第31話 見せしめ
応仁の乱以来、たびたび戦火に見舞われた都は、菊が考えていたよりも新しい建物が多く、それでもまだ足りずに次々に家が建つ、
そんな町中を、戦の死臭を身にまとったまま、
「まあ、よう御無事で……でもなあ、主人も
屋敷の裏に回されて、握らされる紙包みを、菊は
そのうち、どこに行っても鼻先で門を閉められるようになった。
きっかけは、ある家を訪ねていった時のことだった。
「早よ、早よ、追い返さんと……。」
「
内の人に聞こえるように、揚羽がやや声を高くした。
「武田の
甲高い声で返事があった。
「早よ帰っておくれやす!五条の河原に行ってみなはれ、あんさん方も早よ逃げたほうがよろし!」
皆顔色を変えた。
五条の河原は当時の
気の進まない菊の手をぐいぐい引っ張って、揚羽が急ぎ足で歩いていく。河原に近づくにつれ皆、だんだん足が速くなり、最後には
風の通り道になっている河原も、今日ばかりは、むっと
菊は群集の中にもぐりこんだ。
人ごみを
ふいにぽっかりと空いた場所に出た。そこには、丸太をぶっちがいにして支えにして、幅二
覚悟はもう出来ていたはずだった。
だが実際その前に立った時、菊はその覚悟とやらが音をたてて崩れるのを感じた。
そこには武田の武将たちの首が並べてあった。全て彼女の近しい人々だった。
中央に置いてある勝頼の首は、薄く目を開けて口を半開きにしていた。ようやく肩の荷を降ろしてほっとしているのか、それとも自分が死んでしまったことに気づいてびっくりしているかのようだった。その隣の仁科盛信の首は、
隣に立っていた松が声も無くくずおれた。
菊は、くらくらする頭を両手で押さえながら、いつまでも晒し台を見つめて立ち尽くしていた。
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