第15話 走れ!(×10)走れ!走れ!走れ!

 十和田は、櫻木に礼を言い通話を切ると、スマートホンのナビアプリを選択、これまでに移動して、発見された場所をマーキングして行く。


「新人。電波の基本は?」


 不意に聞かれた月宮後輩は、途惑いつつも、基本を思い起こす。


「えー……電波は、電磁気を帯びた波です。波紋のように広がります。電波は、水に吸収されるので、水中では、伝わりにくいです」


「他は?」


「他? 硝子のように、透明な物は通りますが、コンクリートや石の壁は反射します」


「それだ! つまり、極端に狭いコンクリートや石の壁に挟まれると、信号が反射して、外に届かず、測定器からしたら、消えたように思える」


 十和田の推測に、月宮後輩は的まとを得た、回答を放つ。


「先輩…………機械のスイッチを切れば、普通、電波は消えます」


「ぁあ!?」


 一瞬、ゆとり教育特有の呑気な発言に、イラ立つが、冷静に考えれば、当たり前の意見だと気付き、声のトーンを落とす。


「あぁ――――……そうだな…………今は、細かい話は、いいんだよ!」


 彼は再び、スマートホンに目を落とす。

 線路から見て、南側の住宅地、縦方向に並ぶ道の列を、またぐようにマーカーが付いて行く。

 画面を覗こうとする後輩にも、見せ説明する。


「見ろ、電波をキャッチした場所だ」


「住宅を、またぐように出現してますね」


「だから、これを素直に結んでやれば……」


 彼は、画面のマーカー達を指でなぞると、マーカー同士はラインで結ばれ、住宅を突き抜けるように線を引いた。


 後輩がラインを見て、怪訝な顔になる。


「先輩。これでいいんですか?」


「あぁ、で、ラインの先に電波は出現するはずだ……」


 画面で見ると、ラインの先は、住宅地に囲まれた公園の辺り。


 二人の電波監視官が、歩みを進めると、十和田が予測する出現地点に到着した。


 秋に色を染められた公園は、静かで閑散とし、風で流され地面を這いずる乾いた葉は、耳をくすぐる、こそばゆい笑い声のように聞こえる。


 数値は、公園の茂みから、違法電波が発っせられていることを示した。

 測定器の赴くまま、十和田は足を進め、後輩もそれに付いて行く。

 十和田は茂みに近付き、身体を屈め、発信源に測定器を向けると、反応がピークに達した。


 茂みの中に“何か”が隠れ、日陰で蠢いている。


 彼は後輩に測定器を預け、茂みを覗くと“何か”も、こちらを凝視していた。

 恐る恐る手を伸ばすと、それは茂みから飛び出し、顔を覆って視界を奪った。


「痛ててててて!」


 後輩は、背面にのけ反った先輩監視官を見て、パニックになる。

 十和田は大声を上げて、顔に張り付く物体を引きはがす。

 彼は両手で掴んだ“何か”を、改めて見ると、襲われた恐怖は消え、顔に希望が満ちる。


「――――みーつっけた――――」

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