第111話 極楽橋
慶次郎が松風の背から橋を眺めていると、
窓を開けて、信虎が顔を出した。
「これが
城の
堀に架かる橋には屋根が付いていた。屋根は織田
小櫓に
「大坂城にも同じものがありますが」
慶次郎が言った。
「この橋一つ作るだけで、一万五千両かかるそうです。」
信虎は、ヒェッ、ヒェッ、ヒェッ、と笑った。
「どれだけ民から
「この橋を通って極楽へ行く、という
信虎は、ふん、と言った。
「逆じゃよ。こっちが極楽、あっちが地獄、じゃ。」
「私は
「構やせん。」
信虎は、ひらひらと手にした紙を振った。
「この見取り図さえありゃな。約束の時間に、約束の場所に、迎えを
慶次郎はふっと笑った。
「何しろ二十五万人を動員した大工事ですから。
「ふむ、じゃ、
信虎は、輿の窓を、ぴしり、と閉めた。
菊が、屏風を荷車に積ませて店を出た後、揚羽は万寿丸を背に、松の家と芝居小屋の様子を見に行った。
こちらも
菊は、屏風を搬入したらすぐ店の者を帰すと言っていたし、松も、
揚羽は新兵衛と共に皆を連れて、都の郊外にある信虎の領地に避難することになっていた。
がらんとした芝居小屋を眺めて、ため息が出た。
又、あてどなく
とそこへ、一足先に小屋にやった平助が、
「でっ、出た!」
大声にびっくりして、
平助は足をがくがくさせて、歯の根が合わない。
「出たって、何よ。」
「だっ、だからっ、幽霊が。」
何言ってるの、この子、こんな時に。
平助に連れられて、小屋の裏手に回った。
大道具、小道具を入れておく蔵がある。その中から、どんどんという音が聞こえてくる。
おそるおそる扉を開いた。
すると中から、後ろ手に
首に巻かれた縄を解いた。
出てきたのは、
「さっ、三九郎!」
ぺえっ、と
「どうしたの?」
「わからない。気が付いたらここに居た。」
「じゃあ今日、あんたの代わりにお城に上がっているのは、誰!」
松は知っている、と直感した。
でも菊は知らないはずだ。
だけど知らせる
結局、やきもきしながら、皆が戻ってくるのを待つしかない揚羽だった。
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