第13話 傾城
上杉喜平二景勝は、当年とって二十四歳になる。
越後から
ひとたび戦場に
あまり表情を動かさない。無口である。
でも、それは彼の着けている仮面のようだ、と菊が気づくのにさほど時間はかからなかった。
(私は含まれていない)
そう、菊のみならず、
彼が彼女を見ている時の柔らかな表情でわかる。
(
別に自分が景勝に嫌われているとは思わない。
これは自分が側室の娘だからそう思うだけなんだろうか。母は、父・信玄の
「何で殿は、紅を正室にしなかったのかしら?あんなにお気に入りなのに。」
うっかり揚羽に
この忠実な侍女はほんとに痛そうな表情をした。
以来事あるごとに、このままでは菊さまのお立場がございません、しっかりなさいましと
自分でも本当は、菊に何をさせたらいいのかわからないんだろう。
景勝は義父に
留守を預かる紅の毎日は忙しい。
ぞろりとした
算盤は当時
菊の元にもたびたび、ご
「どう見たって
大体、『四辻御前』と呼ぶ者が城内に一人も居ない。
男なら『
その疑問に答えを出したのも又、当人だ。
「ああ、あれは名前だけ。私も
しゃあしゃあとして言った。
「昔、
と言うのだが、揚羽は又、眉を寄せた。
「まあ、私にはこの国の御用商人でしたから、と申しておりましたわよ。何でも美濃の織田家にも出入りしていて、
あれなら見た。堺の商人という話だった。菊を救出した船の操縦を指揮していたのも彼らだという。
「とんでもない。」
揚羽が声をひそめる。
「どう見たって海賊ですよ。」
「商人たちって、海を渡ると
「だって姫さま。周りに上杉の者が居ない時など、『お
中には
紅が、
「有難ね、皆、来てくれて。こんな危ないところへ。」
と礼を言うと、一人が言うには、
「礼なら
あれから
大変なのはあの
「それで若も、はっとしてね、店に帰ってきて、あっしらに越後へ行ってくれっつったんでさ。」
でも、もう帰りましょう、お頭。用があったのは前のお屋形なんでしょ?死んじまったんだからもういいでしょう。堺に帰りましょうよう。
すると紅が言うには、
「今のお屋形さまは私の
やっぱりお頭ってそうなんだ、いっつも他人のことに頭をつっこんで抜き差しならなくなっちまうんだよお、と周りは嘆くことしきりであったという。
「揚羽ったら、松の癖が写っちゃったの?よくもまあ、そんなに調べ上げたもんだわね。やあよ、春日みたいになっちゃ。」
菊が呆れると、揚羽は真っ赤になって怒りだした。
「婚家のことを調べて実家に報告するのは嫁いだ女の当然の義務です。姫君が嫁入りの時に
当時、女は嫁いでも尚、実家に属する。
「姫君は、新羅三郎義光公を祖として四百数十年の歴史を有する甲斐源氏武田家の
「わかっているわよ、もう耳たこだってば。」
「姫君、何ですか、その
わかったわかった、と言いながら、あの女は一体どういう立場なんだろう、と菊は思う。
黙って座っているだけで景勝の
「そうは言うけど、皆に良くしてくれるわ。そんなに目の
「いくら親切そうに振る舞っていても、しょせん、
菊が黙ってしまったのをいいことに、揚羽は今日こそは言いたいことを言ってしまおう、と決心ているようだ。
「男たちに認められるには美しいかどうかがすべてなのです、あの女もそうやって地位を築いてきたのでしょう。でも、その
「……。」
「あれは絶対、
揚羽が断言した。
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