15話 夏休みは楽しめ
シズキ達と遊んで家に帰ってきた俺は、シズキの親について調べてみることにした。
すると、なんとシズキの母親はモデル事務所の社長だという事が判明した。
あの優しくてファッションセンスのあるオシャレな母親が社長。それならシズキが普段からプライドが高いのも頷ける。
しかし、そうなってくると俺がシズキの事を好きになるのは間違っているんじゃないかと思うようになってきた。
俺は不良なのに女装をするような変態だ。もしシズキが俺の事を好きになったとしても、シズキの親が反対するだろう。
それにシズキならもっとカッコイイ彼氏を作って、裕福な家庭を築くはずだ。プライドが高いのだから俺のような男とは付き合わないはずだ。
「……はぁ〜……」
やっぱり女装してないとシズキは振り向いてくれないんだな、と部屋の天井を見上げて大きなため息を吐いた。
学校終業式当日。長い式を終えた俺達は教室に戻って席についていた。
「トモキまだその写真見てたのか?」
「ん? だって可愛いじゃん」
マコの写真を見ているトモキは、完全にマコに恋をしているようだ。
「そんなに好きなのか」
「男は誰だって女を好きになるもんだよ。マコトだって例外じゃないだろ? ホモじゃない限り」
それはご最もだが、トモキが恋をしている相手は男であって俺はトモキと付き合うことは無い。ホモじゃない限り。
「トモキがそこまで思う人ができるなんてな」
「ま、雰囲気がマコトに似てるからってのもあるけどな」
「……は?」
急に何を言い出すんだ?
「俺、マコト先輩も好きだから」
「…………馬鹿なのか?」
恋をして頭がおかしくなってしまったのだろうか。殴って正気に戻してやろうかと思った。
「至って普通だよ。まあ、夏休みは予定があるからマコトとは居られないけどね」
「……気持ち悪っ」
女装している時ならまだいい。しかし男のマコトの俺にそういう事を言うのは流石に寒気が走る。
「酷いなぁ、男女を平等に愛せるって素晴らしい事じゃないか」
「引くわ」
「はいはい皆〜! もう夏休みだね!」
トモキに率直な意見をぶつけていると、あの筋肉フェチの変態女教師マリ先生が手を叩きながらやってきた。
「予定は決まったかな!? 先生は決まってない!」
「早く旦那見つけた方がいいっすよ」
「ふっふっふっ、私はまだ若いからチャンスはいくらでもある!」
本当にこの先生は全然先生らしくない。もう少し威厳を持った話し方は出来ないのだろうか。
「今から夏休みの課題と注意事項が書かれた紙、あと通知表渡すから名前呼ばれたら取りにこ〜い」
全員が席に座るとマリ先生が話し始めた。
「それじゃあ警察のお世話にはなるなよ。誰とは言わないけどね、マコト」
「言ってるじゃねぇか」
それで教室に笑いが起きる。
「それじゃ、解散! 夏休みはしっかり楽しんでこい!」
こうして俺達に夏休みがやってきた訳だが、心配事が多すぎて休みにはならなさそうだ。
まず夏休みの課題が多すぎるのは毎度の事だが、シズキが計画した旅行だ。俺は女装したまま旅館に泊まらないといけないらしいのだが……シズキに全部任せっきりにしている。
もし俺の女装がバレたらと思うと不安で夏休みが始まってそうそう死んでしまう。
「おいシズキ、本当に大丈夫なんだろうな」
教室から出てすぐシズキに話しかける。
「任せなさい。その時その時は大変だけど、私の作戦通りに動けば問題ないわ」
そういって俺のカバンの中に小さなバッグを入れてきた。
「帰ってから開けなさい」
「お、おう……ありがとう」
何が入っているのかは分からないが、サイズからして化粧品やら何やらだろう。わざわざ俺の為に買ってくれ……そういやシズキの親は金持ちだからこれくらいなら大丈夫か。
「金持ちはいいよな」
「でも親が厳しいから嫌なのよ」
それでも金があれば色んな事ができる。親がほとんど家にいない俺と比べたらシズキは幸せ者だ。
「じゃあな」
「あっ……帰ったら忘れずちゃんと見なさいよ〜!」
「分かってるよ」
早めに帰って化粧の練習しないとな。ウィッグとかも寝てる時に脱げないからしっかり固定しないといけない。
「大変そうだ……」
旅行まで数日の期間はある。帰ったら必要な物買って本格的な女装の準備をするとしよう。
「なんっ……だこれ……」
家に帰ってきてシズキに渡されたバッグの中を見ると、化粧品の他にローターやコンドーム。生理用ナプキン。太い男性器の形をした物体X。その他エロい道具がてんこ盛りだった。
これを使って何をしろと言うんだ。
あまりの酷さに頭を抱えていると、1枚の紙が入っていた。
──その道具は旅行中に使ったり使わなかったりするから、大事に持ってなさい。指示したら指示通り使う事。
ちなみにマコちゃんの女装姿を私のお母さんに見せたら 可愛い とか 綺麗な子ね って褒めてたわ。良かったね。
モデル事務所の社長に褒められた……じゃねぇ! 何勝手に見せてるんだこいつ……。いやしかし、バレなくてよかった。
この道具を大事に持ってろっつったって……新しいバッグ買うしかねぇな。
順調に俺の部屋に異物が集まり始めてきて、俺は悲しい気分になった。
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