14話 皆で映画
今日もいつもより念入りに女装してきた俺は、約束していた通りの時間にシズキの家を訪ねた。
「あ、らっしゃい」
「また寝てたのか……」
パジャマ姿で寝癖ボサボサのシズキが玄関の扉から現れた。
「あっ! 丁度マコちゃんも来てたみたい! おはよ!」
その時丁度アイとサクラも来て、約束の時間ピッタリにシズキの家に集まる事ができた。
一先ずシズキの家に上げてもらって、シズキが準備してくるのを待っている間アイとサクラと話す事にした。
「マコちゃん今日も綺麗だね」
「ありがとう」
「でもそろそろ長袖は暑くない?」
確かに長袖の服は暑いのだが、半袖になると筋肉質な腕を見られてしまう。それだと女装と言えるのか心配なのだ。
一応腕毛の処理はしているし、肌も綺麗だという自信はある。しかし筋肉が付いているのはあまり好まれないだろう。
「外を歩く時は肌を見せたくないんだよね」
「あっ分かる! 男の人の嫌らしい視線がゾッとするよね! 特にマコちゃんみたいに綺麗な子だとね」
「長袖で涼しい服とかも今日買いに行こうよ」
そんな話をしている間にシズキは準備を済ませて、デートの時のような服を着てやってきた。
「よし皆。バスに乗ってレッツゴーだよ!」
そういやシズキって学校で女友達と絡む時はこんなテンションだったな……いつもの冷たいシズキじゃないから違和感を感じていたが、そういう事か。
バスに乗って少し離れた場所にある大きなショッピングモールにやってきた。
「あっ! あれ美味しそう!」
映画館に向かっているはずなのだが、どんどん違う場所に進んでいっている気がする。
「暑いからこのアイス食べようよ」
「マコちゃん何にする?」
「ん〜じゃあイチゴで」
こうして俺はシズキ達に流されるがままに店の中を漂い続けて、お腹いっぱいになった所でサクラが 「映画館行ってないじゃん!」 と今更になって気づく始末。
急いで映画館に向かい、お目当てのビブリ映画の上映時間までには到着する事ができて、何とか映画館の後ろの最も眺めの良い席に座ることができた。
今日見るビブリ映画怖いシーンもあれば感動するシーンもあるらしく、俺も少しだけ気になっていた映画だ。
「く、来るっ……」
怖いシーンになると、隣に座っているシズキが俺の手を握ってブルブル震える。
そして驚かすシーンが来そうになると目を瞑って俺の手を強く握るのだ。多分上映時間の3分の1は目を瞑っていたんじゃないだろうか。
映画が終わって外に出ると、シズキだけじゃなくアイとサクラまで目元を赤くしていた。
「うぅ〜感動したっ……」
「2人ともよく耐えたよ……お幸せに……」
「そ、そうだね」
号泣とまではいかないが、俺もそれなりに泣くのを堪えて映画を見ていた為皆が泣いているのを見ると貰い泣きしてしまいそうだ。
「はぁ……この後どうする?」
ハンカチで涙を拭きながらシズキが聞いてきた。
「美味しい物食べて帰ろう……うぅ」
「お腹いっぱい食べて幸せになろう……」
もう少し時間を開けてから聞いた方が良かったんじゃないだろうか。
最後にオシャレなお店でデザートを食べながら、4人が写った写真をそれぞれ撮ってSNSに上げることになった。
「ちょっ! なんで食べてる時の写真撮ってるの!?」
「マコちゃん可愛いんだも〜ん!」
「消して〜!!」
気づけば皆昨日よりも仲良くなっており、俺は自分が男だという事を忘れて楽しく話していた。
「こらこら、独り占めは良くないって。私にもその写真送ってアイちゃん」
「シズキまでっ……ってあぁっ! なんでその写真ツイートしてるの!?」
「静かに! 迷惑でしょ」
「あっ……すみません……ってなんで私が謝らなきゃいけないの……」
完全にアイにもオモチャにされてしまっている俺は、拗ねながらジュースを飲み干して氷をバリッと噛み砕いた。
「あっ、ワイルド〜」
「やっぱりマコちゃんカッコイイ〜」
氷を噛んだだけで弄られる俺はどうしたらいいんだ……。
「あ、そうそう皆に聞きたい事があるんだけど」
ずっとSNSを眺めていたシズキが思い出したように尋ねてきた。
「もうすぐ夏休みだけど、何か予定ある?」
夏休みか。予定なんて何一つないな。
「私はないよ」
「僕も」
「私もない」
するとシズキはニッコリ笑った。
「夏休み、男子も数名誘って旅行に行こうよ。私がお金払うからさ」
「旅行っ!? いいね!」
「良さそう! 私もお金払うよ」
りょ、旅行だと……? そんなの聞いてないんだが。
「マコちゃんも来る?」
「えっ……」
どうしようか悩んでいるとシズキに足を踏まれた。来い、という事だろう。
「じゃ、じゃあ行こうかな」
「決まり! 全部私に任せて!」
「豪華な旅館に泊めてね〜!」
旅館って事は、泊まるんだよな。その場合俺って1日中女装してないといけないのか?
メイク外したら絶対顔でバレると思うんだが、やっぱり辞めた方が……というか辞めないと俺が死ぬ。でも辞めても俺が死ぬ。
「シズキ……大丈夫なのか……?」
小声にシズキに耳打ちすると。
「任せて。メイクしたまま寝れる化粧品あげるから。それに化粧しててもバレないナチュラルメイクとか得意でしょ?」
「……ふ、風呂とかは?」
「別の時間帯に入ればいいでしょ? 良い旅館に貸し切りで泊まる予定だから、胸も着物の中にいつも付けてるブラとかしたまま過ごせば問題ないし」
旅館に貸し切り!?
「お、お前の家ってそんな金持ちだったのか……?」
「知らなかったの? 私のお母さんエリートよ」
全然知らなかった。家が普通だから普通の家庭だと思っていたのに、まさかそんな金持ちだったなんて……。
「とにかく私に任せて!」
「わ、分かった……」
もうシズキに全部任せた方が安心かもしれない。そう思い、俺は考えることをやめた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます