第49話 梅雨
待望の雨が降った。雨が降ると人通りも少なくなる。自然、店に来る客も少なくなった。
だが菊は、小六に注文された扇の仕上げで忙しかった。
ザーザーと聞こえていた雨音が急に、パラッ、パラッ、に変わった。
顔を上げると
「あ、お祖父さま、こんな雨の中を……」
菊の言葉をさえぎって、
「出かける所がある。
今まで
菊は
「あの、私、今、とっても忙しいんですけど……。」
遠慮がちに声をかけたが、老人の足は思ったより速かった。
この人はいったい
(
家を世話してもらった礼を言いに一度訪ねたものの、河原を離れてからは全く交渉は無かった。
(何でこんな所に)
立ちすくむ菊に信虎は言った。
「松から話を聞いた。そなた、絵を習いたいのじゃろう。」
(松に?松がこの人と話をするかしら?)
後日、松に問いただしてみると、確かにそんなこと言ったわ、と言う。
「あの爺さん、私たちが踊りの練習をしているところにしょっちゅう見物にやってくるのよ。私に今度
松は最近、小さな宴会に呼ばれては、舞ったり踊ったりしている。
姉上はいいわよね、踊り子なんかより
(売ろうったって売れないのよっ!)
扇屋をやっているのは女が多い。扇を売るために色を売る者もいる。
松は、扇屋のほうが聞こえがいいと思っているのかもしれないが、何、世間の見方では似たりよったりなのだ。
菊の店の女は
ともあれ松は、文句を言いながらも忍耐強く働いている。彼女を知る者から見れば驚くべき変化だった。
「私も、
信虎は、とまどう菊にお構いなしに、
「頼もう、頼もう。」
大声で呼ばわった。
中では三人の南蛮人が待っていた。
一人は本能寺が夜討ちにあった晩に応対した司祭。あとの二人は、家を紹介してくれた、優しそうな
だが、今日は何だか様子が変だった。
最初の司祭は、困ったような、何かおどおどした顔をしているし、優しそうな司祭は泣いた後のように目を真っ赤に
そして若い修道士の鼻は大きな
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