ボッチメン

@winterman

第1話 最初の出会い


夜の公園

月の光で照らされる血まみれの男が一人。その男を見下ろすように、黒い影が立っている。黒い影の後ろには、服が乱れ、おびえ切った表情を見せる女性の姿。

「あ、あなたは、、、、、」と女性は声を絞りだすように、目の前の黒い影に聞いた。女性には、その影が、どんな表情をしているのかは分からない。ただ、一瞬笑っているように見えた。


それが、私と黒い影との出会い。今でも忘れられない出会いだった。


「サキエーー」

帰り支度をしていると、友達のマイカが声をかけてきた。

「なに、マイカ?」

「そんなダルそうな声出さないでよ~」

「ごめんね、この後、塾なんだよね。だから急いでて、それで?」

「今日、日直でしょ?先生が、皆の宿題回収し忘れてたから、二人で持ってきてだってさ」

「うぇええ、マジで?こんな忙しい時に、、、そうだ里井に任しとけば良いか」

里井ユウヤ。クラス内で、あまり目立たない男子だ。基本的に無表情なので、何を考えているか分からない。

「やめた方が良いよォ、サキエ。先生は、日直二人が来るって伝えちゃったから。先生になんも言われたくなかったら、一緒に行ってきなって」

「そうかなぁ」

でも確かに、マイカの言っている事は正解だ。もう高校三年生で、今は受験勉強だ。多少のトラブルで成績を落とす事を避けたい。

「ありがと、マイカ。宿題集めるから、ちょっと周りの皆引き止めといて。」

「オッケー!」

私は立ち上がり、黒板の前で宿題の回収を皆に伝えた。その後、里中の席に近づき

「里中君。今日日直でしょ?私と一緒に宿題、先生の所に持っていこ」

里中は、黙って立ち上がり、集めた宿題を抱えて教室を出た。私は、その後に続いた。


先生に宿題を渡し、その帰りに里中と下駄箱まで一緒だった。その時、里中が奇妙な事を言った。

「田神さん、今日は塾に行かずに、まっすぐ家に帰った方が良いよ」

私は、それを聞いた時、背筋にヒンヤリとしたものを感じた。なぜなら、里中君とプライベートの事を話した事はないからだ。その為、私が塾に行っている事は、里中は知らないはずだ。私は怖くなり、一刻も早くこの場から逃げ出したかった。

「里中君、ごめん!私行くから!」そういって、全速力で塾に向かった。

塾に無事に着き、授業を受けていても、里中の言った事を考えていた。

もしかしてストーカー?私の事つけ狙っている?いや自意識過剰かな?

とにかく、明日マイカと相談しよう。そう結論が出た時には、授業は終わっていた。


帰りの夜道。私は自転車を走らせて、自宅に向かった。

里中の事も不安だが、受験も不安だ。そんな考え事しながら、丁度公園のそばを通った時、私は歩行者とぶつかってしまった。

頭は真っ白になってしまって、倒れている歩行者に駆け寄った。

「大丈夫ですか!??」そう呼びかけたが、反応はなし。

自分の将来が真っ黒に染まっていく。

自転車で人をはねてしまったのだ、受験どころではない。

ああ、里中が言っていた事って、こういう事だったのかな。

そう自分の事を考えていると、不意に自分の腕がつかまれた。倒れた歩行者の手だ。

生きている!それだけでも、心の中の黒いものが薄れていく。

私は、謝る為に、その人の顔を覗き込んだ。だか急に、私は突き飛ばされてしまった。かなりの力だった。最初は、自分がどこにいるのか分からなかったが、どうやら私の自転車から、数十メートルは離れている公園の中まで、吹っ飛ばされたらしい。


ヤバい、、、、、このままだと殺される。


そう直感が教えていた。あれは、化け物だ。逃げようと立ち上がろうとしたが、どうやら、さっき足をひねったらしい上手く立てない。数十メートル先の化け物は、こちらを見て、そして、明らかに人外離れの飛びかたをして、襲い掛かってきた。


私は、恐怖のあまり目をつむった。そのときに叫ぶ暇もなかった。


だが、目をつむっていると、急にヒュンヒュンと音がしたのが聞こえた。そしてその後に、ドスンと言う音がした。


目を開けた。死んでいない。私は生きている。だが、その前に広がる光景に息を飲んだ。さっき襲い掛かってきた化け物が血まみれになって倒れていた。

そして、その前には、黒い影がいた。

私は、声を絞りだした

「あ、あなたは、、、、」

影は笑っているように見えた。だから言ったのにと言う感じでもあった。

そして、その影は振り返り、その時、月の光が射してきたので顔がハッキリと見えた。


私には、その顔は見覚えがあった。そうこの影は、私に、今日塾に行かず真っすぐ帰るように助言をしてきた奴だ。


そう、里中ユウヤだった。

そして里中はこういった。


「君は、僕を里中ユウヤと言うだろうね。けど今の僕には名前はない。ただ、人に危険が迫れば必ず助ける。ただそれだけの存在だ。分かるかな?」


こうして、名前がないヒーローと私は出会った。





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