第50話 南蛮寺
あの日は
実際、ひどい一日だった。
その日は、朝早くジョアンが泥棒を見つけたことから始まった。
薄暗い
ジョアンはどきっとしたが、心を鎮めて、なるべく軽い口調で呼びかけた。
「おい、今日の
事を丸く治めようとするジョアンの努力を無視して、シモンはふてくされたように言った。
「俺は教会をやめる。これくらい、
音を聞きつけて、
「何を言う。そんなこと、させるものか。」
かっとなったジョアンは、シモンの手を
吹っ飛んだジョアンに、興奮したシモンは、
「俺はずっと我慢してきたんだ、もうこんなところに居られるかっ!」
怒鳴りながら更に襲い掛かろうとした。
その拳は、騒ぎを聞きつけて割って入ろうとした修道士のジョヴァンニ・ニッコロの
(ああもう、思い出したくない)
息が出来ない。
どうやらまだ鼻の奥のほうで流れ続けているらしい生臭い血の混じった
ジョアンとジョヴァンニが仲良く並んで伸びてしまった後、ようやく摂津のシモンは同宿たちに取り押さえられ、
ジョアンは比較的早く目が覚めたが、ジョヴァンニはまだ
(大丈夫だろうか。あいつ、身体弱いからなあ。又、起き上がれなくなってしまうんじゃないか)
ジョアン・ロドリゴとジョヴァンニ・ニッコロは
年が同じだからだろうか、ポルトガル人にしてはおしゃべりなジョアンと、イタリア人にしては無口なジョヴァンニは最初から妙に馬が合った。もっとも北ポルトガルの
中世以来、芸術家が上流階級から出ることはまれだった。画家たちは職人階級であって、名誉ある市民の子弟にとってそんな職業を選ぶのは、身を落とすことと同じだった。ルネサンスに至り、市民の子弟であるミケランジェロやダ・ビンチが出て、画家の地位は大いに引き上げられることになったが、それでも画家になるのは貧しい平民が大部分であった。
より良い生活のために故郷を離れる道を選ばざるをえなかったジョアンと違って、ジョヴァンニが
ジョヴァンニは日本に着いて以来、健康が
でも、養生しようと思って上ってきた都でも羽を休めているわけにはいかなかった。宣教師たちは目の回るような忙しい毎日を過ごしていたからだ。
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