第89話 傾奇
松の舞台が完成した。
外囲いは、
客は『
舞台の広さは方
屋根は
松は抜け目なかった。
菊に頼んで、絵屋の名物の『
「天下一阿国一座、
と宣伝させた。
ようやく戦乱が
今日は幸い生き延びられた、でも明日はどうなるかわからない。
だったら今日、楽しまなくてどうする。
老いも若きも男も女も、新しい娯楽に飢えている。
そんなこんなで、初日の幕開けは、押すな押すなの
菊と慶次郎は、
色々とうるさく注文ばかりつけたくせに、松は菊に、練習さえ見せてくれなかった。
「見に来てもいいわよ。特別に、
偉そうに言っただけだった。
横笛を手にした
笛の
最初は『ややこ踊り』から始まった。
最近は、成長した督姫と明姫が踊るようになっている。
身は浮き草よ
根を定めなの
君を待つ
今では見物人も覚えてしまうくらいの
(あの性格だけは、どうにかして欲しいけど)
二人の娘が
最初は、督姫か明姫のどちらかだろうと思ったが、どこかぎこちない足取りに、
(違う。誰だろう?)
一座に他に、若い女など、いただろうか?
女が柱の陰に座って、か細い声で歌いだすと、菊は、なぁんだ、と思った。
三九郎なのだ。
糸を
日の暮るるも夜といふ
くるくる苦しくも何かせん
来るより待つこそ久しけれ
この歌はもとは『糸より』という
(がんばれ三九郎、負けるんじゃない!)
このままでは舞台が、
菊が
猿若はのんびりしたお
「昔から
菊は慶次郎に
「まさか、本当の役者になっちゃうなんて。」
「本物の能役者さ、もともと。」
一番
いくら何でも、
舞台の上で猿若は、
観客は、あまりのおかしさに腹を
とうとう
観客の目から舞台裏を隠していた
ちらりと見える下着の
ゆったりと締めた、金糸銀糸で華やかに縫い取りされた太い帯、これは菊の
上には、やはり慶次郎の物であろう、
顔は白い
でも菊の目が
「あーっ、松ったら何てことを!あれ、オルガンティーノさまが礼拝でお使いになっていたものよ!信者でもないくせに、何て
菊の悲鳴は、人々の歓声にかき消されてしまった。
本人にとってあれほど悩みの種だった
猿若に持ってこさせた
見ている者の
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