16話 皆で旅行へ
夏休みに入って数日が経過し、計画を整えたであろうシズキから旅行に行く予定日がSNSで送信された。
俺はその日までに必要な道具を購入し、旅行当日はバッチリとした女装で待ち合わせ場所の駅にやってきた。
そこには、シズキやアイとサクラ。そしてなんとトモキとその友達の男2人が集まっていた。
「マコ遅いわよ」
「ご、ごめん」
「うっひょ〜! 超可愛いじゃん!」
トモキの友達が興奮したように声を上げる。
終業式の日、夏休みに予定あるって行ってたけどこの事だったのか。つまりシズキは最初からトモキを誘うつもりだった、と……何考えてるんだ。
「マコちゃんも来たことだし、そろそろ行こうよシズキちゃん」
「そうだね。行こうか」
どうやらこれで全員らしく、俺達は電車が来るのを待って乗り込んだ。
トモキは静かに落ち着いた様子だが、確実にチラチラと俺の方を見ている。やはり本当に俺の事を好きになってしまったらしい。
「マコ、ちゃんと持ってきたでしょうね?」
「持ってきたよ……」
シズキに小さな声で聞かれて、バッグの中を見せる。
この前シズキに渡された異物達だ。これを何に使うのかは分からないが、シズキに任せれば大丈夫らしい。多分。
「旅館に到着したらそれ私に一旦預けてね。中の物のいくつかをマコのバッグの中に入れたままで」
「じゃあシズキが管理するの?」
「そういう事。あ、化粧品は持ってていいから」
やっぱりシズキに全部任せて大丈夫なようだ。心配する必要はないな。
電車にコトンコトンと揺られて、段々と眠くなってきてしまった。瞼が重くなり、気がつけば目を瞑って寝そうになっている。
「マコちゃん眠いの? 時間あるし眠っててもいいわよ」
「ん、じゃあ……寝る。到着したら起こして」
最近メイクの練習だったり買い物だったりで忙しかったからな。旅行中くらいは休んでも大丈夫だろう。
溜まっていた疲れによって、あっという間に深い眠りについた俺は電車に乗っている間1度も目を覚まさなかった。
「んん〜……?」
目を覚ますと何か浮遊感を感じて、目を開ける。
目の前に何かいるみたいだが、寝起きで視界がぼんやりとしており見えない。
「起きたか」
「……っ!?」
意識がはっきりしてくると、俺はトモキにお姫様抱っこされて歩いている事に気づいた。
「な、何してっ」
「揺すっても起きなかったから力がある俺が運んでるんだよ」
そう……なのか、ビックリした。確かにその判断は間違ってないな。
「もう起きたし……降ろしてもらっても大丈夫だよ?」
以前のように殴るの事のできない俺は、降ろしてくれるようお願いする。
「皆先に旅館に行ってるし、シズキがマコちゃんの荷物持ってってくれてるからゆっくり行こうか」
そういってトモキは俺を降ろしてくれたが、確かに周りには誰もいなくて荷物もない。
シズキめ、謀ったな。俺とトモキを2人きりにさせる為にわざわざ荷物を持って……いや俺が寝ていたのが悪いのか。もうなんでもかんでもシズキが関わっていると疑ってしまうな。
「っとと……」
寝起きだからなのか、地に足をつけて歩き始めた瞬間くらっとしてしまった。
「身体弱いって聞いたし、俺が運んでやってもいいよ」
「だ、大丈夫。ごめんね」
トモキなりに気を使ってくれてるんだろうけど、人に抱っこされるなんて親以外だと初めてで恥ずかしいんだ。
「旅館の道はこっちで合ってるの?」
「うん。シズキに教えてもらった。それよりマコちゃん」
「うん?」
横を歩いていたトモキが立ち止まった。
「……2人きりだから言うけど」
「う、うん」
なんだこの空気は……まさか俺はトモキに告白されるのか? されてしまうのか?
「俺マコちゃんの事好きになったみたいなんだ」
告白されてしまった……!
どう返事したらいい? 今シズキの助けはないぞ? で、でも俺ってトモキの事好きっていう嘘をシズキに付かれてるし……OKしないとダメなのか? いやいやもしOKしてしまったらそれはそれでヤバいって。
「シズキから聞いたよ。マコちゃんって実は弱いんだよね。普段は強がってるけど、色んな病気にかかったりして精神的に酷い状態だって」
「……」
確かそんな嘘も付いてたな。
俺はどう返事したら良いのか完全に分からなくなってしまい、ただ静かにトモキの話を聞いた。
「普段から人と接するの苦手なんでしょ? 何をするにも1人で、人と過ごす事が凄くストレスで。それでも無理して俺達と遊んでくれてるんだよね。分かるよ。だっていつも何かに怯えてるような顔してるもん」
「それは…………」
怯えてる顔っていうのは女装がバレないか、とかシズキに何されるだっていう恐怖心から来る顔なんだけど、何か都合良く解釈されているようだ。
「俺が守ってあげるし、マコちゃんの居場所は俺が作る。だから俺と付き合ってほしい」
「あっ…………えっと……」
そんな真剣な顔で言われても困る……俺は女装していて、トモキが思うような人間じゃないんだ。
もし俺の正体がマコトだってバレたら、それこそ本当にトモキから嫌われてしまう。俺の親友のトモキに嫌われるなんて嫌だ。
「そんな悲しい顔しないでよ。すぐに返事してとは頼まないからさ、俺はマコちゃんの事が好きって事を知った上で旅行中に過ごして、その中で答えを考えてくれたらいい」
「…………うん」
「それじゃ行こうか。皆待ってる」
トモキの正直な気持ちを伝えられた反面、俺はトモキの事を騙しているという罪悪感で泣きたくなってきた。
なんで俺はこんな事をしているのだろう。ただの趣味で遊んでいた女装が友達関係まで悩むことになるなんて……。
後でシズキに相談した方が良さそうだ。
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