第32話 河原
恵んでもらった金も、十数名を食べさせるのに十分な金とはいえなかった。金も無く希望も見出せない一行が宿にする先は、もう
河原には、町の繁栄からはじき出された者たちが集まっていた。
元から河原に住んで、
大人たちはぎょろぎょろ目だけ光らせて、けだもののようなすさんだ顔つきをしていた。子供たちは反対に青白い顔をして頼りなく、
何を見ても驚かなくなっていた菊だったが、その姿には胸が痛むものがあった。
(うちの子供たちだけは)
達丸の手を握りながら思った。
(あんな目にあわすまい)
でも具体的にどうしたらいいのか、菊にはさっぱりわからなかった。
河原の生活は一般のそれより一段と低く、そこに暮らす人々は
ある日のこと、菊たちの暮らす橋の上を、華やかな一行が通っていった。
「
派手好きな信長の
「武田討伐のご
人ごみに混じって菊は、父信玄の時代から敵対し、ある時は武田軍から命からがら逃げる途中、恐怖のあまり
周りを固める
こんな何処にでも居そうな平凡な男の為に、我が家は、あの武勇天下に鳴り響いていた我が武田家は、滅ぼされてしまったのだろうか。
信長も又、色白で
その時ふと菊は、安土の城下を通った際、聞いた話を思い出した。
それは城下にある
信長は自分のことを神か仏のように思わせている。それは彼が、神も仏も信じないからだ、と菊は思った。
父も兄も信心深かった。甲斐には立派な寺が幾つもあり、菊も含めて一族の人々は熱心に信仰していた、でも。
あんなに信仰していたのに。あんなに信心深かったのに。たくさんお寺を建て、たくさん
(あたしはもう何も信じない)
よしんば、神仏がこの世に現れたとしても、皆がそれについていったとしても。
(あたしはもうそれを傍らで見ているだけだろう)
何もかも思い通りにならない、人の命なんて朝日に消える露のようなこの世で、頼りとするものも無い。あたしは一体どうなってしまうのだろう。
菊は行列をぼんやり
その時、行列の中ほどで、女が絶叫した。
何を言っているかはわからなかった。
でもその悲鳴で我に返った菊は
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