第14話 走れ!(×10)走れ!走れ!

「よく見ろ! 停止信号は、カーブを曲がったさらに先だ。曲がる前の線路には、信号らしい物は無い」


 アパート越しに、赤色灯に切り替わった、停止信号が見える。

 後輩は状況を呑み込めずに問う。


「何か危険でも、あるんですか?」


「今、止まっている電車の周辺で、通信障害が起きている。あの電車が、無線で止まっている位置を示しても、後か来る電車に連絡が伝わっているかわからない」


 後輩も、言わんとすることが見えて来たのか、顔が曇る。


「でも、電車は事故が起きないように、いくつものセーフティを作っているんじゃ?」


「あぁ……だが、それでも不備は起きる。二〇一三年、十一月に通勤ラッシュの電車で、運転中の鉄道無線に不明の基地局が混信、原因不明の妨害は数分続いた。大事には至らなかったが、もし、これが次の駅でホームから人が転落し、その連絡が届かなかったとしたら? もし先頭の電車が時間調整の為、停車して、そこへ連絡が届かなかった、後続の車両が突っ込んだら?」


「そんなことが……」


「起きないとは言い切れない。事故の因果は、何処にあるか解らないからな」


 スマートホンが鳴り、十和田が出ると、不法無線局探索車、DEURASデューラス-Mで監視している、櫻木からだった。


『もしもし?』


「聞こえてる。どうした?」


『監視対象が、君達のいる路地から、住宅を抜けて大通りに出た』


「は?」


 彼は周辺を見回す。

 並ぶ住宅が、壁のようの立ちはだかり、車が一区画抜け出るような道はない。

 住宅同士の隙間は、人一人が通れるくらいのものだ。

 しかも、駐車している車など近くにない。


 十和田は礼を述べ、通話を切る。

 動揺する先輩監視官を見て、後輩が聞く。


「どうしたんですか?」


「監視対象が、反対側の大通りへ出た」


「反対側? 住宅を抜けてですか?」


「としか、思えないだろ」


「なら対象は、車を降りて、徒歩で移動してるってことですか? 無線機材を持って?」


「にしても、この狭い、住宅のスキ間を抜けるのは、一苦労だ。それに元々、車を使ってなかったのかも……」


 十和田は瞬間、考えを巡らせる。


 この状況はただの偶然か? それとも意図した妨害か? だとしたら、考えられる可能性は、電車の無線を悪戯いたずらに妨害し、世間を騒がせたい愉快犯。

 もしくは、世の中に不満を持ち、独自の社会正義を示そうとする、思想犯だ。 


 彼は、考えるよりも足を動かし、後輩について来るよう呼びかけた。

 住宅の隙間を抜けて、反対側の道路へ出て周辺を探索していると、再びスマートホンが鳴る。


『エターナル。信号が消えた』


「……見失ったか」 


 彼は、立ち並ぶ住宅を見まわすと、今度は、人が通れるようなスペースが無い事を確認する。


 ――――対象は忽然と消えた――――。


 後輩が、不安な面持ちで聞く。


「消えたんですか?」


「馬鹿言うな。電波は元々見えないんだ。消えてるも同然だろ」


 十和田は、しきりに顎を摩り、考えを巡らせる。

 そして、考えがまとまったのか、目の前の住宅に歩みよると、石造りやコンクリートの壁を舐めるように見回して、高さを確認した。


「まさか……」

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