ひょっとこよ、こんにちは
私は今、ひょっとこになっている。冗談ではなく、言葉通りだ。
重たい身体を起こし、十畳の宴会場を抜け、何度か
ひと寝入りしたおかげか、酔いは
その晩は、フランスへ留学する友人の送迎会が
私は冷静な目でひょっとこを見つめていたのであるが、なるほど、良い出来である。世間に良いひょっとこと悪いひょっとこがあるならば、これは前者だ。
まずもって語るべきは目玉である。いわゆるひょっとこの黒目は大きく作られているのだが、これもご
ユーザビリティと芸術性のバランスが絶妙であり、それは口の部分にも表れている。湾曲しつつ突き出た口は刳り貫かれており、呼吸に差し支えることはない。更に、内部は使用者の口と密着するような仕組みになっており、ひょっとこの口に酒を注げばそのままごくりとやれる仕様だ。
口だけでは呼吸に支障があるやもしれぬと考えたのか、鼻の部分には大変細かい穴が幾つも開いており、鼻呼吸も万全といった具合である。
いやはや、感服の至り。
その他幾らでも発見しようと思えば美点はありそうなものだが、そう長々と感心してはいられない程度に私は醒めていた。
宴会のヒーローは終了、ただの青白い青年に戻る時だと言い聞かせ、私はひょっとこに手をかけた。
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