第6話 走れ!走れ!走れ!走れ!
「性格の悪い利用者が、周波数を合わせて近隣のテレビに混線させて嫌がらせしたり、アマチュア無線を使う利用者の通信を妨害したりするんだ。まぁ、その時、一般的に使われている機械は“CB無線”だな」
CB無線こと市民ラジオは、一般に広く普及しハムの愛称で呼ばれる無線機。
携帯電話が普及する以前の昭和五〇年代に、生産はピークに達する。
アメリカが日本の製品に対抗し生産した無線は、それまでの二三チャンネルから四〇チャンネルへ大幅に増え、購入者の無線利用は飽和状態となる。
無線の開局は、当時の電波監理局に申請書を出し、開局に伴うコールサインを得なければならない為、順番待ちが必要だった。
しかしCB無線事態は手軽ですぐ使える為、順番を待ってまで開局を待つのは
新しいおもちゃはすぐ使ってみたくなるものだ。
利用者達は申請を出さず、無許可で通信し始めた。
その結果、許可を得たアマチュア無線利用者の通信を妨害したり、家庭のテレビ受信を阻害する等の被害が相次いだ。
時には無線妨害が原因でご近所トラブルに発展する始末。
違法無線とは、社会生活に置いて無視できない事案なのだ。
十和田は肩を落としながら話しを続ける。
「しかし、申告者が言う老婆の声と、あの家の婆さんが無線機を使ってた事を考えると、混信の原因が、あの家だと思ったんだがぁ……ハズレかもな」
「違うんですか?」
「申告者の地域は踏切より先の南側に位置している。北側にある婆さんの家とは真反対で、距離も五百メートル離れてるからな」
十和田は老婆から押収したトランシーバーを見せ続ける。
「このタイプの海外製トランシーバーは、せいぜい通信範囲が三百メートルぐらいだ。申告者の地域までは届かないだろうよ。原因は婆さんの家じゃ無そうだ」
しばらく歩くと、目的の場所へ戻って来た。
何の変哲のない銀色のワゴン車に見えるが、電波監視官の移動監視を迅速に行う覆面車両。
十和田は助手席に乗ると、後輩は測定器のスイッチを切り、ワゴン車の運転席に乗る。
車内には移動監視を行う設備が搭載されており、後部座席には空間の半分を占めるコンピューターが設置され、まるで小さな秘密基地のように思える。
秘密基地から男性職員が声を掛けて来た。
「エターナル。どうだ?」
十和田が答える。
「空振りだな」
十和田と同じ年に入庁した、同期の桜こと櫻木。
短髪で眼鏡を掛けた彼は、ひょうきん者で調子のいい男だ。
十和田の結果を聞いて同期が区切りを着ける。
「じゃぁ、今日はここまでだな。次、行くぞ」
合図を聞いた後輩は、測定器を後部座席に置いて車を発進させる。
行政機関の車両にはそれぞれ名前が有る。
警察ならパトカー。
消防なら消防車や救急車。
自衛隊なら戦車。
そして、総通局の電波監理部なら不法無線局探索車、DEURAS《デューラス》‐M。
通常、移動監視を行う際は運転手、ナビゲーター、計器を操作する監視官の三人で当たる。
今回は電波探索で使うコンピューター、DEURASを櫻木が操作し、運転を新人の月宮が経路を覚えさせる為に担当。
道順を指示する為に、先輩の十和田がナビゲーターになる。
次の探索場所まで距離がある為、移動時間の間延びを埋めるように後輩が話題を作る。
「先輩。なんでエターナル何ですか?」
「アダ名は適当に付けるモンだから理由なんてねぇだろ」
ぶっきら棒に返す十和田に対し、話したくてウズウズしている、同期の櫻木が答える。
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