第41話 風流踊り
忘れられない一夜が明けた。
雨はすっかり上がって、夏の強い
信長が制して以来、炎に焼かれることの無かった都は、その支配者の没落と共に、御所の付近を中心に
南蛮寺から二条御所に駆けつけたときには、もうすっかり火の手が回って近づけなかった。信忠の行方を追って、本能寺にも行ってみた。本能寺は東西約百五十メートル、南北約三百メートルにも及ぶ巨大な寺だったが、すっかり焼失してしまっていた。まだ
松がようやく河原に戻って来たのは、その日の夕方のことだった。
でも松はいくら問い詰められても、
それからしばらくして、菊たちの小屋に南蛮寺の坊さんたちが訪ねてきた。
若いほうの坊さんが言った。
「この小屋は狭すぎます。見れば小さなお子たちもいらっしゃる。どうでしょう?我々教会の者の紹介で、新しい家を借りるというのは?」
これには菊も
「有難うございます。ええと……。」
「これはしたり。申し遅れました。」
若い坊さんはにっこりした。
「こちらは司祭のニエッキ・ソルディ・オルガンティーノ、私は
それから十日たつかたたぬうち、西から
信長に大変目をかけられていたとはいうものの、身分の低い
菊たちにとって権力が誰のものになろうと関係の無いことだった。
彼らは喜び、
その家は
周りは空き地で草がぼうぼうと
越後で見た『
皆、力を合わせて家を修理した。南蛮寺からは弥助が駆けつけて、力仕事を引き受けてくれた。
イエズス会
『日本の家は大部分低い一階建てで、木・竹・
と描写している。
人々が喜びに
彼女は最近、
松が『
夕暮れの街を家路に急ぐ人々が、足を止めるばかりか、自分たちも身振り手振りよろしくその踊りの輪に加わって、道はたちまち熱狂的に踊る人々で一杯になった。その真ん中には花飾りを手にかざし、頭には花笠を被った人々が
「風流踊りじゃ、風流踊りじゃ!」
「福を招くありがたい踊りじゃ!」
「死んだ者たちの
そうか、もうお盆だ。死人たちがあの世から戻ってくる季節になったのだ、と松は思った。
京の人々は盆になると
松の周りにいた人々も立ち止まり、踊りに加わり始めた。あっという間に松の周りは踊り狂う人々で一杯になった。
(どうしよう)
松は立ちすくんだ。踊ったことなど無かった。なぜなら、彼女のたしなむ『
『舞』は基本的に一人で行うものであり、『踊り』は集団で行うものだった。『舞』は見物人に見てもらうものであり、『踊り』は参加するものだった。『舞』は
下等で下品でお話にならない程くだらないもののはずの『踊り』が、今の松の空っぽな心の中に入り込み、激しく彼女を突き動かしていた。いつしか彼女の手は宙を舞い、足は激しく飛び
その夜、松は遅くまで戻らなかった。
菊たちが心配していると、くたくたになった松が今まで見たことも無いほど満足そうに戻ってきて、がつがつと
それから松は、皆に
程なく人々は、夕暮れ時、
その中に異様に頭の大きな、
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