第12話 走れ!(×10)

 後輩の運転で、目的地へ向かう、不法無線局探索車、DEURAS《デューラス》-M。

 その車内では、十和田と同期が情報を整理していた。


「櫻木。電波の半径は?」


「およそ、三百メートルだ」


「広くないなぁ……何が混信してんだ? CB、トランシーバー、業務用無線……」


 後輩が十和田に話かける。


「昨日、摘発した軽トラックが原因じゃないんですか?」


「俺達、電波監視官は見えない物を追ってるんだ。そう簡単に答えは出ねえぇよ……あの軽トラは、普段は渋滞を回避する為、申告者の地域とは、逆方面の北側を抜け道として使ってるらしんだ。

今回は、渋滞してなかったから、抜け道を使わずに道なりに走っていたら、申告者の無線にたまたま混線したらしい」


「じゃぁ、振り出しですか?」


「残念だが、そういうことだ」


 銀のワゴン車が、昨日と同じ場所に到着する。

 線路より南側で、申告者の家から約二百メートル圏内の住宅地へ来ると、車内のDEURASで監視を行う、同期の櫻木を残し、十和田が月宮後輩にレーザー銃の形をした計測器を持つよう指示。


 二人は車両から降りて周辺を探索した。


 後輩が計測器の先を、北へ南へ東へ西と、あらゆる方角に向けるが、液晶画面の数値は周辺地域の認可が下りた無線電波を拾うだけで、探している違法無線らしき物は現れない。


 反応が現れない測定器に飽きた十和田は、後輩に話し掛け時間を潰す。


「なぁ、お前は何で、この仕事を選んだ?」


 彼女は振り向き、目線を宙に仰いで、記憶が下りて来るのを待ってから話始めた。


「父が、電子機器や無線を専門にした修理屋だったので、子供のころから機械には慣れ親しんできました。父の影響で、大学も工学系を専攻して、将来は技術者を目指していたんですけど、今はネットが主流なので、時代に取り残された無線機の数が減ると共に、店の仕事が減るのは自然な流れで、つぶれるのは、あっと言う間でした」


「世知辛いね」十和田は気休めを言う。


「在学中、父の店がつぶれたことを機に、安定した職を考えるようになって、公務員を目指すことにしたんです。電波監理局なら、親しんだ無線機器や工学技術の知識が生かせると思い勉強してたんですけど、私の頭じゃ、地方公務員試験がやっとで……」


 彼女は、その時の苦労を思い出しているのか、肩を落とし言葉を区切る。


「でも私、この仕事を選んでよかったと思ってます。

開局手続きや周知で、今も無線を利用して興味を持つ人に出会えたり、違法電波の調査は、探偵みたいでワクワクします」


「へぇ~、真面目だねぇ。こんな地味な仕事に、そこまで思い入れがあるとは――――彼氏いないだろ?」


 後輩は、彼の言葉に眉を上ずらせ、小さく舌打ちした。

 十和田は、それを聞こえないふりをして先へ進む。

 そして、待ちわびた結果が現れ、後輩が呼び止める。


「―———―———―———―———エターナル先輩!」


 十和田は呼ばれた方へ振り向くと、眉寄せながら彼女に近づき、文句を言う。


「変な呼び方するな! 何か見つけたのか?」


「もっと、東の方角みたいです」


「よし、新人。貸せ!」


 十和田は、後輩から測定器を奪い取ると少年のようにはしゃぎ、足を運ぶ。

 月宮後輩は呆れながら、その足に付いていった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る