第11話 走れ!走れ!走れ!走れ!走れ!走れ!走れ!走れ!走れ!

 室内は違法電波の報告をまとめる、書類書きや無線に対して、今後の対策を検討する企画作成などで皆、黙々とデスクで作業をしていた。

 働き盛りの中年層が多く、現場で豊富な経験と知識を持ち合わせたベテラン揃い。

 

 この中で、三十歳の十和田と同期の櫻木は、まだまだ若手だ。

 ここ数年でやっと、違法電波の調査を任されるようになった。

 それもあり、十和田は違法無線の摘発には意欲を示している。


 業務に集中する室内は、電子機器の唸り声とパソコンのキーを弾く音で溢れ、脈絡のないオーケストラを奏でていた。

 その無機質なオーケストラに、一際目立つ楽器が突如加わる。

 電話が鳴り、十和田の向い席に座る、同期の櫻木が受話器を取る。


「はい、こちら関東総合通信局です……はい……はい……」


 彼は受話器から聞こえる相談者の声を聞くと、次第に声のトーンが沈む。


「それは申し訳ありませんでした……はい……早急に対応致します……はい……それでは失礼します」


 受話器を置くと、櫻木はこちらに顔を向け内容を伝達する。


「え~、三日前に相談を持ちかけたかけた、アマチュア無線の利用者からです。以前、無線妨害を受けているとの内容でしたが、今だに無線の混線が続いているので、対応はどうなっているのでしょうか? との話しです」


 それを聞いて、隣の月宮後輩は途惑う。


「え? それはこの前、摘発した軽トラックで解決したんじゃ……」


 後輩が困惑の表情でこちらを見る。

 十和田は別段、驚くことも無く、自然と両方の眉を吊り上げ、溜息を漏らし気持ちをリセットした。


 次の日――――十和田監視官は、電波監理部の隣にある、部屋の扉を開けた。


 入口に取り付けられた金属の表札に“電波監視室”と表記され、中に入るとNASAのコンピューターを思わせる、操作卓が置いてあった。


 遠隔方位測定設備――――DEURAS《デューラス》‐D。


 DEURASとは”無許可の無線局を探知する“という英文「Detect,Unlicensed,Radio,Stations」を部分的に合わせた略称である。


 総務省が誇る、この操作卓は、全国五か所に設置された受信設備“センサ局”と、遠距離操作をするセンサ局で構成され、百キロヘルツから三十メガヘルツの船舶、航行の援助等に使用される、長波帯から国際放送等に使われる短波帯までの監視を行う。

  

 例えば、都内に発信元不明の電波が、周辺の電波設備を妨害していた場合。

 五か所から発するセンサ局の信号が、発信元を数学のX軸やY軸の図のように、線と線で囲んで交わる部分を特定し、キャッチした違法電波の情報をDEURAS‐Dのモニターに映す仕組みだ。


 この交わる部分が、発信元の滞在している可能性が高い場所となる。

 このシステムは効率的な監視を行う為、混信が有っても、有効な方位測定を可能とする、最先端技術を導入した総通局のハイテクマシン。


 不法無線局探索車、DEURAS‐Mはこの操作卓を移動用に小型化し、車両に搭載したものだ。


 電波監視官はDEURASの情報を元に、現地に駆け付け、大きな測定器を持ち歩き足で発信元を探していく。


 十和田は、違法電波の報告が朝に集中していることを踏まえ、出勤して直ぐ得た情報をDEURAS‐Dの操作卓に入力する。

 モニターには東京都内の地図が現れ、幾つもの赤いラインが縦、横、斜めに入りこみ入力した数値に合わせてラインが切り替わる。

 ラインが交わる部分は、円で囲まれ、発信元不明の電波をキャッチした。

 十和田は特定された場所の住所を控える。


 ――――やっぱり昨日と同じ調査範囲だ。


 彼は電波監視室を出ると、課長のデスクに小走りで向かい報告する。


「課長! 移動監視を行います」


「解りました。たの……」


 十和田監視官は、課長の返事も待たずに室内を出た。

 課長は後を追い掛けようとする、月宮後輩と同期の櫻木に、心底不安な表情を浮かべ言う。


「十和田が暴走しないよう、本当に頼むぞ」


 二人は苦笑いしがら返事をしたのだった。

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