4話 マコは病気持ち?
「失礼しま〜す。あ、この前俺殴った人だ」
「す、すみません」
トモキが部屋にやってくると、早速この前の事を弄ってきた。
普段は謝るようなな人間じゃないのだが、女装すると何故か気持ちが入るのか性格まで変わってしまう。
「2人ともしばらく自由に話してて。私買い物行ってくるから」
そういってシズキは部屋から出ていった。
クッションを膝の上に乗せてなるべく下半身を見られないようにし、目の前に座ったトモキに顔を見つめられないよう下を向く。
「"マコちゃんいいね? 指示通りに話すんだよ"」
シズキの声が聞こえる。
実は、シズキは隣の部屋でこの部屋にある隠しカメラから監視しているのだ。俺の耳には超小型のイヤホンが付けられており、耳の穴をしっかり覗き込まれない限りバレない優秀な物だ。
「"まず自己紹介して"」
「え、えっと……私マコっていいます」
「俺はトモキ。よろしく」
トモキは女と話す事に随分と慣れた様子で自己紹介を返してきた。
「マコちゃんって俺の事知ってる?」
「えっ?」
「"番犬って呼ばれてる事しか知らない、って伝えて"」
ああ、知ってる、っていうのはそういう事か。
「番犬って呼ばれてるっていう噂しか聞いた事はないです」
「そっか、じゃあ教えるよ。俺学校のヤンキーなんだ」
知ってる。知ってるけど、どう反応を返したら良いか分からない。
「ヤンキー……ですか?」
シズキからの指示もないので適当に聞き返してみる。
「そう、怖いよ」
「ヤンキーって喧嘩とかするんですよね」
「うんうん。人を怪我させたりする」
トモキは何故悪印象を与えるように喋るのだろうか。
「"トモキ君を警戒してない風に何か喋って"」
「私は別にヤンキーって怖くないですよ」
「あ、やっぱり?」
そういうとトモキはニコッと笑ってきた。普段あまり笑顔を見せないトモキが笑う所を見るのは久しぶりだ。
「それを君の口から聞きたかったんだよ〜、マコちゃんって身体鍛えてるよね。もしかしたら同じ感じの人なのかな〜って思ってさ」
「え、えぇっと……」
この場合女の子らしく否定した方が良いのだろうか。しかし身体を鍛えてるのは事実だし……シズキどうにかしてくれ!
「"身を守る為に鍛えてるけど喧嘩は好きじゃない"」
「み、身を守る為に少しだけ鍛えてますけど、喧嘩はあんまり好きじゃないんです」
「なるほどね。確かに、マコちゃんって美人だから怖い人達にすぐ襲われそう」
トモキに美人って言われると、普段とは違う嬉しさがあるな。
いつもは親友なのに、そんなトモキを騙しちゃってる感覚。なんと言えばいいのか分からないが、ドッキリに近いワクワク感を感じる。
しかし、今俺がやっているのはネタバラシ無しだ。ネタがバレれば俺は死ぬ。
「今シズキちゃんいないし、襲っちゃうかもよ?」
「"別に構わないって言って。ぷふっ"」
シズキの奴絶対遊んでやがる! ドッキリしてる気分だろあの野郎!
「全力で抵抗するので……」
ローター動かないよな、と心配しつつシズキの指示とは別の事を言うとイヤホンから「ごめんごめん」と聞こえてきた。
「ま、抵抗しても力で俺には適わないだろうけどね。安心して、何もしないから」
実際は俺の方が力が強いのだが、そこはトモキが俺の事を完全に女だと思い油断しているからだろう。
「"友達について聞いてみて"」
「トモキ……さんの友達って、どんな人が多いんですか? やっぱりヤンキーですか?」
「そりゃ勿論。騒がしい奴らが沢山いるよ」
お、俺の話とか聞きたいな。
「俺は学校で2番目に喧嘩強いんだけど、それより強い憧れの友達がいるんだ」
「へぇ〜」
「マコトっていって、マコちゃんと名前似てるけどマコト先輩は超怖くて強いんだよ」
な、なんか照れるな。しかし無表情を貫け!
「どんな人なんですか?」
「あ、もしかして興味ある?」
思わず前のめりになって質問してしまった。
──ブブブブブ
「っ……いっ、いえっ……」
しまった! 喧嘩に興味あるような素振りを見せたからシズキがスイッチオンにしたっ!!
「"1分耐えてね"」
「実はそういうの興味あるんでしょ? 分かるよ。マコト先輩は喧嘩で負けたことがないんだ」
「そ、そうなんっ……だ」
この刺激は不味い。なんとかクッションでローターの音が聞こえないように抑えて、俺について真剣に語るトモキの話を聞いた。
「"残り30秒"」
「うっ……んっ……」
「マコト先輩の凄い所はさ、どれだけ大勢かかってきても怯まず立ち向かって最後には必ず勝つのが凄いんだよ。俺はそういう所に憧れててさ」
強い刺激を感じながら、普段は絶対に聞けないようなトモキからのベタ褒めに笑みが零れそうになる。
しかし今はそんな場合じゃない。耐えられそうにない。
「"残り10秒"」
「マコちゃんどうしたの? もしかして本当に興味なかった?」
「いっ、いえっ……そんな訳っじゃっ……」
「体調悪い?」
こ、こっちに来るな! 今別の刺激を与えられたら我慢出来なくてっ……トモキの前でっ……。
「"5……"」
「顔赤いけど、熱でもある?」
「違っ……」
あと少しだけっ……4……3……2…………いっ……あっ、イクッッ……。
「っ──────っっっっ……」
その瞬間、親友の前で絶頂に達してしまったという変な興奮も合わさり身体がビクビクと痙攣する。
「んっっ……はぁっ……」
「マコちゃんどうしたの?」
「っ…………」
このままじゃ動けないし、それにこのままじゃ匂いでバレる。絶対絶命だ。
「ただいま〜……っ! マコちゃん大丈夫っ!?」
その時、ジュースの入った買い物袋を持って違和感無く入ってきたシズキが俺の腕を掴んで立ち上がらせた。
「俺何もしてないよ?」
「この症状……マコちゃん病気なの。トモキ君はちょっと待ってて」
と、シズキが勝手に嘘をついてそのまま部屋の外に連れ出された。
なんとか助かった、だろうか。
「早すぎるのよ」
「んな事言われたって……我慢出来ねぇよ……」
「とりあえずトイレに行きなさい」
トイレを借りて色々な処理を済ませた後、再びシズキと一緒に部屋に戻る。
「マコちゃん大丈夫?」
「う、うん」
シズキの上手な演技にフォローされつつベッドの上に座る。
「マコちゃんって何の病気なの?」
「てんかん、っていう病気でね、マコちゃんの場合はミオクロニー発作っていう突然全身が痙攣する病気なの」
勿論これは全部嘘なのだが、シズキは本当の事のようにスラスラと嘘を述べていった。
「突然起きるから持ってる者を落としちゃったりして、色々と大変なのよ」
「へぇ〜……マコちゃん大丈夫?」
どうやらさっきの俺の様子を見て、本当に心配しているようだ。
「大丈夫です。今のは座ってましたし……倒れる事もなかったので」
一時はどうなるかと思ったが、シズキがなんとか誤魔化してくれて本当に助かった。しかしいつかこの嘘がバレてしまいそうなのが心配だ。
「力強そうに見えるけど、意外とマコちゃんってそういう弱点があるんだね」
「トモキ君は弱点とか言ってるから常に喧嘩の事しか考えてないって思われるのよ。もう少し気使いというのを覚えなさい」
シズキに説教されるトモキはほんの少し申し訳なさそうな顔をしていた。こんなトモキを見るのも初めてだ。
色々と危なかったとはいえ、トモキをバッチリ騙せている事には満足感を感じていた。
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