第95話 絶叫
彼女の絶叫で、部屋のガラス窓は一斉に砕け散り、テーブルにあったお茶会道具は四方八方に飛び、壁や床に叩きつけられると、大きな音をたてて割れた。
私は、両耳を抑えてうずくまる。
鼓膜が破れて、両耳から血が吹き出そうだ。
彼女は2体の人形を左腕で抱えたまま、右肩を抑える。
「なんで」
血走った目で私を睨む。
「なんでなんでなんで、ひどいことするの?」
足でテーブルを蹴り飛ばし、飛んできたテーブルの角が私の額に当たる。激痛が走り、吹き出た血が床にこぼれ落ちる。
「動くな!!!」
大きな怒声と共に、主任が部屋に踏み込む。
彼女は突然入ってきた男の手に万年筆が握られているのを見るや、大きな叫び声をあげる。
主任は吹き飛び、廊下を飛んでいく。
玄関扉に身体を強くぶつける鈍い音が響く。
「ひどいよ、ひどいよ」
血走った目からは涙が滲み、両頬を流れる。
彼女は右肩を庇い、よろけながら立ち上がる。
片腕には人形を強く抱いている。
切れた額を押さえうずくまる私の前に立ち、私を見下ろす。
「悪いお姉ちゃんはいらない」
お腹を蹴りあげられた。
臓器が痛み、うずくまったまま嗚咽する。
「もう会いたくない。バイバイ」
「待って」
痛む身体を堪え、去ろうとする足を掴む。
彼女は道端の汚物でも見るような目で、私を見下ろす。
「なに?」
「お茶会に付き合ったでしょ。解き方を教えて」
吐き気を堪え、力を入れて口から声を絞り出す。
彼女は足を引き、私の手を振り払う。
「メイは楽しくお茶会をしたらって約束したでしょ」
もう一度、お腹を蹴りあげられる。
胃が逆流し、口から血の混じった吐瀉物が吹き出る。
その様子が面白いのか、彼女は声を出して笑う。
「でも、メイはいじわるな人じゃないから、特別に教えてあげる」
両膝を折り、私のそばに顔を近づける。
「ニンジン」
見上げる私に、彼女は答えた。
「あんなの食べたら、嫌でも魔法が解けちゃう」
彼女は立ち上がると、砕け散ったガラス戸へ向かう。
歩くたびに床のガラス片を踏みつける音が鳴る。
彼女が立ち止まると、背中から大きな翼が生えた。
白い天使のような翼を広げると、抜け落ちた数枚の羽が宙を舞う。
「小夜ちゃんも早く愛する人を見つけた方が良いよ」
翼の生えた背中越しに、彼女は言った。
「次の世界がもうすぐ来るから」
大きな翼をはためかせ、彼女は部屋から去って行った。
外では応援で駆けつけた先輩が大声で「UFOだ!! UFOだぁぁ!!!」と住宅街に響き渡る声で叫んでいるのが聞える。
私はそこで気を失った。
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