第18話 洛中洛外図
菊は相変わらず、城の外へ一歩も出ることができない。
「出して差し上げたいのはやまやまですが、
お許しください、と紅は頭を下げるが、景虎にさらわれた負い目もあり、さすがの菊もそれ以上、強くはでられない。
あんな側女に負けてはいられません、こちらも何かお家のために尽くしているところを見せなければ、と揚羽がハッパをかけるので、倹約運動の先頭にも立ってみた。
城内の使用品で無駄と思われるものを点検する。これを機会に、紅に
金が無いと紅が言ったのは嘘ではなかった。
先代が亡くなった時、城の
男性陣には『
発案者の揚羽は
「これこそ妹君の松さまには絶対出来ないことです!」
と鼻高々、でも女性陣には、
「何で?必要があって買っているものなのに!」
「だ、か、ら!男って何もわかっていないのよ!」
とさんざんな言われようで、運動自体、何だか尻つぼみに終わってしまった。
菊は又、することが無くなってしまった。
国主の妻として一番大切な仕事、すなわち
駿河に遠征している兄・勝頼から、幸せにしているか、と文を
心配してくれている兄の心が嬉しかった。反射的に、皆さま親切にしてくださって幸せです、と手紙を書いて送った。でもその後、本当に幸せなんだろうか、と自分の胸に問うてみて、不幸とはいえないから、たぶん幸せなんだろう、としか思えなかった。
何をしているというわけでもないのに毎日気ぜわしくて、いつしか絵を描くことからも遠ざかっていた。たった一つの
織田信長が先代お屋形に贈ったという
時は戦国、
この時代、京の街並みを描いた
北野、
魚を獲る人、道を歩く人、屋根を
狩野派の伝統的な画法である。
京にはほんとに金色の
この絵を見ていると、
「
という
狩野永徳は『
家柄もさることながら、彼自身の才も他に
又同時に、大勢の弟子たちを手足のように使って、大規模な仕事を次々受注し、完成させていった。
工房経営の才にも優れていたのである。
伝統的な
(私も京に行ってみたい!狩野の工房を一目見てみたい!)
冬は雪に降り込められ、夏は
九月になって城の中で
直江家は、先代
しかし、
だがここで大逆転が起きた。
「名家の断絶、忍び難い」
という景勝の
その養子とは、あの樋口与六兼続だった。
さあ、大変だ。奥向きに勤める者たちは大騒ぎになった。
殿の一番のお気に入りの独身の美男子を誰もが
「こんなこと申し上げるのは失礼ですけど、未亡人のお
悔しがる侍女たちが口々に言う。
そういえば、何かの折、
幾つだったっけ、確かに一見、老女のように見える女性だった。
この時代の女性は老けるのが早い。それでなくても若くして子を産む、現在と違って出産が大変な時代だ、子供を生むと一段と老ける。
「あーあ、男って結局、出世が一番、ですよね。」
「そんなこと言うんじゃないの。ああいう方が妻として家庭をしっかり守っていかれるのよ。年上のしっかり女房で、
たしなめながら菊は思う。
兼続は本当に納得しているのか。
(あの男は紅を愛しているんじゃなかったのか)
だとすれば、美しく華やかなあの女とは正反対の女房殿ではないか。
「なんと殺された
大方の侍女たちは、見栄えのしない
それにしても、今回の景勝のやり方の強引なこと。
兼続の側ではいつも紅が仕事をしている。
景勝は、お気に入りの美しい側女の
紅は兼続の気持ちに気付いているんだろうか、と菊は密かに観察していたが、こちらは何も
実際、兼続は名家に婿に入ったことで飛躍的に身分が上がり、結果、城の表で二人が共に仕事をする機会は益々増えるようになった。
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