第3話


 沢木理香はマンションの玄関口に添えられたオートロックの端末機に鍵を翳し、自動ドアを開けた。

 エントランスに入るとまっすぐに集中ポストに向かい部屋番号のついたボックスから封書やハガキを取り出す。ほんの二、三通だった。宛名を見ないようにして送り主だけを確認する。

 東山小学校からの案内状は届いていなかった。小学校に残っている住所録は実家になっているはずだから、一人暮らしのこのマンションに届くはずはなかった。もう、実家には五年以上帰っていない。

 タイムカプセルが掘り返されるのは、随分先の話だと高を括っていた。まさか東山小学校が統廃合されるなんて少しも考えていなかったから、優斗が持っていたハガキを見たとき思わず絶句してしまった。

 ハガキの右肩には返信用と印字され、カラフルな文字で「東山小学校タイムカプセル発掘イベント!」と二段書きされていた。掘り出す日は十一月二十二日 午後一時三十分~。出欠に○をつける欄があり、ハガキの一番下には、イベントに欠席の場合は後日受取ができますと記載され連絡先が併記されていた。

 あと二週間しかない。五階の自宅の鍵を開け中に入るとリビングのソファに体を投げ出した。天井のダウンライトを見るでもなく見上げた。

 ここ二、三年。タイムカプセルの事を思い出すことは無かった。忘れてなどいなかったけど、どこか頭の中から排除しようという意識が働いていたいのだと思う。

 各自が思い思いに持ち寄った品はビニール袋に入れ、確か十人ずつタイムカプセルに収めた記憶がある。ビニール袋には油性のマジックでクラスと名前を書いたと思う。イベントはどういう風に進行されるのだろう。わざわざ案内状を出して参加者を募るぐらいだから、ただ単に掘り出したタイムカプセルからビニール袋を取り出して参加者に配るだけ、とは考えにくい。

 シャベルカーか何かを持ってきて掘り出すところから始めるのだろうか。もしかしたら体育館かどこかに掘り出されたタイムカプセルと、中に治まっていたビニール袋が陳列されるのかもしれない。それで記念撮影でもして、その後はみんなで思い出話でもしながら自分の袋を探すのだろうか。

 数百人がビニール袋の名前を確認しようと体育館にひしめき合う様子を想像し、理香は顔を覆った。優斗も参加すると言っていた。ソファに仰向けに寝転がりながら腕でダウンライトの光を遮る。閉じた瞼にタイムカプセルを開ける優斗の姿が浮かんだ。

 心臓がトクトクと波打つ。理香は上体を起こし膝を抱えた。一人暮らしには十分広い二LDKの部屋。家具はあまり揃えていないから殺風景にだだっ広い。

 サイドテーブルの上の小さな水槽の中でデメちゃんが泳いでいる。理香に愛敬を振りまくようにガラスの面に沿って、大きな目をくりくりとさせて、右左に行き来していた。付き合い始めてすぐに優斗がプレゼントしてくれたアベニーパファーという淡水フグだ。

 以前から猫か犬が飼いたかった。でも一人暮らしで家を開けることが多かったから、かわいそうに思い見合わせてきた。そこにデメちゃんがやってきた。それまで魚を飼った経験はなかった。哺乳動物に比べ、意志表示の少ない魚や昆虫にはあまり興味がなかった。しかし、この部屋にデメちゃんが来て以来、理香はこの魚のことが好きになった。

 水槽のセッティングをしてあげるとの優斗の申し出を断り、教えてもらったとおりに水槽をセットした。慎重に水あわせをしてデメちゃんを水槽に放った。デメちゃんはくりくりとした目を動かし、小さな水槽の端から端まで泳ぎまわった。理香はその日、あきることなく寝るまでデメちゃんを眺めていた。

 立ち上がって水槽のそばに行く。水槽の横に置かれた円筒形のケースに入ったフレーク状のえさをあげようと思って、優斗が用意してくれていたスネイルを忘れてきた事に気が付いた。

 アベニーパファーは基本的に生のえさしか食べないらしい――冷凍の糸ミミズは食べるらしいけど、形がそのままなので生の糸ミミズと同じくらい怖い。

 でもデメちゃんは乾燥したフレーク状のえさも食べてくれた。そういった個体を優斗が選んでくれたのだ。といっても生のえさは大好きだから、ときおり優斗が水槽の中に発生する小さな貝を確保していてくれる。スネイルを食べるときの、デメちゃんの動きが理香は大好きだった。

 優斗に悪いことをしたなと思う。ろくろくさよならも言わずに店を飛び出してきた。店に行くまでは一緒に食事をするつもりだった。ハガキを見たことで頭が一杯になりすべて忘れてしまったのだ。

 怒っているかなと気になる。変に思っているかもしれない。鞄から携帯電話を取り出す。メールが何件か入っている。しかし優斗からのメールはなかった。

 昨日優斗から届いたメールの返信ボタンを押し、〝今日はごめんね〟とナンバ―キーの上に指を走らせる。後が続かなかった。言い訳が思いつかないし、突然飛び出してしまった理由を考えると指が動かなくなる。

 彼を大事にしなきゃと思う。ほかの男とは違う。彼は違うのだ。優斗から付き合って欲しいと告白されたとき、するりと皮を向かれたブドウのような気分になった。嬉しくて恥ずかしくて、うんいいよと応える短いセリフが震えていた。

 これまで付き合ってきた男たちは、初めは理香に溺れる。夢中になって好きだと連呼し、優しく抱いてくれる。全てを許して心が通じ合ってきたと思った時、男の様子に微かな変化を感じる。

 私の事、おばさんになっても好き?

 こーんなに――お腹の回りに手を広げ――太っても愛してくれる?

 と尋ねる理香に、男は戸惑いの表情を浮かべ、理香は絶対太らないよとか、年をとってもきれいでいるさと言うか、不快そうに、くだらないこと言うなよと吐き捨てるかのどちらかだ。

 なぜなら、彼らは理香の容姿が好きなのであって、内面が好きなわけではないのだから。それが言い過ぎならば、今の容姿を伴った内面を、彼らは愛しているからだ。そのことがわかると一気に冷めた。むなしさを感じいつも理香のほうから別れを切り出してきた。

 優斗に同じ質問をして確かめる勇気はまだない。彼は今でも出会ったころと同じように接してくれているけど、微妙なズレが出る日が来るのかもしれない。その時、ほかの男たちと同じ質問を投げかけて確かめる勇気が自分にはあるだろうか。

 携帯を弄んでいた理香は、しばらく逡巡して結局送信ボタンを押さずにテーブルの上に置いた。優斗は不安そうに眉を顰め理香のメールを待っているのかもしれない。ほかの男なら絶対に機嫌取りの電話をしてくるだろう。彼がそれをしないのはどうしてなんだろう。

「ごめんね。デメちゃん」

 ご馳走をくいっぱぐれたデメちゃんに謝る。デメちゃんはガラスの傍に近寄り、小さいヒレをびゅんびゅん動かしながら理香に視線を向けていた。

「醜いあひるの子。どうして君はそんなにかわいいの」

 水槽を鼻先でつつくデメちゃんに声をかける。

「小さいからかわいいのかな……いいね。デメちゃんは」

 携帯電話が着信音を上げた。取り上げてディスプレイを見る。相手は目黒浩一だった。

「はい」

《俺やけど。今、家か?》

「うん」

《これから夕飯食べに行こうや。出て来いよ》

 力強い声に理香はいつも僅かながら臆する。それに腹を立て、「いいよ。高い料理にしてね」と強い口調で切り返していた。



「よお」

 短髪を金色に染め、生成りのジャケットにジーンズとスニーカー姿の目黒が理香の前に立った。節くれだった指の関節、手首には一粒が直径一センチはありそうな赤茶色のパワーストンを巻いていた。

「待ったか?」

「さっき来たとこよ」

 それなりに格式のあるリストランテに、案内も通さずに入ってきたらしく、ずいずいと理香の前まで来たものだから微かに眉間に皺を寄せたウエイターが早足で近づいてきて、片頬に笑みを張り付け目黒の座る椅子を後ろに引いた。

「もう注文したんか」

「まだ」

 ウエイターが革張りのメニューを開いて目黒の前に翳す、それを押し返すようにして、

「ほら、ディナーコースあったやろ。前菜にスープにパスタにメインディッシュがついたやつ」

 とウエイターに向かって言った。

「それで、いいやろ」

 と理香を見る。理香はどうにか笑みを浮かべ、「シェフお薦めのディナーコースを二つ」と注文し、パスタとメインディッシュを数種類の中から選んだ。目黒もそれと一緒のやつと注文する。

「それと赤ワイン。シャトー・ペトリュスをボトルで持ってきて。できるだけ古い年代のやつな」

 目黒が注文するワインはいつも一級品で美味しかった。仕事で高級なバーやラウンジに行くことがあるらしく、ワインの銘柄をそこで覚えてくるらしい。

「お客様はお車ではございませんか」

 ウエイターの顔を見た。これまで何度か応対してくれている人とは違った。いつものウエイターは良くも悪しくも飲酒運転に言及したことはない。

「そやけど」

「大変申し訳ありませんが。当店ではお車を運転されるお客様にアルコールをお出しすることはできません」

「気にせんといて。大丈夫や」とピント外れの回答をする。

「お客様、それでは代行運転を……」

「車は置いて、帰る」目黒がウエイターに視線を移し、「それならええやろ」と言った。

 ウエイターは肩をすくめて頭を下げた。

 この店には子供の頃、何度か両親に連れてきた貰ったことがある。目黒と来るのは三回目だけど、今回で最後にしようと思った。

 目黒と出会ったのは、理香がアルバイトで勤めているフィットネスクラブだった。理香はそこで受付の仕事をしている。この夏、目黒は入会手続きでフィットネスクラブを訪れた。タンクトップから向きだした首も肩も腕もすごく逞しくて黒く日焼けしていた。そして日焼けした肩の、トーテンポールの一番上に彫り込まれた神様の顔のようなタトゥーが印象的だった。危険で、怖い男だと思った。

 ぶっきらぼうな口調で入会したいと言った目黒に臆しそうになる気持ちを奮い立たせ相手をしていると、横合いから店長の西川が口を挟んできた。

 必要以上にへりくだった口調で、「お客様、その肩の刺青の件ですが」と始めた。

 目黒は、「刺青ではなく、タトゥーや」と訂正し、「何か問題があるんか」と続けた。

 西川は入会を拒否したわけではなくトレーニング中はタトゥーをできるだけ隠して欲しいとお願いしただけだったが、目黒は不快感をあらわにして申し出を拒否した。

 結局、目黒は椅子を蹴立てて店を出て行った。それがどこか芝居がかった仕草のように思えた。目黒は西川に噛み付きながら、ちらちらと理香の顔を盗み見ていた。本心から怒っているようには思えなかった。もしかしたらと予測していた通り、理香が仕事を終えて外に出たとき目黒が声をかけてきた。

 ウエイターがティスティングのために注いだ赤ワインを目黒は一気に飲み干した。

「うまい。これでええわ」

 ウエイターは慇懃に頭を下げて理香のグラスにも注いだ。

「昨日さ、ミナミで麟政会の下っ端が因縁つけてきてさ。あまりうるさいからしばいたってん」

 唐突に話し出した目黒の言葉に、ウエイターは聞こえない風を装って去っていく。

「麟政会って暴力団なの」

「いや。暴走族に毛の生えたような組織や。ミナミででかい面してるガキの集まり。まぁ、バックには浅沼組がついてるらしいけどな」

「そんなのと喧嘩しても大丈夫なの」

「構成員でもないチンピラの仕返しのために浅沼組が出張ってくることないからな」

 別世界の話だ。小説の中だけでの話だと思っていた。まさか自分が格式高いリストランテでそういう会話をするなんて思いもしなかった。ワイングラスを傾ける。芳醇な香がしてすごく濃厚で、喉にまとわり付くほど粘りがあった。

「しばいてるときにさ、変な男が割り込んできてな。いきなり、君よしなさいって注意しよんねん。なんやこいつと思ってたら、因縁つけてきたチンピラがいきなりそいつを殴りよってな」

「どういうこと」

「俺がチンピラを押さえつけていたんやけど、逃げ出しよってな。そいつが助けに入った男を殴りつけたんや」

「どうして」

「プライドを傷つけられたんやろ」

「殴られた人は災難ね」

「そうや最悪や。だから仇をとってやった」

「かたき?」

「逃げた男の耳を半分ぐらい引きちぎってやったんや」

 思わず顔をしかめる。信じられない暴力の世界。もう少し声を落として欲しいと考えながら、ふーんと頷いた。周囲の視線が痛い。横のテーブルのカップルはこちらを窺いながらひそひそと耳打ちをしている。

 目黒はこの辺りを縄張りにしている張真組の構成員だ。鼻っ柱が強く喧嘩も強い。プライドも高ければ負けん気も人一倍。ほんとうは関わりになりたくないタイプの男だ。苦手だし怖い。でも強い男への憧れがあった。誰もが恐れる男に愛される女。ひりひりとした緊張感を覚えながらも理香は目黒が彼女に好色な眼を向けるさまを楽しんでいた。

「そやのに近藤がさ、そのかわいそうな青年の財布、がめよってな」

「がめたって?」

「小遣いにもらったんや」

「盗んだんでしょ。それって犯罪じゃない」

 勇気を持って目黒の視線を真正面からとらえ、不快感を露わにする。目黒は気が強くてはっきり物を言う女が好きなのだ。

予想通り目黒は満足げな笑みを浮かべた。笑うと目元が涼しげで、頬にできる皺と相まって愛嬌のある顔になる。

「俺も知らんかってんけどな、後で説教したった。やっぱり堅気の金を奪うのはあかん。無茶やっていいのは同業者相手のときだけや」

 耳を引きちぎるなんて無茶を通り越していると思うけど、目黒の理論では同業者相手にはかなりのことが許されるらしい。

「でも財布は盗んだままなんでしょ」

「返した」

「どうやって」

「変なおっさんが取り返しに来たんや」

「財布を奪われた青年の知り合い?」

「わからん。一緒に来たけど、そんな風でもなかったな」

「それって。強盗が泥棒に財布奪われたんじゃないの」

「いや、違うんや。実はそのおっさん――」

 前菜が運ばれてきた。

「前菜でございます。右から宮崎県産有機野菜の温菜、フルーツトマトのカッペリーニ、フォアグラのテリーヌマドラス風、そしてこちらが……」

「おっ、これうまいわ」

 目黒はウエイターが説明しようとした魚介類の前菜を口に放り込んだ。

「ありがとうございます」

 ウエイターは慇懃に頭を下げると淡々と料理の説明を最後まで続け去っていった。肩の辺りが怒っている。理香も恥ずかしく思ったがそこはぐっと堪える。目黒と行動をともにしているときは周囲の目を気にしていると体が持たない。

 目黒は粗野な部分と繊細なというか、行儀のいい部分も併せ持っていて、ウエイターが説明している最中に料理を口に運ぶような男なのに、ナイフとフォークはいちばん外側から選び、テーブルにあったナフキンは膝の上に置いている。

「ねぇ。浩一ってなんだかちぐはぐよね」

と質問を投げかけてみた。

「なにが」

 きょとんとした眼で理香を見返した目黒に、ナイフとフォークを指差して示した。

何を言われたのか気づいたらしく、「あぁ」と応え、口の中のものを呑みこみ、「まぁ、これは施設で教わったんや」と応えた。

 目黒は児童養護施設で育った。親の顔は知らないと言っていた。施設の保育士が俺の親だとも言っていた。あまり子供時代のことは話さないが時々保育士のことは口にした。石塚さんという女性らしい。その人に教わったってことか。

「ねぇ。浩一って兵庫県の出身だっけ」

「なに? 尼やけど」

「あま?」

「尼崎の風光学園が俺の出身地や」

「今でも行くの?」

「あぁ、たまにな」

 目黒は視線をオードブルに落として、豪快に口に運ぶ。美味いなこれと誰にでもなく呟いた。自分が孤児であること、児童施設で育ったことを隠すことはないが、当時の話を積極的にしようとはしない。誰にでも触れられたくない過去はあるのだ。

 やっぱり目黒にタイムカプセルのことを頼んでみようと思った。彼なら行動力もあるし、後ろぐらい行為でも、理由を聴かずに引き受けてくれるかもしれない。

 携帯電話の着信音が辺りに響き渡った。周囲を見渡したが犯人探しをする必要はなかった。目黒がポケットから携帯を取り出し、通話ボタンを押した。

「目黒です。ご苦労様です」

 慌てて口の中のオードブルを飲み込んでいる。

「はい! はい!」

 電話で指示を受けているらしく大声で返事を繰り返した。

ウエイターがゆっくりと、しかし怒気を含んだ足取りで近づいてくると、「お客様、他のお客様もおられますのでもう少し声を」と注意したが、それに気づいた様子もなく目黒は中空に視線を這わせ、「わかりました。すぐに行きます!」と言った。

 電話を切る節くれだった両手を顔の前で合わせ、理香に頭を下げた。

「すまん。事務所から呼び出しや」

「そう」

「どうする?」

「なにが?」

「めしだよ。めし」

「一人で食べて帰るわ」

「そうか」と少しさびしそうな顔をしたが、仕方ないと思ったのか、「じゃぁ、支払いしとくわ」と言ってナフキンで口元を拭き、席を立とうとして中腰の姿勢でとどまった。

「今度な。おまえの部屋に行っていいか」

 突然の質問に即答できずに目黒の顔を見る、目黒はちろりと唇を舐め。

「そろそろええやろ。どうしても部屋が嫌ならディズニーランド一泊旅行でもええ。一泊ぐらいなら何とか仕事も調整できるし」

 頭の中がかっと熱くなった。目黒にはまだ体を許していない。でもそろそろ限界だろうとは思っていた。

「スプラッシュマウンテンにでも乗るの?」

 どうにか微笑を浮かべることに成功した。余裕があるように見えただろうか。

「いや、俺、高所恐怖症やからな」と顔を顰める。「ドラマチックに夜のパレードで愛を語り合うってのはどうや。それともハニーハントでもええ。宿泊はミラコスタや」

 メルヘンの世界をハチミツ壷に乗って行き来する目黒の姿を想像する。全然しっくりとこない。

「考えとく」

 目黒はちっちっと舌打ちをして、片手を上げ店の出口に走った。ウエイターがほっとするのが見えた。理香もほっとした。やっぱり目黒といると疲れる。違う自分を演出しなければならないから、いつも以上に気が張るのだ。

 二人分のオードブルを目の前に、理香は溜息をついた。

「失礼いたします」

 ウエイターが慇懃な態度で理香に傍らに立っていた。

「お食事の方は、お二人分お運びいたしますか」

「すいません。一人分でお願いします」

「承知いたしました」と頭を下げる。顔を見ることができなかった。物事に動じない役柄はもう終わり。小さくすいませんともう一度謝り、ウエイターが遠のくのを見送った。

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