第8話 証人
菊が目を覚ましたのは部屋の中だった。
外はかすかに日が差して、
(やだ私、ぐっすり寝ちゃったみたい。ここは何処だろう?)
「お
「ここは何処?主って誰?私をどうしようと言うの?」
菊の
通されたのは大広間だった。手前には具足を付けた武将がずらりと並んでいる。
その奥、
京下りの絵巻物に出てくる美しい
主が口を開いた。
「突然このような所に連れてこられて、さぞ驚かれたことであろう。我等は姫君に対して害意を持つ者にあらず、決して危害を加えないことをお約束致す。」
声も又、よく通って美しかった。
「今は亡き父上に教えられたことがある。相手が礼儀に
菊は言った。
「そなたがどなたかはわかる。三郎殿、であろう。」
景虎はふっと笑った。女も及ばない色気が漂った。さすが『国色無双』とうたわれただけのことはある。
「私は
「いえ、覚えていないわ。でも小夜さまに似ておいでね。」
「妹だからね。」
「さすが有名な
景虎は又、口元をほころばせたが、菊は続けた。
「でも私、大酒飲みは嫌い。」
酔っているのを言い当てられた景虎は苦笑した。
今まで彼と会ってなびかぬ女を見たことはなかった。だからちょっと手荒にひっくくってきても、会いさえすれば、すぐ大人しくなるものと思っていた。
だがこの娘は、
景虎は彼女に興味を覚えた。自分の考えを話して説得する気になった。
「私は男だ。それなのに、正室から生まれた
「確かに」
菊は考えながら言った。
「私の母上も
新しい関を立てられて、なすすべもなく列を作る人々、作物を取り上げられて倒れる
お屋形さまは、すぐに訴えをお取り上げになり、百姓共の勝ちにしてやったのです、という小夜姫の言葉。
顔を上げて男を見据えた。
「その辺の百姓だって、使役に駆り出されたり、兵役を課せられて戦場に送られたり、生き死には領主の手に握られている。私たちは少なくとも、支配する身分。普段、百姓町人よりよほど恵まれた生活を送っている以上、自ら選んでそうなったのではないにせよ、いざという時、それなりの覚悟は必要であろう。そなたは今回の挙兵に当たって、強大な実家の力を当てにしておいでであろう。でも他者に頼って
もう完全に礼儀を外れてしまった、と、ちら、と思った。
景虎は表情を変えなかったが、諸将はざわめいた。
「おのれ生意気な。」
「言わせておけばいい気になって。」
「この女、血祭りにあげて、そっ首、喜平二に送り届けてやりましょうか。」
刀の
「私に指一本でも触れてごらん。」
菊はすかさず言った。
「すぐさま
先程の部屋に戻された菊は、頭が痛いと訴え始めた。
医者は嫌、薬も嫌、何か毒でも入っているんじゃないの?皆あっちへ行って、一人にして、寝るんだから放っておいて!
さすがお姫さまだ、
しばらくして、侍女が
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。