第16話
29
自動車専用道の上を走るモノレールの線路を、優斗と理香は前後に並んで走っていた。足元のずっと下から車の走る音が聞こえる。見上げれば夜空が広がっていた。ほぼ満月に近いためか、それとも下界の灯りが強すぎるためか、天気がいいのに星はあまり見えなかった。
怖さはあまり感じなかった。腰の位置までコンクリートの立ち上がりに囲まれていたし、見えるのは五階建て以上のビルと空と、そして近くにある遊園地のジェットコースターや観覧車だけだった。
後ろに理香の息遣いを感じる。ずいぶん息が上がっている。振り返ると、理香が白い息を吐きながら微笑んだ。優斗は走りながら後ろに手を差し伸べ、理香がそれを握った。後方から追って来る人影はなかった。灰色のモノレールが湾曲しながら夜の闇へと続いているだけだ。円筒形のタイムカプセルを片手で抱えなおす。ステンレスの表面が外気にさらされて、キンとした冷たさを伝えてくる。
優斗は自分のとった大胆な行動に、自ら驚いていたが後悔はしていなかった。
父の「逃げるな」の言葉が脳裏をよぎる。今は逃げている。しかし、目の前の状況を改善するために逃走を選んだのだから、父の思いには反していないだろう。
モノレールの駅に残してきた父の事を考える。たぶん心配ないだろう。あの人はどんな苦難も一人で潜り抜けることができる。
レールの先に、次の駅が見えた。空中に浮かぶ駅には、まだ明かりが灯っている。さらに近づくと人影が二つ見えた。
「駅の人かな」
理香が息を弾ませた。
「たぶんそうだと思う。連絡を受けたのかもしれない」
「どうするの」
「僕に任せて」
優斗の言葉に理香は握った手に力を入れた。優斗も握り返す。運が良ければうまくいくと続けようとした言葉を飲み込んだ。二つの人影は駅員だった。一人は若い男で、もう一人は中年の男。
「君たち」
中年の男が、口に手を添えて呼びかけてきた。
「いったい、何をやっているんだ」
優斗は、運が良かったことに感謝した。若いほうの男はレールに向かって体を半分乗り出している。優斗は中年の男から目をそらさないでいた。帽子の下で、男の顔つきが変わる。優斗は若い男に気づかれないように小さく会釈した。
「向こうの駅で、暴漢に襲われたんです。逃げ場を失って線路を逃げてきました」
「向こうの駅で事件があったことは連絡を受けたから知っている。とにかく、あがりたまえ」
中年の男が指示して、若い駅員がホームから二人に手を差し出した。まずは理香をホームに上がらせ、優斗も続く。
若い駅員は硬い表情を浮かべていた。就業時間を過ぎた時間帯に、あろうかとかモノレールの線路を一駅分走ってきた男女を、ただで帰すつもりはないといった表情だ。
「駅長。警察に連絡します」
優斗と理香を睨みつけたまま、ポケットから携帯電話を取り出した。まだ警察に連絡がいっていないことに優斗は安堵した。
「いや」駅長と呼ばれた中年の男がいった。「ここは私に任せてくれないか」
「しかし。モノレールの線路を走るなんて……」
「驚いた行為だ。だが、向こうの駅でトラブルがあったのも事実だ。もう少し彼らの話を聞いてから判断したい」
「私も一緒に聞きます」
「いいよ。とっくに就業時間は過ぎているんだ。私が彼らの言い分を聞き、報告書を書く。君は帰っていい」
「しかし……」
「今日は用事があるんだろう」
駅長に言われ、若い駅員は二人で手をつないでレールの上を走ってきた男女への憤りと、憤りのままに彼らの処分にかかわることによる労働とを天秤にかけるように、しばし考えていたが、わかりましたと応え、駅長に一礼するとホームから駅員室へと続く階段を降りて行った
若い駅員の姿が消えると、駅長は「やれやれ」と呟き、優斗に向き直るとホームのベンチを進め、「どうぞ座りたまえ。大村くん」と言った。
「すいません」
優斗は頭を下げ理香にも一緒に腰かけるように促した。理香は駅長に小さく頭を下げ、恐る恐るといった様子で優斗の横に腰を下ろした。指先が優斗のシャツの袖口を掴んでいる。
「こちら玉城さん。店のお得意さんなんだ」
『Wotaer Planet』では見せる事のないきりっとした表情で玉城さんが頭を下げ、優斗の横に腰を下ろした。理香を紹介すると大好きなエキノドルスの新種を見つけたように相好を崩したが直ぐに真顔に戻る。駅を預かるトップとしての意識が彼の背筋を伸ばし顔を引き締めているのだろう。
「いったい、何があったんだ。夜のモノレールの上を散歩するなんて、大村くんのイメージとは随分違うね」
と玉城さんは言った。一つ手前の駅でガラの悪い男に絡まれ、逃げてきたのだと説明する。もちろん報告を受けていただろう玉城さんは、何も言わずに優斗の話を聞いた。
「あの」と理香が優斗に遠慮しながら、玉城さんに向かって質問をした。「向こうの駅で暴れた人たち、どうなりました」
「あぁ。若い男を殴った男性は駅員室で事情を聴いているらしいけど、殴られた方が何も言わずに姿を消したらしいからね。いずれ解放されるんじゃないのかな」
「僕たちがこっちに逃げたことも報告が入っていたんですか」
「いや。トラブルが発生したと連絡はあったけど、君たちのことは気付かなかったみたいだ」
まぁ、まさかモノレールの線路を走って逃げる人がいるとは思わないからねと続け、私でも走ったことはないよと悔しそうに言った。
暴れる父を取り押さえるのに必死で、駅員たちは優斗と理香が線路に飛び降りたことに気付かなかったのだろう。
「終電後のチェックでホームに出たら、満月をバックに線路の上を走ってくる人影を見つけたんだ」
階段を駆け上がってくる足音が聞こえた。ホームを降りて行った若い駅員が私服で戻ってきた。優斗と理香に一瞥をくれると、小走りに玉城さんのもとに走りより、「閉鎖した改札の前に、ガラの悪いのが二人ほど来ているらしいです。中に入れろって言ってます」と報告した。一人は顔中血まみれなんですと顔を顰める。
張真組の連中が追いかけてきたのだ。父が殴り倒した男と黄色頭だろうか。
「応対しているのは誰かな」
「吉田さんです。断っているんですがしつこくて」
「私が行くまで持ちこたえるように言ってくれ」
玉城さんは優斗と理香を見て、「もう営業時間は終わりだ。もちろん中には入れないよ」と言った。『Wataer Planet』の店長を、苦手だからと言って話しかけることもできない玉城さんとは別人のようだ。
若い駅員にご苦労さまと声をかけると、玉城さんは私についてきなさいと言って先に歩き始めた。
ホームの一番北側にある階段を降りると、閑散とした改札口の方から押し問答する声が聞こえた。理香がそっと優斗の手を握ってきたので、優斗も握り返した。浩一の声じゃないわと小さく呟いた。
玉城さんに続いて「PRIVATE」と書かれた扉の中に入った。中は小さな執務室になっていて、スチールデスクが二台と安物のソファセットが一つ。駅員の休憩用の部屋かもしれない。玉城さんはそのまま進み奥の鉄製の扉を押し開ける。コンクリートで囲まれた階段室になっていて、下へ数十段の階段が続き、また扉がある。
「あそこから外に出れば、彼らと顔を合わせずにすむよ」
「すいません。いろいろと。でも玉城さんに迷惑がかかりませんか」
「本来なら、少し留まってもらって事情を聴く必要がある。そして場合によっては警察に連絡しなければならない。まぁ、しかし何とかなるだろう。矢野くんにはうまく説明する必要があるけど」彼はあぁ見えてまじめだからと続けた。さっき一緒にホームにいた駅員のことを言っているのだろう。
「それと、交換条件のようで申し訳ないんだけど」と言って振り返る。先ほどまで見せていた立派な社会人といった顔つきが崩れ、おねだりをする少年のような顔になっていた。そして、「エキノドルスホレマニーグリーンブドードリーフレッドエッジ一株」と言って微笑んだ。
優斗は一瞬微笑みを浮かべ、わざと渋い顔をして、「交渉ですか」と問い返し、玉城さんは、「交渉だよね」と返答し、理香は「エキノドルス……?」と疑問を投げかけた。
「わかりました。僕から店長に頼んでみます」
玉城さんはくしゃりと顔を歪めてほほ笑むと、階段をすたすたと降りて扉を開けてくれた。
「ここから出ると、改札と反対側の通路に出られる。通路の先にまた階段があって、その前に扉があるけど、中からは押せば開く」
「すいません」
「いやいや。退職まで後半年。なかなか最後に刺激的な出来事を起こしてくれた。しかし」と言って玉城さんは下手くそウインクをして見せ、「優ちゃんも、すみに置けないね」理香に視線を移すと、「別嬪さんだ」と続けた。
モノレールの駅を無事抜け出し、優斗と理香は肩を並べて歩いた。夜風は既に冷たかったけれど、モノレールの線路を走ったためか、ヤクザと一戦交えたためか、心も体も火照っていてあまり寒くなかった。
遠くでサイレンの音が聞こえたような気がした。理香の兄は張真組の追っ手をまくことができただろうか。
「お兄さん、大丈夫かな」
「うん。大丈夫と思うわ。いざとなれば同僚に助けを求めると思うし」
「同僚? 川上さんは何をしている人なの」
と言って理香を振り返る。川上が何者なのか、ずっと気になっていた。実はある国の王様であるとか、どこそこのお代官様だと応えられるのを想像する。川上のまとう雰囲気から、まったくありえないことではないような気がした。
「お兄ちゃん。刑事なの」
「え……」
予想外の応えに目をむいた。空想より事実の方が受け入れがたいのはどういうことだろうか。
「暴力団が絡んでいるって知ってから、一人で掘り出すって言い出したでしょう。おそらく何らかの事件と絡めて考えたんだと思うの。でも、優斗、知らなかったの?」
「うん」
「あんなに怪しいのに、よく正体を知らずに付き合うわね」
と言って笑った。しかしすぐにさっと顔色を変え、「ごめんなさい」と謝った。「自分のこと棚に上げて」と消え入るような声で言った。
「いや。そんなことないよ」と返すのが精一杯だった。正体を知らずに付き合うのが、自分の特技のように思えた。
しばらく二人、無言で歩いた。公園があった。中央にパーゴラがあって、街灯が二つ明かりを落としていた。パーゴラの下に木製のベンチが一つ、適度に外灯の光を受けていた。
「タイムカプセル、ここで開けてみる?」
優斗は理香を誘った。十二年間密封されたタイムカプセルには優斗と理香だけではなく、他の同級生の思い出が詰まっている。目的を達成させたら、発掘式典の前にもとの位置に戻さなければならない。他のみんなの思い出まで、自分の部屋に持ち込むことに抵抗を覚えた。
「うん」
と理香が頷き、二人でベンチに腰を下ろした。
鈍い銀色のカプセルは、外灯の光を受けて、今まさに開けようとする二人に、抵抗するように瞬いていた。
優斗はポケットからマイナスドライバーを取り出した。手のひらに収まるほど小さなドライバーは、手に持つところも細い作りになっているが、滑り止めがついている。
父がタイムカプセルの販売をしていたため、自宅には同じドライバーがごろごろ転がっていた。
「よし」
優斗は小さく気合を入れて、タイムカプセルのキャップを止めているボルトの頭にドライバーを押し付けた。手首を回す。わずかな抵抗を見せてボルトは静かに回った。慎重にゆっくりと力を加える。回すのにまったく力がいらなくなると、指でナットをつまみ、反対側に回す。ボルトとナットが外れて優斗の手の中に納まった。理香が両手を差し出したので、その中に落とした。
二本目、三本目と同じ動作を繰り返し、最後のボルトを外し終えると、タイムカプセルを両足の間に挟みこみ、キャップに手をかけた。
両手に力を加える。キャップはボルトよりも強固な抵抗を示し、開封されるのを拒んだ。手のひらを捻るようにして力を加えると、抵抗していたキャップが徐々に持ち上がり、最後、パカリと拍子抜けするような音を立てて開いた。真っ暗な穴の中に、ビニール袋の先が少し見えた。
「ねぇ」
理香が優斗の傍らに頭を寄せてカプセルを覗き込んだ。かすかにシャンプーの匂いがした。
「私以外にも、埋めたものを見られたくない人っているかな」
「いるかもしれないね」
「じゃぁ、他の人のはあまり見ないほうがいいね」
優斗はカプセルを理香に渡した。
「どちらにしても、一つずつ出さないと、どれが理香のかわからないよ」
理香はカプセルを受け取ると、ビニール袋を引き出し始めた。
住宅街を走る車のエンジン音が聞こえた。その音を聞きながら、優斗は公園に視線を向けた。公園の端に滑り台がある。滑り台の下に砂場があって、後はブランコとコンクリートで作られた踏み台が互い違いに並べられている。
東山小学校の近くにも公園があった。ここと同じような小さな公園だったが、低学年のときはよく鬼ごっこをして遊んだ。あの冬の夜の事が思い出される。炬燵でぬくぬくとうどんすきを食べていたころ、理香は夜の公園で酷い目に会っていた。苛められていた彼女を助け、憮然として帰ってきた父が優斗に投げかけた言葉。
「お前は、あの子が苛められることを知っていて、見て見ぬふりをしているわけじゃないだろうな」
理香はタイムカプセルから一つ一つビニール袋を取り出し、そっとベンチに並べている。ビニール袋の擦れる音が続く。理香の手が止まったのがわかった。
「あった?」
手に持ったビニール袋を理香は自分の傍らに置くと、取り出したほかのビニール袋をカプセルに戻し始めた。
「僕のも出すよ」
理香が手を止めてカプセルを優斗に渡した。手を入れ、ビニール袋を取り出す。自分の袋はすぐにわかった。
突然、手元が暗くなった。はっとして視線を上げる。外灯を背に人影があった。威圧感のあるシルエットに優斗は身を凍らせた。もう安全だと気を抜いていたから驚きは莫大で、落胆はひとしおだった。
人影が一歩踏み出し、危険を感じた優斗が腰を挙げる。優斗と、シルエットから抜け出した黄色頭の間に理香が割って入った。
「モノレールの線路を走るなんて驚きやな」
黄色頭が押し殺した声で言った。
「いったい何してるんや」
「どうしてここがわかったの」
理香の声は落ち着いていた。
「次の駅まで車で移動したけどわからんかった。半ばあきらめて車でうろうろしてたら、公園に人影が見えた。偶然やな」
「他の人たちは」
「さあな」と応えて黄色頭は肩を下げる。「質問に答えろよ。ここで何してるんや」
「学校にタイムカプセルを掘り出しに行ったの。そしたらやくざも掘りに来た。明日だと言ってたのに」
「日程が変わったんや。それで? なんでうちの組に追い回されているんや」
理香はしばらく逡巡した。
「たぶん勘違いしているのよ。私達は自分の埋めたものを持っているだけなのに、彼らが欲しがっていたカプセルを持っているんだと思い込んでいるの」
理香はヤクザからカプセルを奪った話はしなかった。
理香の肩ごしに、黄色頭の視線が優斗に突き刺さった。私達という言葉が怒りを触発させたのかもしれない。
「こいつはなんだ。この前校庭で出くわした男か」
「えぇ。手伝ってもらったの」
黄色頭は憮然とした表情を浮かべて理香に視線を移す。しばらく二人は目線を合わせて動かなかった。
「とにかく」黄色頭が折れたように少し声のトーンを落とした。「来い」
理香の腕を取った。間接の節くれだった大きな手だった。優斗は意を決して理香の反対の腕を掴み引き寄せた。
「どこに連れて行くんです」
「何やお前、手を放せ」
「断ります」
残念ながら声が上ずっていた。でもここで逃げるわけにはいかない。
「お前の了解をとるつもりはない」
黄色頭が理香の手を引き、肩を抱き寄せた。優斗は離されまいと手に力を入れる。理香が苦痛で顔を顰める。
理香と一緒に黄色頭に引き寄せられた形になった優斗を、黄色頭が突き放す。もみ合いになった。
「やめて!」理香が黄色頭に向かっていった。「とにかく手を放して」
優斗と黄色頭は睨みあった。黄色頭の背が高い分、見上げる形になるが、後れを取るまいと必死に睨み返した。
優斗はゆっくりと理香の腕から手を放す。それを確認すると黄色頭も手を放した。理香は両方の腕をなでながら、ベンチに戻ると、ビニール袋を取り上げた。理香がタイムカプセルに入れた袋だ。ビニール袋を開け、中から封筒を取り出す。封を開けて中身を外灯の光にかざした。
「十二年前、私が過去に置き去りにしたものよ」
理香は優斗と黄色頭に語りかけた。数枚の写真だった。理香が黄色頭に差し出す。
「なんやこの写真は」
「よく見て」
黄色頭は写真に目を落とした。眉間に皺が寄る。
「誰や、これ」
黄色頭が写真を傾けたおかげで優斗も見ることができた。
写真には一人の小学生ぐらいの女の子が写っていた。顔のアップだった。髪の毛を誰かが掴んでいる。彼女は泣いていた。
黄色頭が写真を繰った。二枚目の写真も同じ女の子が写っていた。地面にしゃがみこみ、細い肩が剥き出しになり、ブラジャーの肩紐が見えていた。
優斗は顔を強張らせた。それでも視線は逸らさなかった。虐めにあっている川上幸子の写真だった。
「私」
「わたし?」
黄色頭の声が一オクターブ上がった。写真を握り締めたまま理香の顔をしげしげと見て、「意味が、わからねぇ」と呟いた。
「整形したの」
「は?」
黄色頭は街灯の明かりに照らされ、固まったように動かない。
「短大に通っていたときに整形手術を受けたの。過去と決別するために」
黄色頭は唇を舐めた。額に手をやり、その大きな手で顔を撫でた。
「ごめんね。騙して」
「……」
「女の子が生まれても、美人にはならないわ」
黄色頭は口元に手をあて写真をゆっくりと確認し、もう一度呻き、「なんてこった……」と囁き首を振った。
「私のこと軽蔑してくれていいよ」
理香が手を差し出し黄色頭から写真を受け取る。受け取った写真を理香はじっとみつめた。唇をきつく噛み締め、写真を握る手が微かに震えていた。
街灯の下で三人、しばらく無言で佇んでいた。
携帯電話の着信音が鳴った。
はっとして黄色頭は理香を気にしながらも携帯電話を取り出し、耳に押し当てた。
「もしもし」
黄色頭の表情が更に困惑したものになった。
「お前誰や……どういうことだよ……」
耳に押し当てていた携帯をゆっくりと下ろした。視線は携帯電話に向けられている。眉間に皺を寄せ、緊張した面持ちだった。
「どうしたの」
「いや……」
携帯をポケットに収め、落ち着かなく手の平を服で拭くと、
「ちょっと用事ができた。とにかく……また連絡する」
黄色頭は背中を向け、走り去ろうとして立ち止まり、こちらを振り返った。
「理香」
「なに」
「辛かったろうな」
暗くて表情はわからなかった。それだけ言うと黄色頭は闇に消えた。理香が小さく頷くのがわかった。
少しだけだけど、優斗は黄色頭のことが好きになった。
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