第3話 彼女と教室からの逃亡(改)
四時限目終了のチャイムが鳴った――
クラスメイト達はざわざわと、「何食べるー」とか「どこか遊びいこーぜ」など和気あいあいしながら帰っていく。
というのも今日は午前授業。しかし俺は不運にも掃除当番だから、即帰宅ができない――掃除当番というのは席が隣同しの男女がペアとなり、月に1、2回の頻度で教室の掃除をする役割である。
ちなみに俺の隣の席は今まで不在だった為、担任と掃除していた。
女子となんて組んだことがないので、ドキドキしている。
と、ドキドキを担当してる場合ではない。俺にはミッションがあるのだ。
実はあの後、如月さんと一言も会話ができていない。
なぜかといえば、休み時間の度に、如月さんの周りは人だらけになったからだ。
だが、しかし幸運なことに席が隣となった。これでようやく二人っきりになれる。少しでも如月さんとの距離を縮めなくてはと思っていたのだが……
「……………………」
これは一体どういうことなのだろうか。
放課後だというのに教室にいる生徒が俺と如月さん以外にたくさんいるではないか。
いつもだったら、授業が終わったら、すぐに帰宅するやつらが今日に限って残っていやがる。
しかも見慣れない生徒までいる始末……
というのも如月さんのことはすぐに校内中に広まったのだ。
今世紀最大級、奇跡の逸材等、情報がとびかい、野次馬達が時間が経つにつれてどんどん増える一方。
まさか放課後までこの勢いが止まらないとは思っていなかった……完全に俺は読み違いをした。
おまえらはレイドボス(如月さん)を攻略する冒険者かっていうくらい群がっている。
如月さんを見ると、俺のことをちらちら見て、気にしてくれているようだ。
しかし取り巻き達のせいで身動きがとれず、掃除ができない状態に申訳なさそうにしている。
こんなじゃ、掃除どころじゃないよな。
まぁ掃き掃除だけだから、俺一人でもできるのだが……
が、しかし俺が放課後までに考えていた”如月さんと会話するぞ大作戦”が台無しじゃないか!
俺の作戦はいいとしても(よくないが)こいつら、少しくらい如月さんに気をつかえよ。
たしかに可愛い、けど、さ。
如月さんは人見知りのようだし、こんなに男子に逆ハーレムされていたら可哀そうだ。
俺は朝と同様にこの現状を打破したい感情に見舞われる……しかし、彼女からは『もう、しないで』と警告されている。
これ以上、余計なことをして、彼女に嫌われたくない。
俺はぐっと拳を強くにぎり、自分を抑えた。
どうすれば、どうすればいいんだよ。
次の瞬間、ミスターXからメッセージが届く。
『如月詩愛、彼女はすごい人気だな』
なんでこの状況がわかるんだ?
俺は周りを見渡すが不審な人物は見当たらない。
リアルタイムで見ているかのようなメッセージだったため、もしかして、この取り巻きの中にミスターXがいるのでと思ったのだが、しかし、そうなるとミスターXはこの学校の生徒ということになる。
だが、今はミスターXの正体を探っている場合ではない。
如月さんのことが先決だ。
なんとかこの状況を早く打破し、如月さんを羞恥地獄から解放してあげたい。
『このままでは彼女の秘密がばれてしまうぞ』
『どういうことだよ? 何が起こるっていうんだ?』
『それは秘密です』
またかよ! こんな窮地の時くらい教えてくれよ。
彼女の秘密がばれたら、ゲームオーバになっちゃうんだろ?
彼女に一体何が起こるっていうんだよ!
取り巻き達は如月さんに「ご飯食べにいこう」、「カラオケにいこう」など言っている。
如月さんは今にも連れていかれそうな状況だ。
ミスターXからメッセージがきて、
『取り返しのつかないことになるぞ?』
『だって、しょうがないじゃないか。俺は彼女に助けないでっていわれたんだ』
『それは彼女の真意なのか?』
たしかに、あのとき如月さんの言葉はクラスメイト達により遮られてしまった。あの言葉の続きを知りたい……それに……
『そうだよな。俺の人質もかかっているんだ』
『だったら、行動するしかない。今の彼女を救えるのは君しかいないし、彼女もきっと待っているのだから』
と、ミスターX。
ミスターXは顔も名前もしらない人物で俺のことを脅迫している張本人だが。
なぜだろうか……ミスターXのメッセージは俺のことを勇気づけてくれた。
俺がミスターXとやりとりをしている間に、取り巻き内にいた一人の男子が大胆な行動をとる。
「遠慮しなくていいって、遊びに行こうぜ」と 如月さんの腕を無理やり掴む。
「やめて、つかまないで、いたい」と涙目で言う如月さん。
こいつらやりすぎだろ。
取り囲む男子達は彼女が嫌がる様子を見て笑っていやがる。ほんと最低な鬼畜野郎たちだ。
男子達の間から、如月さんの顔が見える。
一瞬ではあったが、如月さんと目があい、自意識過剰かもしれないが俺に助けを求めているような気がした。
いや、気がしたのではなく、助けを求めたのだ。
俺は取り巻き達の中に割って入り、男の手をはらう。
そして如月さんの前に立ち、
「おまえ、如月さんが嫌がっているじゃないか、如月さんは見せ物じゃねぇんだよ」
そう言うと、男たちは1歩、2歩後ずさる。
「ど、どうして?」
後ろから如月さんの泣きそうな声が聞こえてくる。
俺は振りかえり、如月さんにだけ聞こえる声で、
「ここは俺に任せてくれ、後で批判は絶賛受付するからさ」
コクコクと頷く如月さん。
如月さんは俺がきて、 安心したのか(なぜだ?)涙まじりに微笑んだ。
取り巻き達からは誰だこいつは? 調子のってじゃねぇぞ的な視線がビシビシと突き刺さる。
俺ってこんなキャラじゃないんだけどな。どうしちゃったんだろう今日の俺は。
俺はコホンとひとつ咳払いし、
「わるいな、おまえら。如月さんはもう俺が予約済みなんだよ! オーケー?」
うるせぇーうそつくな、と取り巻き達。
ちょっとやそっとじゃ引き下がらないよな。
ああ、こういう時に太陽拳が使えれば、この場の全員を目くらましして逃げることができるのだが、ちくしょう……こんなことが起こるんだったら、もっとドラゴ○ボールを読んでおくんだったぜ。
次の瞬間――
校内に非常ベルの音が鳴り響いた。
教室内は何が起こったのかと、混乱する。
俺はその一瞬の隙をつき、如月さんの手をとり、男子生徒達の間を強引にわって進み、教室から出て猛烈ダッシュで逃げる。
「逃げたぞ」とか「待て」とか聞こえてきたが、後ろなんて振りふりむいている余裕なんてない。
俺達は学校から脱出し、とある公園まで走った。
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