3話 ボタン1つで
「マコト先輩、今日放課後ゲーセン行きませんか?」
「放課後? 別にいいけど……」
昼飯を食べているシズキを見ると、こちらを睨んでいた。
俺には毎日女装してシズキに新しい自撮りを送り続けるという義務がある。しかし放課後に別の予定を作ってしまうとシズキが楽しみにしている俺の女装自撮りをサボる事になってしまう。
「いや、やっぱり今日も無理だ。皆で楽しんでこい」
「そうですか。可愛い子いたのに勿体無いですね」
「……何? 可愛い子?」
可愛い子と聞いてそれに反応しない男がどこにいるだろうか。
「一昨日ゲームセンターでシズキと一緒にいた子が可愛かったんですよ」
「一昨日……シズキと……?」
それってもしかして、いやもしかしなくても……女装した俺?
「あ、トモキ君。その子トモキ君の事気になってるみたいよ」
「それ本当?」
「シズキ! ちょっと来てもらおうか!!」
シズキが急に変な事を言い始めたから、俺はすぐに立ち上がってシズキの腕を掴んで屋上に連れていった。
「……何? また告白?」
「違ぇよ! なんで……女装した俺がトモキの事気になってる事になってんだよ……」
大声で叫んだら誰かに聞かれそうな為、小声でシズキに話す。
「なんでってその方が面白そうじゃない」
「お前なぁ……俺は普通に女が好きなんだぞ?」
「今でも私の事好きなんでしょ?」
「うっ……そ、そうだけどよ」
するとシズキはニヤッと八重歯を見せながら笑った。
「尚更面白いじゃない。マコトとマコちゃんの反応」
「同一人物なんだけど……」
シズキに良いように玩具にされてしまっている。くそっ、なんで俺はこんな女を好きになってしまったんだ。
「決めた。今度マコちゃんとトモキ君を私の家に誘うわ」
「はっ!? お前何言ってっ」
「大丈夫よ。女装したマコトは本当に可愛いんだからバレないし」
何を考えているのか俺にはさっぱり理解できない。
「トモキと付き合えってのか?」
「そうよ?」
「…………は?」
さも当然の事を言っているかのように受け答えたシズキに間抜けな声で聞き返す。
そんな間抜けな俺の顔を見たシズキがクスッと笑うと、スマホの画面を見せてきた。
そこには「実はマコト君って女装が趣味なんだって。この前ゲームセンターで会ったあの子マコト君なんだよ」 と、SNSでトモキに向けての文章が書いてあった。
送信、というボタンを1回押すだけで俺が死ぬ恐ろしいその画面を見て、俺はシズキに土下座した。
「許してくれ……何でもするからトモキと付き合う事だけは勘弁してくれっ……」
「何でもって言ったわね?」
「ああ……トモキと付き合わなくていいなら何だってする」
「ふぅ〜ん?」
シズキはニヤニヤと、何かを企んだような笑みを浮かべた。
その日の放課後、早速女装した俺とトモキがシズキの家で会うことになった。
シズキの隣に住んでいる俺はトモキよりも先にシズキの部屋に上がり、ずっとソワソワしていた。
「お前……絶対頭おかしいよ」
「私ドSだから」
くっ……大体ドSと自称する奴は実はMだと思っていたのに、こいつは本物のSだ。
「泣きたい……」
何故俺がこんなにも弱々しくなっているのかというと、それはこの家に来てすぐの事だった。
◆◇◆◇◆
「学校でなんでもする、って言ったの覚えてる?」
「やっぱりなんでもはできない、って言ったらどうする?」
「その時はその時よ」
シズキはボタンを押す動作を見せて、俺に確実に恐怖を植え付けていった。
「男に二言は無いよね」
「くっ……そうだな」
「じゃあ使う道具はこれ」
そういってシズキが取り出しのは、ピンクの振動したローターにテープ。そしてコンドーム。
「……な……何を……」
あまりにも予想外な物が出てきて、俺は上手く喋れなくなってしまった。
「このローターをマコちゃんのココにテープ使って固定して、その上からコンドーム付けるのよ」
「いやいや! 当たり前みたいに言ってるけどそれ拷問だぞ!?」
更には俺は男だ。下手したら下半身を見られてトモキに男だとバレるかもしれない。
「私の手元にローターを動かすボタンがあるから、もしも女の子っぽくない言葉や動きをしたらすぐスイッチを入れるわ」
そういって再びボタンを押す動作を見せてきた。
もうその親指をクイッと曲げる動きがトラウマになりつつあるのだが……。
◆◇◆◇◆
こうして俺は今、下半身にとんでもない物を付けられてトモキが来るのを待っているのだ。
「既にスタートしてるからね。常に女の子らしく振る舞うこと。もしも女の子らしくなかったら」
「……はうっ!?」
「これを1分続けるからね」
「今何もしてねっ……してないでしょ!?」
「予行演習よ」
不味い、予想以上にコンドームで食い込んでるから刺激が強すぎる。
こんなの1分も続けられたら……あっという間に終わりだ。
──ピンポーン
「やっと来たね」
「っ……女の子らしく……女の子らしく振る舞えば全てOKなんだ……」
シズキがトモキを出迎えに行っている間、必死に自分に言い聞かせていた。
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