでこうやって文字を打って、文字サイズを変えたり、色をつけたりして作業をしていくんだよ」


 出来るだけ、わかりやすく、優しく説明する。

 相手はパソコン知識が無い女の子だからな。

 これくらいで丁度いいと思うのだが、伝わったかな?

 ねねを見ると、ノートにメモをとっていた。


「なるほど、おにーさんの説明わかりやすいです」


 ねねは興味深々といった表情で言った。

 俺はその反応を見て、ほっと胸をなでおろす。

 そのあと、エクセル、パワーポイント、動画編集について説明していく。

 まぁはじめは浅く広くという感じだ。

 いきなり細かいところを説明したら混乱してしまうだろうし、パソコンのことを嫌いになってしまうかもしれないからな。


「ねね感動しました! パソコンっていろいろなことができるんですねっ」


「最後に俺の本職プログラマーの仕事、プログラミングのことを説明するよ」


「あたし、知ってますよ」


「すごいじゃないか、ねね」


 ねねは、体をもじもじし、顔を赤らめて、


「はい♡ あれですよね。プログラマーってエロエロの職業ですよね?」


 とても恥ずかしそうに言う。

 俺は顔を赤くし、


「エロいのもたしかにあるけどさ、プログラマー=エロじゃないからっ、とりあえず全国のプログラマーの皆様に謝れ」


 俺が怒ったせいか、ねねはきょとんと不思議そうな顔で俺を見つめる。

 俺はコホン、と一息つき、


「プログラマーはだな、今まで説明してきたソフトをつくることもそうだが、人の生活をよくしたり、仕事を効率化させるための仕組みをつくる職業なんだよ」


「なるほど、それは失礼しました。プログラマーの皆さんごめんなさい」


「本当に謝らなくてもいいだけど」


 先ほど、ちゃんと俺の言ったことをメモしていたことといい、ねねは根は真面目なやつかもしれない。


「それで今紹介した中で、何がおもしろそうなものはあった?」


「えっとですねー。プ・ロ・グ・ラ・ミ・ン・グですか? 難しそうですが教えてください」


「ほんとに難しいけど大丈夫?」


「はいっ」


 ねねは元気よく答えた。


 こうして、ねねは、プログラミングのことを学習することになったのだが……

 ねねと知り合ったことで人生最大の激やば事件が発生することを今の俺は知らない……

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